第九十八話 崩壊の足音
清々しい朝だった。昨夜、やっと物資調達の目処がたった。資金繰りが上手く行き、出来の悪い武器で食料が買えたのだ。
戦力を強化するために奴隷を多く抱え込んだが、それもそろそろ終わる。なにせ聖女を手に入れたのだ。反抗的な聖女も今や穢され、私が意図した成果を上げている。
洗脳など無くても、おのが肉欲には勝てなかったか…それとももともと抑えていた本能なのか、今も精を搾り取っては、改造人間に奉仕していると様だ。
「あ~、素晴らしい朝ですわ♪忌々しい朝日だけが邪魔ですが…この調子なら、奴隷全てを魔物に改造して、戦力をさらに強化しても良いですね♪」
ドラキュラのラミーは、魔王を倒す為に自分の戦力を強化しているのだが、聖女を手に入れた事で計画を早める気でいた。
「うふふ♡楽しみですね…あら?騒々しいですわね…」
ベットから起き、朝食に真っ赤な血をグラスに注ぎ、優雅な時間を過ごそうとしていたラミーの耳に、廊下からドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。
「し、失礼します!お嬢様!大変です!」
「何事ですか?!朝から騒々しい…」
「ド、奴隷共が蜂起しました!」
「はぁあっ?!何ですって?!いったいどうやって?兵士は、配置していた改造人間達は何をしているんですか!?」
「それが…何故か枷の効果が使えず、奴隷らがスキルや魔法を!それに武器庫に、応援に来た改造人間共まで、奴隷に与してこちらの兵士を制圧した模様です!」
「な、な、なぜ…私の用意した枷は強力な呪いが!簡単に外れたり効果が切れるだなんて…そうですわ!上の部隊を地下に送りなさい!出口から攻めるのです!」
焦ることは無い、1つしか無い入り口を塞いでしまえば奴らは袋のネズミだ。そう思ったのだが、
「そ、それが…上の部隊は…」
「はぁ?!敷地内に突然生えたマンイーターの駆除をしているですって?!もう!一体何なのよ?!」
早朝。朝日を浴びた彼女の庭は一大事が起きていた。暖かなお日様に照らされた地面からニョキニョキと草が生えたかと思うと、突如としてラミーの私兵を襲ったのだ。
このマンイーターは人間に限らず、テリトリーに入ってきた魔物も襲う。なかなか強力な為、群がられると魔族でも手こずる相手だ。
「チッ…私も出るわ!先ずはマンイーター退治よ!」
「はっ!」
ラミーは目先の脅威から潰して戦況を変えようとしたい様だ。日を避けるローブを纏うと、近衛を連れて外に出る。朝日が眩しく気分が憂鬱であるが、
「各個撃破しなさい!」
兵士に檄を飛ばすと、兵士らが苦戦していたマンイーターを、血で強化した爪で引き裂く。
チッ…たかがマンイーター如きに手こずりなんて鍛錬が足りませんわよ!
私兵達の戦い振りを見て、ラミーは悪態をついた。魔王を倒すにはもっと戦力が必要なのだが、彼女を支えるドラキュラ族はまだ若い。
それもそのはず、ラミーが当代になった際、ドラキュラ族に代々仕えていた重臣を全て廃した。古い考えと確執に雁字搦めになっていた古い魔族。それがラミーの見てきたドラキュラ族だった。
彼女はそれを是とせず、新しい血を求めた。改造人間もそれを推し進める良い材料になった。
「ガルルルッ!邪魔よ!」
残ったマンイーターを全て倒すと、地下の制圧に向おうと兵士達を纏めた。兵士達の損害は皆無だが、かなり時間が掛かってしまった。
「お嬢様!」
「今度は何!?」
「はっ!地下の入り口が奴隷どもに突破されました!」
「はぁあ?!こんなに早くですって?!」
「はい!廃教会周囲は既に奴隷と改造人間に占拠された模様です!」
なぜ…上手く行っていたのに…聖女も手に入れて、改造人間に知性が戻って使い物になった。最近では意識も芽生えて…意識?…そうだ!改造した人間に意識があるなんておかしい…人間としての理性は魔物になって消えるはず…
「あの聖女…何かしたわね!聖女の所に行くわ!アイツさえ抑えれば改造人間は無力化出来るはず!」
「奴隷共はどう致しますか?」
「奴隷なんか今はどうでも良いわ、聖女さえ居れば他は幾らでも代えが利くわ!」
ラミーは兵士を率いて聖女を監禁していた部屋へと向かう為、屋敷の中へと戻っていった。中は日のが最小限になるように工夫されており、廊下は1日中蝋燭で仄かに照らされている。部屋の前に着くと、改造人間が立ちはだかった。やはり此方に敵意を向けているようだ。
「どいてくださるかしら?」
「出来ません!」
「ここは命に変えても通さんぞ!」
「ああ!聖女様を守れ!」
「やっぱりそうですか…なら、死んでください!」
兵士に合図すると、改造人間をけしかけた。剣がせめぎ合い、怒号が狭い廊下に響く。たかが魔族に改造した人間の筈が、無駄に性能が高く兵士と互角…いや、武器の性能差が出ているのか徐々に押されている?
「くッ…貴様ら!お嬢様に楯突くか!」
「おおよ!俺たちにも守るもんが有るからなっ!」
「そうか…なら負ける訳にはイカン!ぐおおッ!」
廊下から聞こえる戦闘音を心配そうに伺うシャナは、手を組み祈っていた。少しでも早く、彼が来てくれるように…
「ぐお…」
「はぁ…はあ…こ、ここは…通さねえ…」
迫りくる兵士を差し違えてでも止めた男は、次の兵士に剣を向ける。震える手は剣の重さに震え、今にも落ちそうであるが、気合だけで立っていた。
「残念です。この戦力を失う事になるなんて…」
ラミーは、聖女に嫉妬しながら、改造人間にとどめを刺そうと爪を伸ばし斬り掛かった。




