第八章−5:「闇の中で進むべき道を」
あたりはすっかり暗くなり、信号機の赤や青が孤独に瞬いている。街灯もほとんど機能せず、コンビニや商店の光もない。月明かりと星の煌めきがかろうじて視界を確保させるなか、春日たちは立ち止まっていた。
「いやー……さすがに何も見えないと、不安になるねぇ」
吉田が、冗談とも本気ともつかぬ口調で言った。
「スマホもほぼ圏外。この闇、方向感覚なくすな」
春日は小さく首を回しながら呟く。
「街灯が無いのは分かってたけど、ここまでとは思わなかった」
カナの声には、少しだけ疲れが滲んでいた。
それぞれが口にする不安に、トーコは口を挟まない。ただ、三人を見守るように一歩下がって佇んでいた。
春日がふとトーコを見やる。「……あのさ、どこか明るいとこ、知ってたりする?」
ー「違法行為または労働行為に該当する要素が含まれない限り、進路の決定に干渉する権限はありません」
トーコは表情一つ変えず、いつもどおりの口調で答えた。
「ほんと融通きかないんだから」
カナは呆れながらも笑った。笑いが生まれたことで、場の空気が少しだけ柔らかくなる。
沈黙が数十秒ほど流れたその時だった。
「――あれ、なんか、あっち光ってない?」
吉田が進行方向左手、丘の向こうを指差した。
遠くに、ぽつりと浮かぶ明かりがある。山間部にしては明るさがあり、数軒の灯りというよりは、もっと大きな施設のような輪郭。こんな非常時に点いているとなれば、単なる民家ではなさそうだ。
「行ってみよう」
春日が言った。
「いいね。何かあるかもしれないし、灯りがあるってだけで、救われる感じがするよ」
吉田も頷く。
「ちょっと、急ぎ足で行こうか。もし医療とかだったら、何かあったとき助けを求められるかもしれないし」
カナは言いながら、歩を進めた。
三人は会話の端々に希望を織り込みながら、ほのかな光を目指して歩き始める。その足取りに、不安は残るが、それ以上に「目的地がある」ことがもたらす安心感があった。
その背後で、トーコも静かに動き出す。何も語らず、何も促さず。ただ黙って、彼らの選択を記録し、寄り添うように。
目指す先に何があるのか、彼らはまだ知らない。ただ、暗闇の中にぽつんと浮かぶその灯りが、今の彼らには道標だった。




