休暇
前回の後書きに次からは戦記らしいことを書くことができるようになる的な事を言ってしまいました。ですが、家族の登場がこの後少なくなっていくと考え、書くなら今しか無いと思い、この話含め数話は家族話にすることにしました。戦記らしいことを期待していた人達には申し訳なく思います。この事は切腹でお詫びを…とはしないんですが、その分頑張って家族回を書くのでぜひ読んでいってください。
1937年3月初期、瑞穂は約4年ぶりの実家に向かって歩いていた。
(久しぶりの実家だな、実家に行くだけなのに謎に怖いのはなぜだろうか。…もしかして、「実家に帰る=下校」で、前世の交通事故のトラウマが!?)
ただ緊張しているだけです。
(まずいぞ、PTSDと断定されたら。軍からおいだされるんじゃないか!?)
1937年はまだPTSDなんてないし、緊張しているだけなので大丈夫です。…そんな無駄な心配をしながら瑞穂は実家の表庭に着いた。「トントン」と二回ノックして瑞穂は、
(とりあえずノックしたけど、何か言った方がいいのかな?「小林瑞穂です。」とか言った方がいいのかな?)
なんて声をかければいいのか分からず、戸惑っていた。…ノックする前に考えとけよ。
そして、覚悟を決めて「ごめんください」と言おうと口を開けたその瞬間、
「はーい、どなたですか?」
格子戸が開かれ、光が現れた!
(あぁ、目が!目がぁ!!)
それと同時に瑞穂の脳内には大佐が現れた。
「…えーっと、お兄ちゃん?目を手で覆って、口を開けてどうしたの?」
光の正体は千代田だった。千代田が美しく可愛すぎたため、瑞穂の目には光に見えたらしい。
瑞穂は気を取り直して姿勢正しくピシッと直立した。
「久しぶりだね、千代田。元気してた?というかなんの連絡もなしに帰ってきたのに、反応薄くない?「えっ?お兄ちゃん!!なんで!?」ぐらい言ってくれてもよかったんだよ?」
「いや、確かにびっくりしたけど、あんな体勢でいたらびっくりより他の感情が勝つでしょ。」
これについては千代田が正しいと思いますね。皆さん、誰かが来たと思ってドアを開けたら大佐のポーズをした懐かしの知り合いが立っていた。そんな状況でツッコむより先に再開できて嬉しいと思えますか?私は思えません。
「とりあえず、中入って?」
「あ、うん、はい、分かりました…」
妹の反応に落ち込みながら、瑞穂は約4年ぶりに家に入っていく。…そして靴を脱ぎ、段差を上がり、とんでもないことに気がついた。
「う、うそ…だろ。」
「え?どうしたの?」
瑞穂の困惑の言葉に、千代田も困惑する。千代田が何にそんなに驚いているのか気になっていると、瑞穂が口を開いた。
「身長が…負けそうになっている。」
「え?そんなこと?」
千代田は瑞穂がとても困惑していたので、一体どんなことだろうと思っていたら、意外とどうでもいいことだったので、つい言葉がでてしまった。
「そんなこととはなんだ、そんなこととは!兄にとっては妹に身長が負けるのは一大事なんだ!」
「そ、そうなんだね。」
「やめろぉ!そんな哀れみの目で俺を見るんじゃない!」
瑞穂の身長は155cm、成人男性とは思えない身長だ。顔もあれだし、もしかしたら子供と間違えられるんじゃないか?
「千代田、お前身長何cmだ?」
「154cmだけど。」
1cm差、まだギリギリ抜かされてないじゃないか。よかったね。
(1cm差だと!?しかも僕は20歳で千代田は15歳、僕はこの先あまり伸びず、千代田は伸びる可能性がある。……詰みか。)
……よかったね。
そんなこんなで廊下で騒いでいると、奥から人影が現れてきた。
「お元気そうで何よりですよ、瑞穂。」
「あぁ、母さん。ただいま。」
そこには、もう40前半になる。母千歳の姿があった。
(母さん…歳を取っても美しさを保ちつつ、逆に優しい感じが増えてきて、衰えというものがないのか?)
