第八十七話 シャナの危機
翌日の朝にはスーはいつもの彼女に戻っていた。いっぱい泣いてスッキリしたのかライオ君やサキュともしっかり話して居た。
「昨日何かあったの?」
「ん?ああ、ちょっとな。悩める乙女の相談に乗っただけだよ」
「ふーん、相談にしては随分と盛り上がっていたみたいだったけど?」
「なんだよ…妬いてるのか?君だって僕とイチャイチャしてただろう?」
「///うッ…それはそれ、これはこれよ。仲間の事をしっかり把握するのも勇者の役割よ///」
「はいはい…大丈夫だよ。しっかりケア出来たと思う。あとはスー達次第だけどさ」
「ならいいわ。ねえ、そろそろ出発の時間かしら?」
「ああ、そうだな…ここから3日は掛かるから…え?…なんで?」
「どうかしたの?」
「え?あ、いや…シャナの所に残して来た僕の気配が急に消えたんだ…二人分居たはずなのに…」
「それってどういう事?シャナやルルは無事なの?」
「ついさっきまでは何とも無かったんだ…それが急に…」
分身体との共有がプツリと途絶えた。あっちも朝の支度をしたり、畑で作業したりと忙しそうにしていたのだが…
「嫌な予感がする…みんな!急いで帰るぞ。馬車を取りに行って最速で帰る。僕が操縦するからみんなは荷台で休んでくれ。揺れるだろうからクッションになる物を用意して置けよ!」
「分かったわ。ライオ、馬に回復やサポート魔法をお願い。多分休みなしで帰る事になるわ。皆もしっかり準備しておきなさい」
慌ただしく家を出た僕たちは、預けていた馬と馬車、家のお礼を支払うとすぐに町へ続く街道を走らせた。昨日の夜は月や星が良く見えた空が、今日に限っては今にも雨が降り出しそうな黒い雲に覆われている。ポツポツと降り出した雨に打たれながら、僕は馬の手綱を強く引くしか出来なかった。
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出掛けているフィズとの共有が途切れる前の事。大きい方の僕はシャナと家の用事を済ませていた。外ではルルと小さい僕が朝からせっせと畑仕事に勤しんでいた。
「今日は曇りか…洗濯は僕の魔法で済ませちゃおうか『クリーン』!」
「いいなあ~、フィズさんの浄化魔法は便利そうですね」
「だろ?これがあれば日常生活から冒険まで何でもござれだ♪」
「人の心も浄化するんですもんね…いっその事、私も浄化された方が…」
シャナは孤児院での事を気にして居る様だ。性知識に乏しい子供たちの性処理を引き受けたが良いが、歯止めが効かなくなりちょっとお致し過ぎてしまった事がつい最近あった。
「あはは…まあ、あれは僕が悪戯しちゃったのも悪かったんだ、気にするなよ」
「ううッ…そうですかね…」
うーん、失敗したなぁ…まあ僕が残る様になった分、シャナやルルの性欲も適度に発散出来ている様だし、この分なら問題は起きないはずだ。
「シャナ、そう言えば今日は孤児院で誕生日会があるんだっけ?」
「あ!そうなんです。院長先生の80歳のお誕生日だとか、私も後でお祝いしに行かなくちゃ」
「おお…元気だとは思ったが、そんなお年だったとは…じゃあ僕も一緒に行こうかな。いい?」
「本当ですか!?もちろんです。一緒に行きましょう♪」
ちょっと機嫌が良くなったシャナを見ながら、家の掃除をしていると、
コンコンコンと扉を叩く音が聞こえる。珍しくお客さんが来たようで、シャナがドアを開けると、
「コンニチワ♪」
「こんにちわ…あのどなたですか?」
「うふ♪初めまして♪」
シャナが扉を開けると、白い日傘をさした人物が居た。大きな赤い帽子を被った金髪の女性が、同じく真っ赤なドレスの様な服で素肌を極力見せない様に立っていた。
「ん?誰だ?」
「それがこの方が…キャッ!?」
「あ!シャナッ!?くうッ…な…にぃ…」
「貴方邪魔ね…死んで頂戴…」
