休暇中の訓練
瑞穂が実家に帰ってきた次の日の朝。
「母さん、棒と紙ある?」
「あるけど、何に使うの?」
瑞穂はとある工作をしていた。
「――よし、できた!」
「お兄ちゃん、なによそれ。」
「これか?これはだな、飛行機の模型さ。」
瑞穂は飛行機の模型を作っていた。その模型は複葉機がモデルではなく単葉機がモデルだった。
「これが飛行機の模型?翼が一枚しかないのに?」
当時はまだ複葉機が主流であり、単葉機もでてきていたがそんなに知られてはいなかった。
「そう、翼が一枚しかないのに。…単葉機って言うんだけどね、複葉機は翼が二枚あって揚力は十分、旋回性能も高いんだけど、翼が二枚ある分空気抵抗が多く速度が出にくいんだ。それで、翼を一枚にして空気抵抗を減らし、速度を上げたのがこの単葉機っていうことさ。その分、旋回性能は複葉機に負けるけどね。」
「…でも戦闘機は回りやすい方がいいんじゃないの?」
そう、当時は戦闘機はドックファイトが当たり前であり、敵の後ろをとるための旋回性能は必須だった。ドックファイトとは簡単に言うと敵機の後ろを取り合うことである。格闘戦などともいう。
「それはね、速度が同じ時の事だよ。…知っているかい?戦闘機は速度が30km離れていたら一方的に倒せるんだよ。」
実際、格闘戦では負け無しの零戦(零式艦上戦闘機)が大戦中期から勝てなくなったのは、米軍機との速度が離れてきたことにある。
「…どういうこと?」
「だってね、逃げ切れる速度があるのにわざわざ相手の速度に合わせる必要ある?…そういうことだよ。」
「…どういうこと?」
「………」
まあ、当時は格闘戦が当たり前の時代だから理解できないのは無理はない。だから落ち着いて、冷静になるんだ瑞穂ぉ!!
「…えっと、詳しく言うと。格闘戦はしない。一撃離脱に専念するんだ。一撃離脱に専念すると、自分は相手に攻撃する機会がたくさんできるのに、相手は自分に攻撃する機会が少なくなるんだ。自分は攻撃した直後、相手が追い付けない速度で逃げればいいんだから。」
「……そういうこと?」
「はぁ、やっと分かった?」
瑞穂は無意識にため息をついてしまった。
「ちょっと、私の理解力がなくて大変だっただろうけど、ため息はないでしょ!」
「ご、ごめん。」
あ~あ、怒らせちゃった。瑞穂も大変そうだね。
「それで、単葉機が有利なのは分かったけど。なんで飛行機の模型を作ってるの?」
「そうだった、その話をするはずだったのに結構脱線してしまったな。」
本当、脱線しすぎだろ。
「模型を作った理由は、イメージトレーニングをするためだよ。この先二週間、飛行機には乗らないから腕がなまらないようにね。」
模型を子供のように振り回す瑞穂であったが、模型を作った理由が意外とちゃんとした理由で千代田はびっくりしていた。
「…でもそれでちゃんと訓練になるの?」
「んー?意外となるよ。実戦と違ってゆっくりどう動けばいいか考えられるからね。あとは新しい機動とかを考えられたりするね。そして実戦でそれを使えばいいんだから。」
そして物陰から一言。
「休暇中も訓練とは、意識が高いじゃないか。瑞穂。」
「父さん!?いつからそこに?」
そこには父さんが突っ立っていた。瑞穂は人の気配には敏感なのに、気付かないなんて。瑞穂が千代田に説明するのに集中していたからか、単純に父親の隠密性が高いのか。…まあどうでもいいか。
「「戦闘機は速度が30km離れていたら一方的に倒せる」ぐらいからかな。」
(ほぼ最初からじゃねえか。まじで気付かなかった。化物か?)
相変わらず瑞穂は父親に失礼なことを思ってるな。
「それで?父さんは僕の考えはどう思う?…まあどうこう言われてもこの戦術を使わないことにはならないけどね。」
「俺は別に瑞穂の考えにどうこう言うつもりは無いが、その考えだと格闘戦はしないわけだろ?それを格闘戦主義の上官が許すかどうかだけどな。」
「そのための模型だよ?」
予想外の返答に父親はびっくりしていた。
「……は?その模型で一撃離脱のイメージトレーニングをするんじゃないのか?」
「いやぁ、一撃離脱は急降下して一撃入れて離脱するだけだから、訓練しなくても一発でできるよ。だから一撃離脱を認めない上官の為に格闘戦も強くならなければいけないからね。そのための模型でのイメージトレーニングさ。」
その言葉を聞いて父親は納得した。
「なるほど、確かに格闘戦も強かったら頭の固い上官も納得するか。」
「ま、僕なら訓練しなくてもエース並みに強いですけどねっ!」
調子に乗るな瑞穂。
…そして話についていけない千代田であった。
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