そんな事を考えていると、もう一つ人影が現れてきた。
「父さん、ただいま。」
それは、もう海軍大佐になる。父駿だった。
駿は深刻そうな顔をして、瑞穂にたずねる。
「瑞穂…軍から抜け出して来たのか?」
「……へ?」
父親からの予想外の言葉に、妹との身長差の時とは比べ物にならないぐらい、瑞穂は困惑した。
「え?…どういうこと!?お兄ちゃん!」
「瑞穂…何か嫌なことでもあったのかい?」
父親の言葉を聞き、心配する母と困惑する妹。
「瑞穂、抜け出しは軍法送りだぞ。分かっているのか。」
「ちょちょちょちょちょっと待って!何か誤解をしている!」
そして今までにない父親の怒った雰囲気に、さらに困惑していた。
「抜け出してないし、そもそも、もう訓練は終わったよ!!」
その言葉を聞き、父親は怒った顔をやめ、悲しい顔になり…
「瑞穂…もしかしてやめさせられたのか?」
「違うそうじゃなぁい!!」
帰宅早々騒がしい家族ですね。
―――――――――
その後ひとまず落ち着いて、廊下で話続けるのもあれなので、茶の間で話すことになった。
気まずい空気の中、最初に口を開いたのは父親だった。
「それで、訓練が終わったというのはどういう意味だ。」
父親が真剣な顔で瑞穂の返答を待つ。
「えっとですね、驚かないで欲しいんですけど。飛行訓練は、もう卒業しました。」
「…なんだ、そんな事だったのね。」
妹と母親は安堵したが、父親だけは違った。
「嘘をつくな、飛行訓練は早くても7ヶ月はかかるはずだ。そして、瑞穂は1936年末に飛行訓練に入った。まだ3ヶ月しか経ってない。」
その言葉で再び空気が重くなった。そして、瑞穂は2つの書類を取り出す。
「まあ、言っても信じてもらえないことは分かっていました。なのでこちらを。」
「こ、これは…修了証書と配属命令書っ!」
瑞穂が取り出したのは霞ヶ浦での飛行訓練の修了証書と横須賀海軍航空隊への配属命令書だった。
「そして仕上げに、これを見ろ!!」
そういって胸元からあるものを取り、ちゃぶ台にドーンと置いた。…ちゃぶ台壊れちゃうよ。
「な、なにぃぃ!!…これは、航空徽章っ!」
航空徽章とは飛行訓練を修了して一人前のパイロットになった者にだけ与えられるバッジのことである。…大事な物なんだからちゃぶ台にドーンじゃなくスッって置けよ。
「これでわかっていただけましたか。お父さん?」
「あ、あぁ。嘘じゃないことはわかったよ。…でも、どうやって3ヶ月で卒業したんだ!?」
あ、いつもの緩い父親に戻った。
「ふっふっふ、いいですよ。3ヶ月で卒業した僕の武勇伝を聞かせてあげましょう。」
そんな時、千歳と千代田は…
「千代田、長くなりそうだから。夕飯の準備をしておきましょう。」
「うん、わかった。」
瑞穂の武勇伝にあまり興味がなかった。
「まず、僕は初飛行時で大手柄をあげたんです。」
「おぉ、初飛行からか!」
そして長くなりそうな瑞穂の武勇伝が始まった。
―――――――――
「―――となって、今に至るというわけです!」
「なにぃぃ!そうだったのかぁ!」
なんか、リアクションのでかいコクミンSHOW 極のナレーターいたぞ。
そして瑞穂の武勇伝は約30分間語られていました。…長い!
「お兄ちゃん、話は終わった?終わったなら夕飯ができてるから運ぶのを手伝ってください。」
「あ、ごめんね、作るの手伝えなくて。」
「べつにいいです。」
千代田のその言葉を聞き、瑞穂は精神的ダメージをくらった。効果はバツグンだ!!
その後は久しぶりの母親の料理を食べて美味しさに感動する瑞穂であった。
―――――――――
夕飯後、またもや茶の間に集まり話をすることになった。
「それで瑞穂、帰ってきた訳だけど、いつまでも居るわけではないのでしょう?いつまで居れるのかしら。」
そんな母親の質問に完全にゆるゆる気分になった瑞穂は答える。
「えっとね、3月末には横須賀に行くから…約二週間ほどいれるかな。その後はまたしばらく会えなくなるかも。」
「え、お兄ちゃん、またしばらく会えなくなるの?」
その千代田の言葉を聞いて瑞穂は、千代田が自分に会えなくなると寂しいと判断して、先ほどの精神的ダメージ分を回復した。
「あぁ、お父さんは仕事場がこの近くだからちょくちょく家に帰れるけど、僕は横須賀に行くからね。横須賀から呉を行き来するのは難しくはないけど流石に大変になるかな。」
「そっか、しょうがないよね、」
その千代田の悲しい顔を見て瑞穂はまたもや精神的ダメージを負った。…面倒くさい奴だな。
瑞穂は千代田を少しでも元気付けようと、
「こ、この先会わない分、この二週間を楽しく過ごそう!」
と言ってみたが、
「そしたら別れる時にさらに寂しくなるでしょ。」
…逆効果だった。
この二週間、どうなるんだろうか。
読んでいただきありがとうございました。
前書きでも言った通り、この後の数話は家族話を書こうと思っているのでよろしくお願いします。




