第九話 ちょっと声かけただけやで
フジバカマを植えよう!
ある日のあらぎ島。
六匹がいつものように作業をしていると、マシンガントークおばちゃんが、ものすごい勢いでやってきた。
「なあ、あんたら! フジバカマ植えへん?」
突然の提案だった。
レッドが顔を上げる。
「フジバカマ?」
「そう! フジバカマ! いっぱい植えたら、アサギマダラが来るんやって!」
おばちゃんは、すでにやる気満々だった。
「アサギマダラが来たら、ええやろ? きれいやでぇ。写真も撮れるし!」
ブルーがうなずく。
「それは、いいですね」
「やろ? ほんなら決まり!」
話が早い。
「でも、フジバカマの苗って、そんなにたくさんあるんですか?」
イエローが尋ねる。
「そこは任せとき!」
おばちゃんは胸を張った。
ただし、植える場所はあらぎ島ではない。
「島の田んぼに植えたらあかんで。景色もあるし、田んぼの邪魔になるからな」
おばちゃんが選んだのは、あらぎ島から少し離れた、人里側の空き地だった。
「ここならええやろ!」
六匹もそこへ苗を植えることになった。
そして、その日の夕方。
まず近所の人が、苗を持ってきた。
「少しやけど、うちにあるから使ってー」
「ありがとう!」
翌日。
別の人がやってきた。
「○○さんから聞いたで。フジバカマいるんやろ?」
「いるいる!」
さらに翌日。
隣の集落からも届いた。
「うちにも増えたやつがあるから、持ってきたわ」
六匹は顔を見合わせた。
「……増えてない?」
ホワイトが呟いた。
ところが、それで終わらなかった。
「まだ来るでー!」
おばちゃんが叫ぶ。
「え?」
遠くから車がやってくる。
荷台には、またフジバカマの苗。
「隣の村の人が持ってきてくれたんやって!」
「隣の村!?」
翌日には、さらに遠い集落から。
その翌日には、県内の別の場所から。
そして――。
「宅配便でーす!」
「……宅配便?」
グリーンが首をかしげる。
箱を開けると、中には丁寧に包まれたフジバカマの苗。
送り主は、かなり遠い場所だった。
レッドが苗を見つめる。
「……おばちゃん」
「ん?」
「知り合い、何人おるん?」
「知らんわぁ。いっぱいおるで?」
おばちゃんは、あっけらかんとしている。
その後も苗は届いた。
誰かが誰かに声をかけ、その人がまた別の誰かに声をかける。
気がつけば、あらぎ島から遠く離れた場所からまで苗が集まっていた。
「……これ、もう全国から来てない?」
イエローが呟く。
「そうかもしれんなぁ」
おばちゃんは笑っている。
「みんな親切やなぁ!」
「いやいやいや!」
六匹の声がそろった。
こうして、あらぎ島の外れの空き地には、ものすごい数のフジバカマが集まった。
最初は小さな花壇を作るつもりだった。
ところが――。
「……これ、花壇?」
ホワイトが呟く。
目の前には、植える場所が足りないほどの苗。
「花壇というより……」
グリーンが辺りを見回す。
「花畑ですね」
「よっしゃー! 植えるでー!」
おばちゃんの号令が飛ぶ。
六匹は一斉に動き出した。
一本ずつ、丁寧に植えていく。
そしてしばらくすると――。
空き地だった場所は、一面のフジバカマで埋め尽くされていた。
「すごいな……」
レッドが呟く。
「これ、ほんまにおばちゃんの一声から始まったんか?」
「おばちゃん、すごいね」
イエローが笑う。
「何言うてんの。みんな親切なんやって!」
本人は本気でそう思っているらしい。
そして、しばらく経ったある日のこと。
フジバカマの花園に、ひらひらと何かが舞い降りた。
「……あれ?」
ブルーが立ち止まる。
淡い色の羽が、花の上でゆっくりと動いている。
「アサギマダラだ」
六匹が一斉に振り向いた。
「ほんまや!」
「来たー!」
おばちゃんが大喜びする。
「ほら見てみぃ! 来たやろー!」
ブルーは静かにカメラを構えた。
そして、一枚。
花の上で羽を休めるアサギマダラを撮った。
「きれいですね」
その一言に、みんなが笑った。
おばちゃんは満足そうに腕を組む。
「せやろ? やっぱり花畑はええなぁ!」
レッドが苦笑する。
「いや……」
「ん?」
「一番すごいの、おばちゃんの人脈やと思うけど」
「あははは! そんな大げさな!」
その日も、あらぎ島にはおばちゃんの笑い声が響いていた。
そしてフジバカマの花園には、今日もひらひらとアサギマダラが舞っている。
――どうやら、あらぎ島に新しい名所ができたようだ。
あとがき
今回は、あらぎ島にちょっとした「あるもの」を呼んでみよう、というお話です。
……のはずだったんですが。
書いているうちに、なぜかマシンガントークおばちゃんが話の中心に入り込み、どんどん話が大きくなっていきました。
恐るべし、おばちゃん効果。
果たして「あらぎ島」に何がやって来るのか。
ぜひ本編でお楽しみください。




