第五章:天の声は2階から
「そこのお三方!」
通りの静けさを破ったのは、意外にも上からの声だった。三人と一体のAIトーコが顔を上げると、目に飛び込んできたのは少しばかり豪奢な造りの一軒家。その二階のベランダから、パジャマに近いワンピース姿の少女が身を乗り出していた。手には色とりどりのスカーフ、足元にはひらひらとしたぬいぐるみ。
「ちょっと来てーっ!ヒマすぎて死にそうなの!」
あまりに唐突で脈絡のない呼びかけだったが、カナが眉を上げた。
「……あの子、助けを求めてるようには見えないわね?」
「どっちかっていうと――」と春日が肩をすくめる。「遊び相手を募集してるように見えるけど」
吉田は少しだけ笑った。「こういう時にスルーできないのが、今日の俺たちなんだろうな。行ってみるか」
その一軒家は、目を惹くほど大きくはないが、随所に高級感のある造りが施されていた。門柱にはセキュリティ認証システムらしき装置があり、植え込みには洒落たオーナメント。だが妙なことに――家の空気が「鼻につかない」。豪奢だが、嫌味がないのだ。
「お金持ちの家ってもっとこう……ピリピリしてると思ってたけど」カナがぽつり。
「いい意味で“緩い”ね、あの子も」と春日。
「緩すぎてちょっと心配だが……俺はこういうの、嫌いじゃない」吉田も苦笑いを浮かべた。
門扉が音もなく開くと、まるでそれが“来客歓迎”を意味していたかのように、二階の少女が満面の笑みで手を振った。
「上がってきて!お茶とお菓子、すーっごいのあるよ!」
春日がトーコに目をやると、いつもの無表情な声でひとこと。
「緊急事態ではありません。介入の必要なしと判断します」
それを受け、カナはちょっとした冒険に胸を弾ませながら言った。
「じゃ、行ってみよっか。“高貴なる暇つぶし”のお供に」
そして三人とトーコは、今日という“無労働日”に起こる、少し奇妙でちょっと楽しい一幕へと足を踏み入れるのだった――。




