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第16話 消えた相棒 〜世紀の大事件(?)〜

朝のあらぎ島。


「どうしよう、どうしよう……ケロちゃんがおらんの!」


ピンクは目に涙をため、落ち着かない様子で行ったり来たり。今にも泣き出しそうだ。


「ピンク、とりあえず落ち着け!」


レッドが声をかける。


「またどこか散歩に行ってるんちゃう?」


「でも、どこにもおらんの!」


ピンクは今にも泣きそうな顔で、手に持ったカードを差し出した。


そこには、大きな文字でこう書かれていた。


『怪盗参上』


「……なんや、これ?」


レッドがカードをのぞき込む。ほかの恐竜たちも集まってきた。


「怪盗って……まさか、ケロちゃんが誘拐されたんかも!?」


ピンクの言葉に、みんなの表情が変わった。


挿絵(By みてみん)


「しかし、なんでケロ助なんや?」


グリーンが首をひねる。


「そもそも、ケロ助を誘拐して何の得があるんや?」


ブルーは腕を組み、考え込んだ。


「ケロ助はAIロボットや。自分で考えて話すだけやなく、本を読んで知識を増やし、学習していく」


「せやな。こないだも分厚い本を読んどったな」


レッドが思い出したように言った。


「つまり、学習を重ねれば、今よりもっと高度なAIに進化する可能性がある」


ブルーの目が鋭くなった。


「もし、世界中の情報を自在に扱い、あらゆるシステムを制御できるほど進化したら……」


「世界征服も可能っちゅうことか!?」


イエローが目を見開いた。


「そういうことや」


ブルーは重々しくうなずいた。


「世界を支配できる、唯一無二のAIロボット……」


恐竜たちの顔から、笑みが消えた。


「ほんなら、世界中の悪の組織がケロ助を狙ってるんちゃうか!?」


イエローが声を上げる。


「すでに、あらぎ島に集結している可能性もある」


ブルーの言葉に、みんなは周囲を見回した。


のどかな田園風景。遠くで鳥が鳴いている。


いつもと何ひとつ変わらない。


だが、恐竜たちの目には、世界を揺るがす陰謀の舞台に見え始めていた。


「待てよ。怪盗といえば……モーリス・ルブラン?」


「作者やないか!」


グリーンのツッコミが飛ぶ。


「つまり、その作品に出てくる世界的な大怪盗……!」


レッドが、はっと顔を上げた。


「そんな大物が、なぜケロ助を?」


「悪の組織に奪われる前に、自分が保護したんかもしれん」


ブルーが真顔で推理する。


「怪盗が保護?」


「そこが怪盗の奥深さや!」


「そういうもんなん!?」


グリーンの声が、あらぎ島に響いた。


そのとき、ふとレッドが思い出したように言った。


「そういえば、柳生先生も見かけへんな」


ケロ助を造ったのは柳生先生だ。もし世界征服が可能なAIの設計者だと知られたら、先生まで狙われるのではないか。


「まさか、先生まで誘拐されたんか!?」


「設計図を狙われた可能性もある」


ブルーがうなずく。


「事態は、思っていた以上に深刻かもしれない」


誰もが息をのんだ。


「……探すぞ!」


レッドの号令で、恐竜たちは一斉に駆け出した。


***


あらぎ島の道を、恐竜たちが手分けして探し回る。


畦道をのぞき、倉庫の裏を確認し、出会った町の人にも声をかけた。


「ケロ助を見かけませんでしたか?」


「ああ、そういえば。見慣れんワンボックスが柳生先生の研究所のほうへ走っていくのを見たで」


その言葉に、恐竜たちは顔を見合わせた。


「ワンボックス……」


「複数人で動いとるんか!」


「いよいよ国際的な組織の可能性が……!」


誰も、その車を見たわけではない。


それでも、疑惑は確信へと変わりつつあった。


そこへ、私服姿の男が歩いてきた。


「すみません。この辺りで人を探しているんですが」


男が警察手帳を見せる。


