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第四章−2:「温もりの中で」

炊き出し所の裏手、折りたたみテーブルの上で蒸気を上げる鍋から、味噌汁の香りが漂っていた。立ち上る湯気は、朝露がまだ乾ききらない空気にすっと溶けていく。


「……私、ちょっと行ってくる」

カナが言った。


恭平と吉田は、それを止めることはしなかった。ただ、吉田が少し口を開きかけたが、何も言わず口をつぐんだ。


カナは、整然と作業を進めているボランティアの人々に向かって歩いていった。軽装の中年女性が一人、鍋の火元を見ていたが、カナが近づくと笑顔で振り返った。


「手伝えること、ありますか?」

その一言に女性は少し驚いた表情を浮かべ、それから笑った。


「そりゃあ、助かるわ。ちょうど味噌汁がもう一鍋必要なところだったの」


無理のない自然な流れだった。カナは即座にその手順を理解し、黙って鍋を持ち上げ、仕込みに入った。


彼女の手つきは慣れていた。調理道具を扱う姿は、どこか“店の人間”としての長年の経験を感じさせた。鍋の下準備、火加減、水の量、具材の順番。手順の一つ一つに、彼女なりのリズムが宿っていた。


「…やっぱり、こうしてると落ち着く」


誰に話しかけるでもなく、ぽつりとカナが呟く。


しばらくして、恭平と吉田も一言二言言葉を交わした後、ボランティアの一人に尋ねていた。

「俺ら、素人ですけど、何か手伝えることあったら言ってください」


「力仕事、大歓迎よ! ちょっと米の袋、あそこまで運んでもらえる?」


吉田が二つ返事で米袋を持ち上げると、見かけよりも重かったらしく、思わずよろめいた。恭平はそれを見て小さく笑った。


トーコは少し離れた場所から、その様子を観察していた。

人々が汗をかきながらも笑い合うこの場所には、“労働”という言葉が持つ硬質な響きとはまるで無縁の空気が漂っていた。


トーコの処理系には、それを「非制度的協働行為による精神的安定の回復傾向」として一時記録された。


その時、カナがふと手を止め、ボランティアの一人にお茶を差し出されたのを受け取る。

「あの……これ、ただの休日ですよね。なのに、皆さんはどうして――」


ボランティアの女性は、少し笑って答えた。

「“何かしたい”って思う気持ちも、休みの使い方のひとつだから。働くのとはちょっと違うけど、ね」


カナは、ふっと目を伏せた。けれど、その目元はどこか緩んでいた。


彼女の中に沈んでいた「休日」という言葉が、少しずつ輪郭を変えていく。

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