おまけ1.ドキドキお宅訪問!《後篇》
カードゲーム【大富豪(または大貧民)】ネタが出てきます。
ちょこっとですが。
あまり知らなくても問題ありません。
ちなみに作者は、【大貧民】とずっと呼んでますが、舞台が赤家宅なので、今回はあえての【大富豪】呼びです。
家こそコンパクトにまとまってはいるが、調度品などはそこはかとなく高級な感じがした。こんな土地柄に住んでいるのだ、やはりお金持ちなのだろう。
テーブルに案内され、自己紹介した後、てるが手土産を渡すとたいそう喜んでくれた。勝利の家族はみな甘い物が好きだと言うので、家の近くにある個人経営の洋菓子屋さんの焼き菓子詰め合わせを持ってきたのだ。デパートの菓子店などは食べ慣れているのではないかと思ってそうしたが、そこの洋菓子屋さんはネットのお取り寄せで人気の店だったらしい。
「気を遣ってくれてありがとうね、てるちゃん。でも次からはいらないわよ~!これからしょっちゅう来ることになるだろうし!」
「ならない。なんでそうなるんだ」
「え~!だって女子会とかしたいもんお母さん!てるちゃんとしたいの!」
「させないから。絶対させないから」
即却下する勝利と、諦めない母、香蓮との言い合いに、てるはおろおろする。先日からこんなことばかりである。
「そうだぞ香蓮。女子会だったらお父さん混じれないじゃないか。『家族会』にしてもらわないと」
「なんで混じること前提なんだ。どうしてうちの両親とてるで出かけるんだよ、おかしいだろうが」
「おかしくないぞ!なんたって家族になるんだからな!あ、勝利、これ」
父、文利が急にA4サイズの封筒を出してきたので勝利はとりあえず受け取る。
「何だよ、これ」
「いや、すぐに出せるように準備しておこうかと、ね、香蓮」
「そうそう。ね、文利さん」
勝利が封筒を開けると、白っぽい容姿が出てきた。
一番上には、『婚姻届』の文字が・・・。
「えぇええええ!!?」
「気が早いわぁああ!」
二人同時に叫んだてると勝利を、「あらあら、仲が良いわねー」と香蓮は呑気に見守っている。
「ほら、ちゃんと証人欄も埋めといたから。大変だったんだぞ?誰が証人になるかでひと悶着あって。本当は二つとも埋めたかったんだが、てるちゃんの方からも誰か出したいんじゃないかと思って、皆で勝負して決めたんだ」
勝利がぺらりとめくると、半分に折られている後ろ側が見えた。確かに証人欄は一つ埋まっているが。
「『赤家亘』って・・・どなたですか?」
「何でここで義兄さん!?」
「え?にいさん??」
「だってさぁ、あいつってば腕力無いくせして、カードゲームはなぜか異常に強いのよ。もう、私たち惨敗よ、惨敗」
「だからって・・・そもそも何で参加するんだあの人は・・・?しかもカードゲームで決めたのかよ・・・」
「『大富豪』よ?5戦終わって、その時に大富豪にいた人が証人になれるって言う。惜しかったのよー、4戦目までは、私が大富豪だったんだから。それなのにあいつ、最後の最後で革命起こして人を都落ちさせやがって・・・!」
ぶつぶつと恨み言を言う香澄の横で、勝利にこっそり聞いたてるは驚いた。香澄は既婚者らしい。そして夫の名前が、『赤家亘』なのだと。
「香澄さん、赤家姓だったので、ご結婚されてないのかと・・・」
「あーそれね。コイツが吸血しない宣言したから、結婚もしないだろうってなってね。一応、うちは名家だから、名前を残さなきゃいけないのよ。だから、婿を取ったわけ」
さらりと『名家』と言っているが、名のある家だったらしい。道理で金持ちなわけだ。
「で、当の義兄さんはどうしたの?」
「え?勝てないくせに毎夜勝負挑んでくるから、潰してきたわ、ベッドで。まったく、何度抱きつぶされれば気が済むのかしらね。技磨く前に、体力つけて出直してきてほしいわ」
