おまけ1.ドキドキお宅訪問!《前篇》
ぶーっぶーっぶーっ
初めてのお泊まりから数日が経ったとある平日。
いつものように勝利宅で一緒に夕飯を作っていると、勝利のスマホが震えた。
「課長、お電話ですか?」
「・・・だな。こんな忙しい時間に・・・」
手を洗ってからスマホの画面を見た勝利は、「げ」と呟いてそのままそっとスマホを置く。
「え、いいんですか?」
「いい。気にするな」
「はあ・・・」
しばらくすると音が止んだ。
と思ったら、またすぐに音が再開する。
「・・・課長、大丈夫ですか、あれ。もし私がいない方がいいなら、」
「ダメ。てるは帰るな。あれは気にするな。しつこいセールスの電話みたいなもんだから」
「・・・でも、一回出て断った方が、掛けてこないんじゃないですか?」
話をしている間も、鳴っては止まり、止まっては鳴り、を繰り返している。次第に、その間隔が短くなってきた。
「え、メール?」
「・・・いや、これ、ワン切りだ・・・あのバカ夫婦・・・!」
ブッ。ぷつ。ブッ。ぷつ。ブッ。ぷつ。ブッ。ぷつ。ブッ。ぷつ。ブッ。ぷつ。
「か、課長・・・なんだか怖いんですけど・・・!」
「あぁあもう!何だよ何の用だよ!」
『あ、やっと出たわ~!しかも私の時に!文利さん、私の勝ちよ♪』
『うわー負けちゃったかー残念。じゃあ、君の言うことをひとつ、何でも聞くよ。もっとも、君のお願いなら、何個でも聞いちゃうんだけどね』
『文利さん・・・!』
『香蓮・・・!』
「おいコラそこのバカ夫婦!こっちの邪魔しといて電話口でイチャついてんじゃねぇよ!」
『あ、かっちゃんのこと忘れてたわ。やっほーかっちゃん元気?』
「・・・今、元気じゃなくなった・・・」
ぐったりする勝利の周りで、てるはどうしたらいいのかとあわあわしている。
『じゃあさくっと本題ねー。あなた、お正月にてるちゃん連れてきてくれるのよね?』
「は?」
『あ、別にお正月じゃなくてもいいの。いつでも。土日でも、平日でも』
「いや、平日は俺もてるも仕事あるし。二人まとめては休めないな、さすがに」
『あ、じゃあかっちゃんはお仕事してて。てるちゃんだけ来てもらえれば、』
「ぜってぇやらないからなそんなこと」
『じゃあ早く日程決めてよ~。このままなあなあに流そうとしてるでしょ!』
図星を突かれ、勝利は「うぐっ」と詰まるような声を出した。さすがに母は鋭い。
「・・・ちょっと待って・・・てるに聞く」
『あらやだ、てるちゃんと一緒だったの?二人の時間の邪魔してごめんねー!』
本当だよ、という言葉を飲み込んだ。おそらく、言ったところで余計話が長くなるだけだ。
「・・・てる、うちの親、と多分姉も、てるに会いたがってるんだけど」
「へ!?私ですか!?」
いきなり話を振られ、てるは困惑している。
「ああ。正月とか、その後の土日とか、いつでもいいから連れて来いって聞かないんだ・・・あ、断ってくれて構わないからな」
「いえ、行きます!か、課長がよければ、ですけど・・・」
「当たり前のこと聞くな。てるはどこに出しても恥ずかしくない、俺の大切な彼女だ。・・・まあ・・・実家は、疲れると思うけど・・・」
「あの、でも、お正月はちょっと・・・私も実家に帰ってるし・・・ま、満月もあるので・・・」
恥ずかしそうに声を小さくして言うてるを、今すぐ抱きしめたい衝動に駆られたが、目の前の案件を可及的速やかに処理することにする。
イチャイチャするのは憂いを取っ払った後だ。
「分かってる。その後の三連休は?何か予定ある?」
「いえ、問題ないです。じゃあ、そこで。泊まりですか?」
「相手する体力がもたない。日帰りで十分だ」
勝利の実家は、電車で30分ほどしか離れていない。実家から会社に通えるほどの距離だ。
