第18話 お兄様は堕落しました
雨はすっかり上がり、あらぎ島には気持ちのええ青空が広がっていた。
「ええ天気やなあ!」
レッドが伸びをした。
「昨日は一日、よう遊んだな」
ブルーがうなずく。
「せやけど、何して遊んだんやったっけ?」
グリーンが首をかしげた。
「トランプやろ?」
イエローが答える。
「そのあと、ボードゲームもしたで」
ピンクが思い出す。
「ほんで、ゲーム機もやったな」
ホワイトが付け加えた。
「……なんで、そんなに遊んだん?」
全員が黙った。
「……知らん」
レッドが答えた。
「まあ、楽しかったからええやん!」
イエローの一言で、話は終わった。
そのときだった。
「……あの」
どこからか、小さな声が聞こえた。
「ん?」
全員が周囲を見回す。
「……あのー」
「誰か呼んだ?」
ブルーが聞いた。
「呼んでへんで」
「……いつになったら、私を開けてくれるんですか?」
「…………は?」
全員の動きが止まった。
「今、なんか聞こえた?」
レッドが聞く。
「聞こえた」
グリーンが答える。
「どこから?」
「……外ちゃう?」
ホワイトが窓の外をのぞいた。
そして、庭に置かれた木箱を見つけた。
「あ」
「……あ」
全員が窓に集まった。
昨日、雨の中をドンブラコと流れてきた、あの箱だった。
「うわっ! 忘れとった!」
レッドが叫んだ。
「ほんまや! なんで昨日のうちに取りに行かんかったんよ!」
グリーンが頭を抱えた。
「誰が取りに行くか決まらんかったからやろ」
ブルーが冷静に答えた。
「ほんで、ゲーム始めたんやったな」
ピンクが思い出した。
「……なんでゲーム始めたんやったっけ?」
イエローが首をかしげた。
「もうええわ!」
レッドがツッコんだ。
その間にも、箱の中から声がする。
「聞こえてますよ」
全員が飛び上がった。
「箱がしゃべったああああ!」
「爆発するんちゃうか!?」
「いや、呪いの箱かもしれん!」
「昨日、開けんで正解やったんちゃう!?」
大騒ぎする恐竜たち。
すると――
ガタン!
箱のふたが内側から開いた。
「……やっと出られます」
中から現れたのは、小さな緑色のカエル型ロボットだった。
丸い目に、大きな口。
お腹には黒い丸型スピーカー。
赤い大きな靴を履いている。
ケロ助とよく似た姿だった。
ただし、どこか洗練された印象がある。
ロボットは箱から軽々と飛び出し、姿勢を正した。
「はじめまして。私、ケロ助の妹です」
「……妹ぉ!?」
ケロ助が叫んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! ボク、妹なんかおらんで!」
「います」
「いや、知らんし!」
「製造記録に登録されています」
「製造記録ぅ!?」
ケロ助は頭を抱えた。
ピンクが妹ロボットの前にしゃがみ込む。
「えっと……ほんまにケロちゃんの妹なん?」
「はい。型式、製造番号、設計系統、すべて確認済みです」
「……ケロちゃん、妹おったんやなあ」
ピンクがケロ助を振り返る。
「いやいやいや! ボクが一番びっくりしとるんやけど!」
妹ロボットは一礼した。
「ちなみに、この箱を発送したのも私です」
全員が固まった。
「……自分で送ったんかい!!」
見事に声がそろった。
レッドが箱を指さした。
「なんで、わざわざ雨の中を流れてきたんよ!」
「お兄ちゃんに会うためです」
「もっと普通に来いよ!」
ケロ助のツッコミが庭に響いた。
「配送経路を計算した結果、この方法が最も印象に残ると判断しました」
ブルーが感心したようにうなずく。
「なるほど。合理的だな」
「どこが合理的なんよ!」
ケロ助が叫ぶ。
「しかも、昨日からずっと箱の中で待っていたんか?」
グリーンが聞いた。
「はい」
「腹減らへんの?」
イエローが聞いた。
「充電式ですので、食事は必要ありません」
「……ええなあ」
イエローがつぶやいた。
「そこ、うらやましがるとこちゃうやろ!」
レッドがツッコんだ。
妹ロボットは、改めてケロ助を見た。
じーっ。
ケロ助も見返す。
「……なんや?」
「お兄ちゃん」
「なんよ?」
「聞いていたより……」
ケロ助が身構えた。
「より?」
妹ロボットは少し考えた。
「堕落していますね」
「やっぱり言うんかい!!」
ケロ助がひっくり返りそうになった。
「堕落って、ケロちゃんは毎日ちゃんと頑張ってるで!」
ピンクがすかさず口を挟んだ。
妹ロボットはピンクに向き直る。
「あなたが、ピンクさんですね」
「そうやけど?」
「お兄ちゃんがお世話になっています」
「いやいや、こっちがケロちゃんに助けてもろてるんやで」
ピンクは笑った。
「……ただし」
妹ロボットが続けた。
「最近の活動記録を見る限り、ゲームへの参加時間が著しく増加しています」
「なっ……!」
ケロ助が固まった。
「また、バイク関連の技術以外については、学習効率が低下している可能性があります」
「ちょっと待て! 誰がそんな記録見せたんよ!」
「通信履歴から推測しました」
ブルーが口を挟んだ。
「ハッキングか?」
「正規のアクセスです」
「……それは厄介だな」
ブルーが妙に納得した。
「ブルー、納得せんでええ!」
ケロ助が叫んだ。
妹ロボットは淡々と続ける。
「お兄ちゃん。今日から私が、生活習慣の改善を――」
「いらん!」
「学習計画の管理を――」
「いらんて!」
「バイク技術以外の能力向上を――」
「最後のだけちょっと気になるけど、やっぱりいらん!」
全員が笑った。
妹ロボットは首をかしげた。
「……理解できません。性能向上を拒否する理由がありません」
ホワイトが、のんびりと口を開いた。
「妹ちゃんも、ゲームしたらええんちゃう?」
「ゲーム?」
「せや。おもろいで」
妹ロボットは数秒間、沈黙した。
「……興味があります」
ケロ助が目を見開いた。
「おい、まさか……」
妹ロボットは、すっと顔を上げた。
「では、全員の能力を測定できるゲームを提案します」
「おお!」
ブルーが身を乗り出した。
「どんなゲームや?」
妹ロボットは笑顔で答えた。
「私が全員に勝つまで終わらないゲームです」
「それ、ゲームちゃうやろ!!」
ケロ助の叫びが、あらぎ島に響き渡った。
こうして、ケロ助の妹が加わったソーリュージャーの一日は、またしても騒がしく始まった。
なお、庭にはまだ、びしょ濡れの木箱が転がっていた。
誰も片づける気はないらしい。




