第14話 霧の向こうに、何がいる?
今朝のあらぎ島は、真っ白な霧に包まれていた。
いつもなら見渡せる棚田も、向こうの山も、今日はどこにも見えない。
「うわぁ……すごい霧やな」
ホワイトは、あぜ道に立って目を凝らした。
そのときだった。
霧の向こうに、大きな影が浮かび上がった。
「……ん?」
目をこする。
もう一度見る。
やっぱりいる。
しかも、恐竜のような形をしているではないか。
「……おる」
ホワイトは、ごくりと唾を飲み込んだ。
「絶対、おる……!」
恐る恐る、右手を上げてみる。
向こうの影も、右手を上げた。
しゃがんでみる。
影もしゃがんだ。
一歩下がる。
影も一歩下がった。
「ついてきよるーーーっ!」
ホワイトは一目散に走り出した。
*
「大変や! 大変やで!」
レッドたちが集まっているところへ、ホワイトが駆け込んできた。
「どうしたんや、ホワイト?」
「出たんや! 霧の中に、でっかい恐竜がおる!」
「恐竜?」
ブルーが首をかしげる。
「そうや! 僕とそっくりなやつや!」
「そっくり?」
「しかも、僕の動きを全部マネするんや!」
ホワイトは身振り手振りを交えて説明した。
「手を上げたら上げる! しゃがんだらしゃがむ! 逃げたら追いかけてくる!」
「……それ、ホワイト自身の影ちゃうか?」
レッドが言った。
「違うわ! 僕、あんなに大きないもん!」
「いや、影は大きく見えることもあるぞ」
ブルーはそう言って、霧の向こうを見つめた。
「ちょっと確認してみよう」
「ちょっと待って! 危ないって!」
そう言いながらも、ホワイトはみんなの後ろに隠れた。
*
一同があぜ道まで戻ると、霧の向こうに例の影が浮かんでいた。
太陽の光を背に受けて、巨大な恐竜の姿がぼんやりと映っている。
ホワイトはレッドの背中から顔だけを出した。
「あいつや! あいつ!」
影が動く。
ホワイトも思わず動く。
影も動く。
「ほら! 見たやろ! こいつ、僕に合わせて動いとる!」
「うん。そうやな」
レッドは笑いをこらえながら答えた。
ブルーは影と太陽の位置を確認している。
「なるほど……。これはブロッケン現象に近いな」
「ブロッケン?」
「太陽の光が霧に当たって、自分の影が大きく映る現象だよ。条件がそろうと、影の周りに虹色の輪が見えることもある」
「つまり?」
「ホワイトの影だ」
「……え?」
ホワイトは、もう一度霧の向こうを見た。
巨大な影が、ゆっくりと腕を上げる。
ホワイトも、つられて腕を上げた。
「うわあああっ! またマネした!」
「だから、ホワイトの影だって」
グリーンまで説明してくれた。
「光の向こうに自分がいるように見えているだけなんだよ」
「いやいやいや! 僕、あんなにデカないって!」
「霧に映ると大きく見えるんだ」
「じゃあ、あいつが本物で、僕が小さいほうかもしれんやん!」
「なんでそうなるんだよ……」
レッドはとうとう吹き出した。
*
こうなったら、正体を確かめるしかない。
ホワイトは一歩前に出た。
「よし! 僕が直接、話をつけてくる!」
「おお、頑張れ」
レッドたちは、誰も止めなかった。
ホワイトは恐る恐る、影に向かって歩き出した。
一歩。
影も一歩。
二歩。
影も二歩。
「お前、なんでついてくるんや……」
ホワイトは立ち止まった。
影も立ち止まった。
「……なあ。お前、どこから来たん?」
当然、返事はない。
「名前は?」
返事はない。
「……僕と友達になりたいんか?」
後ろで、イエローが吹き出した。
「ホワイト! 自分の影に自己紹介してどうするんよ!」
「うるさいな! 今、大事な話しとるんや!」
ホワイトは影に向き直った。
「とにかく、これ以上マネするのはやめてくれ!」
そう言って、両手を腰に当てた。
影も、両手を腰に当てた。
「やめろーーーっ!」
とうとうホワイトは頭を抱えた。
その瞬間、霧の向こうから太陽の光が差し込み、白い霧が少しずつ薄くなっていった。
巨大な影は、ゆっくりと小さくなっていった。
そして、すうっと消えた。
「ほらな。霧が晴れたら消えたやろ?」
レッドが笑いながら言った。
ブルーも、納得したようにうなずく。
「ブロッケン現象だね。ホワイト自身の影が大きく映っていただけだよ」
「……ふうん」
ホワイトは、影が消えた場所をじっと見つめていた。
「……どこ行ったん?」
「どこって、影やからな。霧が晴れたら見えんようになるんや」
レッドが答えると、ホワイトは少しうつむいた。
「……どっか行けって言うたん、ほんまは嘘やねん」
「え?」
「怖かっただけやねん。お前、僕のマネばっかりするし……」
ホワイトは、誰もいなくなった霧の向こうに向かって、小さくつぶやいた。
「……また帰ってきてよ」
一瞬、みんなが黙った。
次の瞬間。
「いやいやいや! だから、ただの影やって!」
レッドが笑い出し、イエローもお腹を抱えた。
「ホワイト、あんた何言うてんの!」
「だって……」
ホワイトは、しょんぼりしたまま足元に目を落とした。
そこには、太陽の光を受けて、自分の影がくっきりと伸びていた。
「あっ!」
ホワイトの顔が、ぱあっと明るくなる。
「ここにおったんや!」
「いや、だから違うって!」
「よかったぁ! もう、どこ行ったんかと思ったわ!」
ホワイトは嬉しそうに、自分の足元を見つめた。
そして、影に向かって手を振った。
「なんや、帰ってきとったんか! 心配したで!」
「ホワイトーーーっ!」
仲間たちは、もう笑うしかなかった。
ブルーは額に手を当て、グリーンは深いため息をつく。
レッドは呆れながらも、どこか楽しそうに笑っていた。
「……まあ、ホワイトがそう思うんなら、それでええんちゃう?」
「せやな。本人が幸せそうやしな……」
みんなは顔を見合わせ、また笑った。
ホワイトは、そんな仲間たちの様子も気にせず、足元の影に話しかけていた。
「なあ、今度は一緒に遊ぼうな!」
あらぎ島の朝は、今日も平和だった。
……たぶん。
秋のあらぎ島に現れた、不思議な影。
霧の向こうにいたのは、いったい誰だったのでしょうか?
……ホワイト、そろそろ気づいてもええんちゃう?(笑)