それでも、一人暮らしがしたくて今の部屋を借りている。
「三連休のどこかで日帰りで行くから」
『分かったわ~。どの日にするか決まったら教えてね!お母さん、全力でおもてなしするから!』
「いやむしろ普通でいいから特別なことしないで・・・って切れてる」
「課長?」
「てる・・・悪いな。余計な予定を増やして・・・」
「余計なんかじゃないですよ。ちょっと緊張するけど、楽しみです、課長のご家族に会うの。・・・あ、でも、どんな服装で行けばいいのか・・・」
「普段着でいい。かしこまる必要はないんだから」
「そうは言われても・・・!」
「じゃあてる、一緒に服買いに、」
「あ!杏さんに相談しよう!買った服もご存じだし、いいアドバイスいただけるかも!」
それならば早速、と携帯を取り出したてるを見て、勝利は心で涙した。
なぜ自分はいつも、てるの服選びができないのだろう、そういう運命なのだろうか、と。
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三連休の初日に、てると勝利は出かけることにした。
勝利の実家は最寄駅から徒歩3分。
そしてその最寄り駅は、高級住宅街が連なることで有名な駅だった。
歩くだけで、このエリアに漂う高級感が、てるに場違いであると囁いてくる。
そんな気持ちを全く感じさせず、勝利はてるの手を引いてさくさくと歩いていく。もちろん、てるのペースに合わせてはくれているが。
「ここ」
「ここ・・・」
意外なことに、明らかに広い庭がある邸宅とか、お屋敷と言った感じではない。てるの実家よりは綺麗で広くて新しそうな様子だが、それでも周りの家と比べると、こじんまりして見える。
「小さいだろ。と言っても、ここら辺の家が大きすぎるんだけどな。自分たちの手が届く大きさの家がいいって両親が言ってたからこの大きさにしたらしい。小さい頃、うちはちっぽけな家だと思っていたけど、大人になって知ったよ。うちは平均的か、ちょっと上くらいの大きさだったんだって」
「そうですね、狭くはないです。でもよかったです。周りのおうちみたいな感じだったら、私、足が竦んで入れないところでした」
「そんなことになったらまた抱えてあげようか」
「う、それは遠慮します・・・ご両親からの第一印象最悪じゃないですか」
「抱えること自体はいいんだ?じゃあ今度、二人きりの時に、」
「はいはい二人とも!いつまでラブラブ会話繰り広げてんのよ!!」
急に大きな声が背後からかかり、てるはびくっと体を震わせた。
「・・・姉さん、驚くからその登場の仕方はやめてくれないか」
「アンタが気付かないのがいけないんでしょう?あと、多分会話筒抜けだから。中の二人に」
「は!?」
「防犯のために玄関のインターホンカメラを録画機能付きにしたんだけどね。ほら、起動してる」
香澄が顎で指した先にあるインターホンには、確かにカメラがついているが、動いているかどうかまでは分からない。
『やぁだー香澄ちゃん!ばらさないでよぉいいところだったのに!』
『そうだぞ香澄!勝利があんな甘ーい声で愛を囁くなんて・・・!』
「はいはい、十分録れたでしょ?あ、てるちゃん久しぶりー。ちょっと見ない間にずいぶん綺麗になったわね!」
「あ、お久しぶりです香澄さん。この前は、お世話になりました」
『ちょっと、ずるいわよぉー香澄ちゃんだけ挨拶して!お母さんもてるちゃんに挨拶したい!』
『お父さんもしたいぞ!』
「だったらさっさとドア開ければいいだろ・・・何なんだ、うちの両親は・・・」
「か、課長、あまり気にしない方が・・・!」
がっくりと肩を落とした勝利の背を、ポンポンとなだめている間に赤家宅のドアが開かれ、無事(?)中に通されたのだった。