恐竜たちの目が、一斉に輝いた。


「えっ!? あの世界的な怪盗を追ってきたんですか!?」


「は? いや、私は……」


「まさか、インターポールの銭……」


ホワイトが、はっと口を押さえた。


「……いや、そこは言えないですよね?」


「何の話ですか!?」


男の声が裏返った。


「なるほど……極秘捜査なんやな」


レッドが深刻そうにうなずく。


「違います! 私は別件で指名手配犯を捜しているんです!」


「別件……ということにしておきたいんやな」


グリーンが、気の毒そうに男を見た。


「だから、違うって言ってるでしょう!」


男は頭を抱えた。


「ちなみに、何人くらいで動いてるんですか?」


ブルーが真顔で尋ねる。


「何の人数です!?」


「アメリカの組織ですか? それともイギリス?」


「知りませんよ!」


「FBIも動いてるんか?」


「もう勘弁してください!」


男は警察手帳をしまうと、足早に去っていった。


恐竜たちは、その後ろ姿をじっと見送った。


「……何も話せんほどの極秘捜査か」


レッドがつぶやく。


「これは、本格的にヤバいな」


ブルーも神妙な顔でうなずいた。


***


日が傾き、あらぎ島が夕焼けに染まるころ。


恐竜たちは疲れ果て、研究所近くの道端に集まっていた。


「結局、手がかりはワンボックスだけか……」


グリーンが肩を落とす。


そのとき。


「ただいまー!」


聞き慣れた声がした。


振り向くと、柳生先生がケロ助を連れて、のんびり歩いてくるではないか。


「「「えええええっ!?」」」


恐竜たちは飛び上がった。


「先生! 無事やったんですか!?」


「ケロ助! 解放されたんか!?」


「どこに監禁されとったんや!?」


質問が一斉に飛び交う。


柳生先生は、きょとんとした。


「監禁? 何の話だ?」


「怪盗に誘拐されたんやろ! 世界中の悪の組織がケロ助を狙って……!」


「ええっ? いや、今日は研究所でケロ助のメンテナンスをしていただけだが」


あまりにも普通の返答だった。


恐竜たちは、ぴたりと黙り込んだ。


ケロ助が首をかしげる。


「朝、ホワイトにも言うたやろ? 今日は先生とこでメンテナンスするって」


全員の視線が、ゆっくりとホワイトに集まった。


「……あ」


ホワイトは、気まずそうに目をそらした。


「言われたような……」


「ホワイトォォォォ!!」


あらぎ島に、恐竜たちの絶叫が響き渡った。


「じゃあ、このカードは何やったん!?」


レッドが『怪盗参上』のカードを掲げる。


それを見たケロ助が、ぽんと手を打った。


「ああ、それや!」


「何か知っとるんか!?」


「僕が読んどった『怪盗紳士ルパン』の小説、購入特典のカードやで。本から落ちたんとちゃうかな?」


一同は、ぽかんと口を開けた。


「……購入特典?」


「……本から落ちた?」


「……怪盗参上?」


恐竜たちは、もう一度カードを見つめた。


世界征服も国際的な陰謀も、今日のところは何ひとつ起きていなかった。


ケロ助は、みんなの顔を見回した。


「ところで、晩ごはんまだ?」


「今、その話するんかい!!」


こうして、あらぎ島を揺るがした(恐竜たちの脳内だけの)大事件は、あっけなく幕を閉じた。

【あとがき】


今回は、ソーリュージャーたちが巻き込まれた(?)大事件のお話でした。


怪盗といえば、やっぱりアルセーヌ・ル〇ン!

そこから話は思わぬ方向へ……。


恐竜たちは大真面目。でも、はたして本当にそんな大事件だったのでしょうか?


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


ちなみに、ケロ助の最大の関心事は、世界征服でも国際的な陰謀でもなく……


晩ごはんでした(笑)。

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