その女性はシャナを押しのけると家の中に素早く侵入してきた。急な事だったが撃退しようと構えると、煙の様に姿が消え見失った。そして、気が付くと後ろに周り込まれ首筋に噛みつかれていた。
「くッ…おま、え、まさか…」
「うふふッ、貴方の血、魔力が濃くって美味しいわ。殺しちゃうのが勿体ないけど、ごめんなさい。死んで下さい」
「フィズさん!?」
「にげ、ろ…」
首から血液が吸われ手足が急速に冷たくなる。力も入らず抵抗も出来ない僕は、暗くなる視界でシャナを見つめながら意識を失った。
「フィズさんッ!?フィズさん!?」
「うふふ♪ご馳走様♪じゃあ次は聖女あなたの番ね♪」
「貴方、誰なんですか!?こんな事をして、許しませんよ!」
「あら、さすが聖女に選ばれるだけの気概はあるようね。でも残念。貴方を守る騎士はもう居ないの。大人しく眠って頂戴♪『ナイトメア』!」
「そ、そん、な…負けちゃ、だめ…」
「うふふ♪おやすみなさい♪」
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シャナが襲われる同時刻、畑仕事をしていたルルと僕であったが、作業をしてルルが急に顔を上げると、
「ん?!フィズさん!?誰か侵入者が来たぜ!それに家の周りに結界が…キャアぁッ!」
「ちッ、家妖精如きに私の侵入がバレるだなんて…」
「ルル!?誰だ?」
庭先から侵入した影がルルの事を弾き飛ばした。ローブから覗かせた蛇の様な瞳がこちらを見つめると、体が急に重くなった。
「誰だとは心外だな。私だよ。忘れたかい?」
「お前!?くそッ『クリー』んぶッ!?」
「おっと、あんた魔法使いだったね。口を塞いじまえばこっちのもんさ。大人しく石になっちまいなよ」
「だめえええッ!フィズさんを離せッ!」
石にされかけた僕を助ける為、ルルは『重力操作』で多い農具を振り回しながらローブの脱げたメデューサの頭を殴りつけた。一瞬怯んだ隙に視線から逃れた僕は魔法を放ち反撃するが、分身してから暫く経ち、魔力量が減っていた僕の魔法では威力が足りず、
「鬱陶しいねッ、まずはお前から石になって貰うよ!」
「え?!」
僕よりも脅威だと思われたルルを石に変えようと、視線を集中させた。ヘビに睨まれたルルはその場で動けなくなり逃げられない。僕は、せめてルルだけでもこの場から逃がそうと、
「『スピリット』!ルルを逃がせ!」
「あッ?フィズさん!?きゃああぁあーーーッ!?」
「クソッ、ジャマをするな!」
「うわぁ…」
精霊の力を借りてルルに突進して庭から弾き出すと、そのまま入れ替わり、僕の代わりにルルを外へと運ばせた。風に乗って空高く、遠くへ飛んで行ったルルを見届けると、僕はメデューサの光線を浴びその場で石となった。
「ちッ…また私の邪魔を…あの妖精を探すか…いや、あんな妖精に何も出来やしない。それになんでか知らないがこの小さくなった魔法使いさえ居なければ、勇者なんぞ…それにこれ以上ドラキュラに失態を知られる訳には…くッ…」
メデューサは家妖精を逃がした事を割れると、地面に転がったフィズの石像を足で粉々に踏み砕いた。そして、お目当ての聖女を連れたドラキュラが外に出て来たのを見ると、家の中を確認せずにその場を後にした。
「そとにも誰か居たの?」
「はい、小さな魔法使いが居たので排除して置いたわ」
「魔法使い?貴方の仇ね?家の中にもナイトが居たけど、あーあ、勿体ない魔力が濃くて美味しかったわ。持って帰れないのが残念♪」
「ふん。魔王様の命令だろ?聖女以外は殺せって。しかし、結界まで張って慎重すぎやしないか?たかが人間如きに…」
「ふーん、その人間如きにやられたのはどこの誰かしらね…?」
「ぐ…」
「うふふ♪分かったならさっさと帰りましょ?」
「ちッ…分かった…」
シャナを攫ったドラキュラとメデューサは、暗い闇に包まれると一瞬にして姿を消した。
「シャナ…」
その様子を傷を負ったルルが家の屋根の上から見ているとも知らずに。




