第五章−2:「見知らぬ来訪者たちと、午後のティータイム」
「うわっ、ほんとに来た!……って、あ、ごめん。ちょっと調子に乗った」
2階のベランダから声をかけた少女――芹沢あかりは、階下の春日、吉田、カナの三人が実際に門を開けて敷地内に入ってきたことに少し驚いたようだった。先ほどまでの、いわゆる“お嬢様口調”はどこへやら。次に口を開いた彼女の声色は、典型的な高校生女子のものだった。
「ていうか、やば、マジでこの暇すぎる午後、救世主現るって感じ。あたし、芹沢あかりっていいます。お菓子いっぱいあるんで、お茶してってください」
春日は苦笑しながら「なんか、想像と違ったね」とぽつり。吉田は周囲の庭の手入れの良さや植木の種類をさりげなく観察していたが、ふと漏らす。
「……豪邸だな。金持ちだってのに、いやみがない。あの子、いい家庭で育ったんだろうな」
「ね。うちの常連だったら、お金持ちさんってもっと尖った感じ多かったけど。あの子、素直でいい子っぽいわ」
そう言ってカナは、何の警戒心も抱かずに門の中へと足を進めていた。
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玄関扉はあかりの指示を受けた執事の男性によって開けられた。年の頃は五十代後半といった風貌の人物で、控えめな口調で「いらっしゃいませ。どうぞお入りください」とだけ述べ、さっと脇へ引いた。
屋内もまた、必要以上に豪華すぎるわけではなく、むしろ落ち着いた品のあるインテリアで整っていた。
リビングに通されると、あかりは既にソファに座っており、「おっそーい」とおどけた口調で出迎える。
「このへんじゃさ、今日まともに話せる人がマジでいなくて。使用人も基本、必要最低限しかしゃべらないし。家族は別荘行ってるし。マジ、暇なのよー」
「なるほど。つまり、今日のおもてなしは暇つぶしとセットで成立ってわけだ」
と、春日がどこか呆れたように言うと、あかりはにっと笑った。
「そうそう、察しがいいじゃん。話すのも動くのも、全部リハビリだと思って!ちゃんと準備してあるからさ。はい、メニュー!」
差し出された手描きのメニュー表には、紅茶の種類から手作りらしきクッキーやマドレーヌの名前までびっしりと書かれていた。
「……本気だな」
吉田が目を細め、思わず呟く。カナもテーブル上の焼き菓子のクオリティに目を見張る。
「これ、全部ひとりで用意したの?」
「んー、まあ。焼いたのは昨日だけどね。材料は揃ってるし、オーブンも2台あるし。道具さえあればわりとなんとかなるよ。さ、座って座って!トーコさんもどうぞ!」
ー「あ、私は結構です」
AIユニット・トーコは律儀に断ったが、少女はどこか不満げに首をかしげた。
「んー、見た目は人っぽいのに、なんか損だねえ。あ、でもしゃべるだけでも十分面白いし。あとでちょっとだけでいいから質問させて!」
トーコは一瞬黙り、それから首を縦に振った。
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午後の光が柔らかく差し込むリビングで、三人と一体がテーブルを囲み、思いがけず穏やかでにぎやかな時間が流れ始めた。
だが、芹沢あかりの無邪気な微笑の裏で、彼女が今日という「無労働日」をどう過ごすつもりなのか、まだ誰も深くは考えていなかった。




