第八十八話 地下
馬車を走らせた。昼も夜も分身体も使って代わるがわる。一番大変だったのは馬車を引く馬だろう。ライオ君の癒しの力とサキュのポーションで寝ずに二晩も走ったのだ。僕等の町に着いた頃には、脚が立たないほど疲弊していた。
「ごめんよ…ありがとう」
「…ヒヒィィン…」
「ライオ君あとはお願い!」
手当をライオ君に任せると、僕とサキュは家の中に、セシリアとスーは庭へ回った。どっちも分身した僕が最後にいた場所だ。
家はとても静かで人の気配が全く無かった。家の扉は空け放たれており、椅子が倒れ、食器の残骸が床に散らばっていた。
「おい!シャナ!何処だ!?おーい!!シャナ!」
「フィズさん、奥にもシャナちゃんもルルちゃんも居ないみたいです!」
「そっか…いったい何処に…」
「フィズ!ちょったいいかしら?見てほしいのもが有るんだけど…」
「ああ…」
庭を探していたセシリアから声が掛かり、僕等は外へと出た。野菜が青々しく育った庭の奥で、踏み荒らされた地面を見ると、砕けた石が転がっていた。
「これって…」
「ああ、僕だな…」
やはりそれは分身してルルサイズになっていた僕の石像だったモノだ。砕かれているが、顔や手など僕そっくりだ。
「石にされたって事ですか?!そんな事って…あっ…」
「ん?何か心当たりがあるの?」
「セシリアさん…」
「ええ、まさかとは思うけど、私もサキュと同じ考えよ」
「メデューサ…アイツが?でもあの時倒したはずじゃ?」
「死体は無かったわ。それに、貴女を粉々にするくらい恨んでいる魔物なんてアイツしか居ないわよ」
メデューサ…以前、山間の村々を襲い住人を攫った魔物。あの時、倒した筈だった。でももし生きていたら、
「復讐に来たんですかね…」
「それでシャナを攫ったって?ルルもっ!?」
「落ち着きなさい!ここで取り乱しても解決しないわ」
「わかってる…けど!…くっ…」
「キャアッ!」
その時、庭に強い風が吹き込んだ。余りの勢いに飛ばされそうになったが、風と共に何かがドスッと屋根から落ちてきた。
「え?!これって…」
「ん?ルル?!」
柔らかい畑に落ちてきたモノは、石化したルルだった。
・・・
・・
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ルルの石像を大事にベッドに置くと、
「何でルルが…」
「フィズ、貴方の浄化で解除出来るかしら?」
「そ、そうか…やってみるよ…『クリーン』!」
白い光に包まれた石化したルルの体が徐々に色を取り戻す。完全に石化が解かれた様だが、ルルはピクリとも動かないかった。
「ルル!おいッ!しっかりしろ!」
「ちょっとフィズさん!落ち着いて下さいッ!」
「ん、魔力不足なだけ。サキュちゃん、魔力ポーション!ライオさんは回復!」
「は、はい!」
「了解、『ヒール』!」
「ん、あとはルルの回復を待つ。フィズさんも分身体を使って休憩していたとは言え、今はしっかり休憩する事!」
「ああ、でも僕なら大丈ぶ…」
「ん!?休憩!!」
「は、はい…」
スーちゃんの気迫に負け、僕もルルの脇で寝かせられた。シャナやルルの事が心配で眠れる気がしなかったが、横になって目を閉じると、不思議とすぐに睡魔に襲われた。
「寝ちゃいましたね…」
「えぇ…随分と無理していたから当然よ…ありがとうスー、貴女が居てくれて良かったわ」
「ん。フィズさんにこういう事は我慢しなくていいって言われた。私も2人が心配だけど、フィズさんも心配だったから…」
「ええ、みんな同じよ。フィズにばかり無理させる訳には行かないもんね」
「はい…でも、これからどうします?」
「そうね。取り敢えず片付けと、ご飯の準備をしましょうか。フィズやルルが起きたらきっとお腹が空いたって騒ぐわよ」
「あはは…そうですね」
「ライオはこのまま2人の事をお願いね。何かあったら教えて頂戴」
「ハイ!わかりました!」
セシリアはテキパキと指示を出しながら何も出来ないもどかしさに苛まれた。いつもならフィズが突拍子もないアイデアを出しそれに振り回されるのだが、今日は違う。ただただルルの回復を待つしか無いのだ。