「てる聞くな耳が腐る」
勝利に両耳を塞がれたが、ほとんど聞こえてしまった後だ。
「課長?香澄さんは何か格闘技でもされてるんですか?旦那さんもご一緒に」
「うっわてるちゃんそれ天然?可愛い・・・。あのね、今のは、」
「解説するな聞かせるな離れろ」
「何よ勝利。夫婦の営みとしては当たり前のことじゃない!愛する二人がすることなんて決まってるでしょうが。あんたたちだってしてんでしょ?」
「黙秘権を行使する」
その言葉を聞いて、香澄がひとの悪い笑みを浮かべた。
「ふぅ~ん・・・もうしたんだ」
「なんでそうなるんだよ」
「アンタ、昔っから隠し事があるとすぐ黙るじゃない。で、やってない時はやってないって、ちゃんと否定するもの。つまり、そう言うことでしょ」
「・・・くっ・・・」
「だからほら、私たちと同じじゃない?」
「姉さんたちのはアブノーマルな感じが強すぎるんだよ!ってか、家族のそんな話聞きたくもないわ!」
「私たちがアブノーマルかどうか、てるちゃんにじっくり話聞いて判断してもらおうじゃないの」
「だから喋んなっての!!」
両耳は塞がれたまま、頭上でぎゃいぎゃいと言い合いをされて、てるはおとなしくしているしかない。
「ほらほら二人とも、その辺にしておきなさい。てるちゃんが困っているじゃないか。ほらてるちゃん、こっちおいで。お義父さんとお話しよう」
「何どさくさに紛れて連れ出そうとしてるんだよ」
「そうよぉ文利さんたら!ねぇてるちゃん、こっちに可愛い服があるんだけど、着ないからもらってくれないかしら?箪笥の肥やしになって困ってるのよね~」
「何どさくさに紛れて服与えようとしてるんだよ」
姉と言い合いをしている間にてるを両親にとられそうになり、勝利は早くも体力がつきかけている。
誰にも渡さないという意思を込めて、自分が座っている膝の上にてるを抱え、閉じ込めるように両手を前に回した。
「か、課長!やめてくださいよ恥ずかしいです!」
「ダメ。もう絶対ダメ。離したら取られる。俺のてるなのに・・・」
「もう!物みたいに言わないでくださいよ」
「ダメ・・・?だって、俺はてるのものなんだから、それでお相子だろ?それとも、俺はてるのじゃないの・・・?」
「あああもう!その【叱られ犬】モードやめてくださいよぅ!」
最近よく出るようになった、勝利の【叱られ犬】に、てるはとても弱かった。仕方なく、体の向きを変えて、一生懸命腕を伸ばし、立っていたら絶対に届かない頭をなでなでする。
「わ、私は、課長のものですけど、そういうのは、ふ、二人きりの時に言ってほしい、です」
「てる・・・」
突然、てるを抱えたまま勝利が立ち上がった。
「うわっ!」
「帰るぞ」
「・・・え?」
「今すぐ帰る。父さん母さん、また」
「はいはーい、またねー。服はかっちゃんのうちに送っておくわね~」
「帰り道、気を付けるんだぞ」
「てるちゃん、今度お義姉さんと遊ぼうね!」
「却下。それじゃ」
そう言うが早いか、荷物とてるの靴を持ち、勝利はそのまま駅に向かってダッシュした。
「え、え、お、お邪魔しましたぁあああ!」
まともに挨拶もできないまま、てるは帰宅することとなった。
その後、てるの残りの連休がどうなったかと言うのは・・・おそらく、皆さまの想像通りだった、と言うことを記しておく。
「ちょっと見た?あの勝利の締まりのない顔」
「でろでろだったわね~。あのかっちゃんが」
「溶けそうだったな。あの勝利が」
「よかったわね、てるちゃんと出会って」
「本当に。『一人寂しく燃え尽き症候群からのさびしい老後コース』が回避されたわ~」
「『老人ホームで誰とも慣れ合わず偏屈頑固な厄介爺さんコース』も回避されたね」
「「「早く、てるちゃん嫁に来ないかな~」」」




