第八十三話 魔族
久しぶりのゆっくりとした時間を堪能した僕たちは、再び色欲ダンジョンを攻略していた。
「おお~!3つ目のポータルに着いたぞ!便利だな」
「普通に最初からここまで来るのに半日は掛かるから、一瞬で解決出来るのは助かるわね」
「そうですね…でも、あれはあれで私は好きですけどね♡」
「ん、私も嫌いじゃない♡」
「あははは…サキュちゃんとスーちゃんには敵わないな…」
「だな…まあ攻略を考えなければ…」
「ダメよ?それこそ色欲の思うつぼよ?全く、人間の欲求を逆手に取って来るんだもの、こんなダンジョンはさっさと潰した方がマシよ!?」
まあ、セシリアの言う通りなんだが…
「そう言えば、サキュが持って帰って来た情報は確かなのか?」
「直接記憶を抜いてきましたから確かですよ♪」
さらっと怖い事をいうサキュだったが、彼女の集めた情報によると、
「本当にあのクロイツェル子爵の息子ってのが、僕らを狙ってるのか?」
「はい。正確にはフィズさんを殺して、私達を仲間に引き入れる算段らしいのですが…」
「はあ…どうしようもないわね…たとえフィズが居なくなってもあんな奴と一緒になる事無いのにね…」
「ん、自意識過剰…それに、フィズさんの仇は私が倒す!」
「あははは…ありがとう。でも、そう簡単にはやられないよ。それに、噂だとダンジョンに潜ってから帰って来てないんだろ?僕達の後を追ったとしたら…」
「多分、先に進んだ可能性が高いわね」
「死んでなきゃいいな」
ちょっと重い足取りではあったが、魔物を倒しつつ通路を進む。暗さの増したダンジョンはどこか不気味な雰囲気が漂っている。
「ん、次の部屋に着いたみたい」
「あの人たちは居ないみたいだね」
「サキュの索敵にも引っ掛からないか…もっと奥に進んだのか?」
「ん?なんだ…?!煙?」
「みんな落ち着いて!」
僕たちは何もない部屋に入ると、足元からガスが噴き出て視界を覆ってしまった。暫く煙に巻かれていたが、デバフや状態異常も無く、単純に時間だけが過ぎて行った。次第に薄れる煙が全て消えると、
「な?僕?それにみんなも?」
「なんだ?僕が増えてる?!」
「ふーん、私が二人になったわね。貴方誰?」
「こっちが聴きたいわ。貴方こそ誰かしら?」
「私ですか?そんなに可愛く無いですね?」
「そっちこそ、私の方が可愛いわよ!」
「ん。誰?」
「ん、私が増えた?」
「はわわッ?俺が目の前に居ますよ!?」
「くッ…みんなも増えてる…これじゃあどれが本物か…」
何も無かった空間には入り乱れる様に自分達のコピーが立っていた。容姿や装備は全く一緒だ。瓜二つの姿がお互いを睨み合っている。
「ドッペルゲンガーね…本物を倒さないとここから出られないみたいね…」
「じゃあ簡単だな。さっさと倒しちゃ追うぜ!」
「でも、どれが偽物か分からないですよ?」
ライオ君の言う通り、見た目では判別がつかない位そっくりだ。喋り方も本物と偽物の区別が付かないのだが、
「あら?そんなの簡単よ♪偽物が本物に勝てる訳無いでしょ?ほら来なさいよ。自分と戦えるなんてそうそう無いわよ♪」
「そうね♪勝った方が本物って事よね!ふんッ!」
2人のセシリアが持つ大剣が暗い部屋でぶつかり合う。ステータスは互角なのかスピードも剣の威力も互角な様だが、
「なかなかやるわね。流石私ね♪」
「この程度で負けないわ!やあッ!」
「良い太刀筋よ。倒しちゃうのが勿体ないわね…でも、『ブレイブ』『ソニックブレイド』!」
「え?ぎゃああああああッ!?!?!」
スキルを使った方のセシリアは、セシリアを両断した。ブシャーーッと鮮血が噴き出ると両断された体が地面に崩れ落ちた。肉塊になった体は形を保てず白い液体に変化すると、地面に消えて行った。
「はい、私が本物よ!」
「おお~、流石セシリア!」
セシリア同士の戦闘中、他のみんなも自分との闘いを始めており、変身出来ないサキュを小悪魔形態に変化したサキュがエナジードレインで消滅させた。スーも触手をまとめた拳を操ると、人間形態の幼気な少女をボコボコに殴り倒して居たし、ライオ君に至ってはライカに変化した姿で相手を困惑させて、魔物の盾の餌食にしてしまった。
「みんなもやるな♪」
「じゃあ僕達も戦おうか♪」