「全く…私の大切な仲間を…絶対に許さないんだから…」
静かに怒るセシリアの背後にはメラメラと炎が幻視している。それは彼女から漏れ出た魔力なのだが、
「おお…セシリアさんから物凄い魔力が…」
「ん…い、今はそっとしておこう…」
少しでもセシリアの気持ちを抑えようと、サキュとスーはいつもより張り切って家事をするのであった。
・・・
・・
・
セシリアの怒りも届かない空の下、シャナを連れたドラキュラとメデューサは整った街並みを馬車で走っていた。
馬車の中とはいえ、ローブで全身を隠すメデューサと、堂々としているドラキュラの事を気にする様な視線は無い。
寧ろ、高貴さの漂う馬車を好奇の目で見ていた。夕暮れの町は多くの住民が行き交い、交易品を売り買いする商人や冒険者も多く居た。
「フンッ!人間がこんなに…吐き気がするよ」
「あら、そんな風に言わないで頂戴な。私の街には必要なんですからね♪」
「必要って…アレだろ?」
「ええ!勿論アレの為ですよ!」
ニヤリと裂けた口から覗く牙が不気味に光った。メデューサは同じ魔物ながら、美しく妖艶さを持つ彼女の笑顔に、背筋がゾッとした。
人気の無い教会に馬車が着くと、地下へと続く大きな扉が静かに開いた。暗く続く緩やかな坂は、両側に並ぶ灯りでボンヤリと中を照らすだけで、入り口からは底が見え無い。
「はぁ…またあの陰気臭い地下に行くのか?」
「ええ!この子を連れて行くために攫ったんですから!」
「ん?それじゃあ魔王様の命令ってやつは?聖女を勇者から奪えって…」
「あ~、…そんな命令なんて無いですよ」
「はぁ?!嘘だったのか!?」
「ハイ!」
メデューサは目の前に居るドラキュラに掴みかからんばかりに前のめりになるが、
「良いんですか?私に歯向かうと、魔王様に献上する精液が手に入りませんよ?」
「うぐっ…」
「前回失敗しちゃったから倍の量を寄越せって、魔王様も欲張りですよね~。私ならもとかく、貴女じゃそれだけの量を集めるのは大変よね?」
「…くっ…」
地下へと続く道を馬車が進む。先ほどまでの爽やかさは無く、ジメッとした空気が肌に纏わり付く。
「お気に召さないようね?」
「ああ、何度来てもここの空気は慣れないわ…それに人間臭い…」
「うふふ、まぁここはそう言う所だから仕方ないですね。そうそう、この前も町を1つ落としたので沢山の人間を捕まえたんですよ」
「奴隷か…」
「ええ♪お陰で沢山物資が必要でしたが、この街が交易地で助かりました。奴隷の運搬も堂々と出来ましたからね♪」
ドラキュラはくすりと笑うと、
「ホント、人間ってバカばかりで助かります。ちょっと優しく手を差し伸べれば、尻尾を振って一生懸命働いてくれますし、魔王様がご所望の精液ですか?あれも簡単に手に入りますもん♪」
「ドラキュラ…お前魔王様を敬って…ふぐッ?!」
メデューサに名前を言われムッとした表情をするドラキュラは彼女の口をか細い手で塞ぐと、
「ねえ!?いい加減そのドラキュラって言い方止めてくれる?私の名前はドミニク・ラウローズ・キュ・ラミーよ!せめてラミーと呼んで欲しいわね!」
「ふぐふぐ…ぷはッ…ら、ラミー…」
「ふん!分かれば良いのよ。さあ、もう着くわよ。彼女を連れてきてくれますか?」
「…ああ」
ラミーの後を、未だ眠り続けるシャナを担ぎながら追うと、メデューサの視界に地下の惨状が映った。
多くの奴隷が男女ペアで鎖で繋がれ、セックスをしているエリアがあれば、男が1列に壁に固定されいきり立った男根を魔道具で処理されるエリアが見える。
奥へと進むと居住区があり、ドラキュラ族の魔物が食料を配給する代わりに、奴隷達から血を摂取している場所もあった。
「それで?コイツをどうするんだ?殺す為にここまで連れてきた訳じゃ無いんだろ?」
「うふふ♪そうですよ。彼女にはここでやってもらいたい仕事があるんです♪聖女様にしか出来ないお仕事♪」
ラミーはニヤリと邪悪な顔で笑いながらシャナを見るのだった。




