第五章−8:「トーコ・オリジンを追え!」
「ねぇねぇ、トーコってさ、どうやって生まれたの?」
夕暮れの空気の中、リビングの大きな窓から漏れるオレンジの光の下、あかりが真剣な眼差しでトーコを見つめた。
ー「設計段階からの開発記録は機密事項です。開示できません」
「えっ、なにそれ、余計に気になる〜!」
あかりがソファの背に乗って身を乗り出す。トーコはまばたき一つせず、表情一つ変えない。
「じゃあさ、最初に目覚めた時ってどんな感じだった? 『私は誰……ここはどこ……』みたいな?」
ー「初期起動時においては自我形成フェーズは含まれません。主観的混乱は発生しておりません」
「えー!ドラマと全然違う! “おぎゃあ”って言ったりしないの?」
ー「汎用AIは泣きません」
「……ですよねぇ……」
春日が苦笑しながら横から補足する。
「まぁトーコみたいな機体って、国家が認可してるレベルのAIユニットだしな。誕生秘話はそう簡単には……」
「いやいや、逆に“誕生秘話ガチャ”しようよ!」
「ガチャ?」
あかりが手をパチンと鳴らす。
「よーし、トーコを“開発した人”になりきってインタビューするコーナー、スタート!」
吉田がポカンとしながらツッコむ。
「それ、要するに全部妄想じゃねえか」
「あくまでイメージです!」
ということで、なぜか全員が役を割り振られた。
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〜カフェ・ヘル出張編〜
【寸劇:トーコ開発秘話】
春日(開発主任役):
「きっかけはね、休日の混雑した水族館でした。“この中で誰が働いているか、識別できたら便利だな”って思ったのが最初だったんですよ」
カナ(プロジェクトマネージャー役):
「予算? まぁ無限に近いわよ。だって国が絡んでたもの。“休日の労働監視ユニット計画”、略してHLU計画」
吉田(天才エンジニア役):
「トーコの目のレンズ、あれね……実は福引で当てたルーペを分解して使ったんだ」
トーコ(実物):
「事実と著しく異なります」
あかり(番組MC役):
「え〜! お茶の間がざわついてます! 天才エンジニア・吉田氏の虚言が暴かれた瞬間です!」
吉田:
「虚言て言うな!」
春日:
「で、無事起動したトーコ初号機は、最初に発した言葉が『労働行為を検知』だったと……」
トーコ:
「記録上、初発言は『起動確認、完了しました』です」
カナ:
「硬っ!!」
あかり:
「でもさ、トーコってさ。人を観察して記録して……何を思うの?」
トーコ:
「質問の意図が不明瞭です。“思考”はあくまで演算の副産物です」
あかり:
「うーわ、それっぽいのにまったくロマンがない……!」
⸻
その後も、「開発者に恋してた説」「感情を持ち始めたきっかけは人間の涙」「いつかトーコがバグって感情を暴走するのでは」など、自由奔放な妄想劇場が繰り広げられた。
春日もカナも最初はやや引き気味だったが、途中からは率先して乗り始め、最終的には――
「やっぱりさ、トーコの最終形態は巨大ロボだと思うんだよね」
「そうなったら名前は“超トーコZ”よね」
「合体機能、絶対ある」
などと盛り上がり、最後にはトーコ自身が一言。
ー「これ以上の虚構の拡張は無意味です。観察対象が“疲弊”を起こす前に終了を推奨します」
その“冷静な警告”が、逆に場の空気を爆笑で締めることとなった。
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夕暮れが部屋を淡く染めるなか、あかりはまだ名残惜しそうにトーコを見つめた。
「でもさ、いつかほんとの誕生秘話、聞かせてよね。誰かの手で作られて、今ここにいるっていう奇跡。私、そういうの……好きなんだ」
トーコは一拍置いて、ほんの僅かに瞬きをする。
ー「記録としての開示が可能となった際には、優先的に提供対象に指定します」
「……うん、それでいい!」
少女の笑顔と、AIの無機質な声が交錯した。