呑気にそういう偽物をどう倒そうか思案していると、偽物が魔法を構築し始めた。一応スキルは使える様だがすべてのスキルを使える訳ではなさそうだ。
「これで僕が本物だ!食らえ!『フレイム』!どうだ!」
燃え盛る炎の弾が僕に向かって飛んできた。威力はそこそこ、精度も悪くない。
「確かに…なかなか良い腕だね。だけど、『アクア』×5!」
「何?!」
バシュン…と水の盾に防がれた火が消えると、
「力の差ってやつを見せてあげるよ♪『分身体』!」
「な?僕が増えた?!」
「それだけじゃないよ♪『フレイム』×5!」
「そうそう♪『アクア』×5!」
「まだまだ♪『サンダー』×5!」
「可哀そうに♪『クエイク』×5!」
「ごめんね♪『スピリット』×5!」
「召されて♪『セイント』×5!」
「え?あ?…ぎゃああああッ…」
分身体から放たれた魔法が偽物に降り注ぐと、僕の居た痕跡すら残っては居なかった。
「終わったよ」
「相変わらず容赦無いわね」
「強い方が本物なんだろ?ちゃんと皆にも認めてもらわないとな♪」
「流石フィズさんですね」
「ん、潔くて格好いい」
「ひえ…」
分身体を回収した僕は、皆と一緒に開いた扉を通って部屋を出た。偽物に入れ替わった冒険者の末路が気になったが、静まり返った部屋は答えを与えてはくれなかった。
「行くわよ?」
「ああ…」
その後も様々なエロトラップを掻い潜り、魔物を倒してはダンジョンの奥深くまで進んだ。
そして、
「そろそろポータルがある頃かな?」
「どうかしら…この扉の奥からなんだか嫌な感じがプンプンするんだけど…」
「そうですね…私の『サーチ』にも凄い魔力の反応がありますよ!」
「ん、強敵」
「はわわ・・・皆さん、怪我をしない様に気を付けて下さいよ!?」
重い扉がゴゴゴゴゴッと音を立てて開き開いた。暗い空間が広がった先、ぼんやりと浮かび上がる魔物の姿がそこにはあった。
「ほう…まさか人間が私のダンジョンの、それも最奥まで来るとは…」
「誰だ!?」
「ごきげんよう。私は魔王軍技術開発部フランケイン。魔族だ」
魔族を名乗った人物は異様な雰囲気だった。継ぎ接ぎだらけの体は様々な種類の皮膚や手足が縫い合わさり、腐臭を匂わせている。
「フランケイン?お前の名前か?魔族がどうしてダンジョンに居るんだ?」
「疑問が多いな…宜しい、死にゆく定めの貴様らには勿体ないが教えてやろう。実験だよ。ダンジョンを意のままに操る実験さ」
「実験だって?!じゃあ、このダンジョンが改変されたのもお前の仕業か?」
「ああ。魔王様が最近ご執心の人間の精液…それらを効率的に集める方法と活用法の実験さ。少し前まで上手く行っていたんだが、ふむ、最近滞っていたのはもしや貴様らの所為か?」
フランケインの鋭い眼光が僕達を睨みつける。
「失礼ね。ダンジョン攻略は冒険者の性なのよ。それに魔王軍の仕業と分かったからには貴方を逃がしはしないわよ」
「ほう…この私を倒すというのかね?」
「ええ!」
「ならば来るがよい!」
フランケインとの戦闘は激闘を繰り広げた。高い身体機能を有しているようで、近接攻撃は勿論、技術開発部という肩書きの通り、魔道具を武器に転用した兵器を使用してくるのだ。
「ほう、なかなかバランスの取れたパーティのようだ。ふんッ!」
「ぐぐッ…」
「ライオ君!」
スーの触手のようにうねうねと蠢く腕でライオ君の盾を殴りつけて来る。攻撃を完全に防ぐ魔物の盾に怯むことなく何度も何度も攻撃を繰り出してくる。構えた盾を何とか踏ん張っているライオ君は自身にサポート魔法を掛けながら何とか耐えた。
「ライオ君!もう魔族だからって関係無いんだから!『魅了』!」
「ん?貴様魔物か?人間と一緒に居るとはどういう事だ?『改造』!魅了など効かんぞ!食らえッ!」
「そんな…きゃッ!?」
バンバンバンッと魔道具から高速で打ち出された攻撃がサキュを襲う。素早く回避したおかげで掠り傷で済んだが、手足を抑え動きが鈍る。
「サキュちゃん!このッ!」
「ん!仲間に酷いことしないで!うおりゃッ!」
「コッチも魔物か?人間に良いように使われおって…私が改心させてやろう!ふんッ!」
懐から取り出した別の魔道具が妖しく光る。周囲を照らす紫色の光がサキュとスーを取り込むと、2人の目から光が失われた。
「サキュ!スー!?」
「クククッ、どうやったかは知らないが魔物は魔物らしく魔王様に従っておれば良いのだ!行ける!人間を魔王様の敵を討ち滅ぼせ!」
「…」
「…」
くるっと此方を向き戦意を喪失したような2人は、悲しそうな顔で僕等を見つめる。彼女達を治そうと『クリーン』を掛けようとするが、
「貴様の相手はコイツラだ。行けッ!」
「ああああ…」
「し…ね…えぇ…」
「お前さえ…お前さえ…」
グジュグジュとした肉の塊が僕とセシリアの動きを阻害する。魔法を受けてもすぐに再生し、セシリアが斬りつけても怯みもしない。
「クククッ、内蔵した魔力の限り再生すら人工の魔物だ。時間稼ぎにはもってこいだな」
「くッ…ライオッ!」
「サキュちゃん!スーちゃん!気をしっかり!俺達仲間だろ!」
「くくくッ…無駄だ無駄だ!さあヤレ!」
「…、…」
「…、…、…」
「…え?」
「どうした!?さっさとその人間を殺すのだ!」
フランケインの指示にサキュは黒い翼を大きく開いた。獰猛な目に力が漲り、魔力の高ぶりが空気を震わせる。隣に並ぶスーちゃんも、下半身の触手が太く凶悪に蠢き編み上げた巨大な拳を大きく振りかぶった。
「サキュちゃん…、スーちゃん…、『リリース』!」
「何?敵に塩を送るのか?!なぜッ!?…んッ?」
「『エナジーバースト』!」
「ん!『ジャイアントスマッシュ』!」
「何ぃッ!?グワあああッ!?!?」
くるりとフランケインの方へ向き直ったサキュとスーは、強力な一撃を奴にぶち込んだ。ライオ君の新スキル『リリース』の効果で一時的にステータスの上限を突破した事で、より強力になった攻撃だった。地面に跪き苦しそうなフランケインに、
「何が魔王様の敵よ!私の大切な人達よ!私の愛の邪魔をしないでよね!」
「ん!たかが魔道具の洗脳なんかに、私達の思いは負けない!」
「そんな…私の作った魔道具が効かない…そんな馬鹿な…」
彼女達の愛に負けたフランケインの耳にさらに悲鳴が届く。
「ああああ…」
「やっと死ねる…」
「く、そ…」
「ん?…ぐあッ!?」
「みんな大丈夫か?」
「待たせたわね」
肉塊を殲滅した僕とセシリアの攻撃が隙だらけのフランケインに追い打ちをかけたのだ。一気に形成逆転した状況にフランケインは不気味な笑い声をあげた。
「まさか、あの肉塊を倒すとは…」
「生憎魔力には自信があるからね。手数なら負けないよ!」
「クククッ…ここまで私を追い込むとは、私も手加減をしている余裕はなさそうですね…」
「手加減?負け惜しみを言わないでよね?」
「ん、さっさと倒す!」
「ふん、多少強いからと調子に乗るな!」
すっと立ち上がったフランケインは注射器のようなものを取り出すと、白い液体が入ったそれを自分に打ち込んだ。
「ぐうッ…うガガガッ…ああああ…!!!!!」
ボコボコボコッと筋肉が盛り上がり体が膨れ上がる。体が2倍3倍と巨大な肉の塊になると、
「コロす…集めた精液を精製した魔力液だ…この魔力が尽きぬ限り、私は負けないッ!!死ねえええッ!!!」
4本の巨大な腕がやたらめったらに殴りかかる。地面を抉り、破片を周囲にぶちまけながら、自傷も顧みない攻撃にライオ君は自身に『リリース』を掛けながらタンクを張る。
「く…重い…長くは持ちませんよ…」
「こっちもそろそろステータスが戻りそう」
「ん、躱すのが精一杯…」
僕とセシリアも攻撃をしながらチャンスを伺うが、
「やっぱり再生もするか…隙を作って一撃で仕留めるしか…」
「それはフィズに任せるわ。ライオ、私とフィズに『リリース』を!」
「りょ、了解です。行きますよ『リリース』!」
「おお!これなら!『分身体』!」
僕は前衛で攻撃を受けて捌く3人の後方から分身体で魔法を練り上げる。
「『アクア』×『スピリット』×『セイント』」×5
「喰らえ!『ウォーターバインド』!」
神聖属性を纏った水の牢獄がフランケインを絡めとる。強靭な水の網が巨体を腕ごと縛り上げると、
「セシリア!」
「任せて!『ブレイブ』『武装解放』『メテオスラッシュ』!!!」
「な?!なに…ッ?ぐおおおおォォォォッ…!?」
巨大になったデモンスレイヤーを上段に構え空中から飛び掛かったセシリアは、流星の如く眩い光を纏いながらフランケインの巨体を一刀両断した。




