第八十一話 ダンジョンに潜むモノ
数日を掛けて色欲ダンジョンに通い詰めるフィズ達勇者一行の噂は、前線近くの町でも噂される様になった。あの厄介な色欲ダンジョンに、何度も挑戦しては順調に攻略を進めているのだ。ギルドの職員を始め、冒険者からも時折声を掛けられるのだが、
「君たちが勇者一行かい?」
「はあ…そうですが。貴方は?」
ギルドで声を掛けて来た青年のグループが僕達の前に立ち塞がり、リーダーらしき人物が質問してきた。見た目は僕等よりも年上だろう。装備もそこそこだ。パッと見で掛けた鑑定結果では、レベルも僕達より位少し上の様だ。
「はッ!この僕を知らないとはね…本当に勇者なのかい?」
「悪い、知らないな…セシリアは?」
「さあ?ごめんなさい。生憎他人に興味が無いのよ。私に何か用かしら?」
「な!?…ん?、君が勇者なのか…なんだ随分とキレイな女性じゃないか!それによく見たら他のメンバーも随分と可愛らしいね…どうだい?今からでもこんな男を捨てて、僕と一緒に組まないか?」
リーダーもその後ろの青年達も、セシリア達を見て目の色を変えている様だ。それに今日はライオ君はライカに転換しているから、男は僕一人しかいないのも気に障った様だ。
「こんなしょぼい男よりも僕達の方が良い思いをさせてやるさ。どうだ?」
リーダーの男はキザッたく髪を掻き上げながらニヤニヤとセシリア達にそう言い放った。
「あら?聞こえなかったのかしら?私は他人は興味ないとさっき言ったわよね?それに貴方達にフィズの代わりはならないわ。悪いけど他を当たってくれるかしら」
「ん、全然強そうじゃないし、興味ない」
「うーん…残念だけど、非常食くらいかな…」
「ちょっと…サキュちゃん?流石に非常食は可哀そうだよッ!?」
「な、な…」
若干一名だけ価値観が違う奴が居る様だが、自分の中の優先順位は人それぞれと言う事にしておこう。
クスクスクス…
遠巻きに僕らの話を聞いていたのだろう。周りからも嘲笑の声が密かに聞こえ、連中はプライドが傷ついたのだろうか、顔を真っ赤にして怒っている様だ。
「貴様ら…僕がクロイツェル家の者と知らないのか?!」
「くろいつぇる…ん?すみません、知りませんね…」
「な?この町を統べるクロイツェル家だぞ?貴様どこの田舎者だ!全く…色欲のダンジョンを攻略していると聞いていたが、田舎者には興味ない。精々死なない様に気を付けるんだな」
「はあ…」
青年たちは口々に悪態を付きながらその場を去って行った。残された僕たちは、
「はあ…ダンジョンに行く前だってのにどっと疲れたぞ…」
「そうね…あの人たち一体何だったのかしらね?」
「私、ああいう人は好きになれません」
「ん、さっさとダンジョンに行ってストレス発散してくる!」
「そうだな…よし、気合を入れ直して頑張ろうか!」
朝から腰を折られたが、僕たちはいつも通り色欲ダンジョンの攻略に向かった。しかし、その後を先ほどの青年パーティが付いて来ようとは知りもしなかった。
「…行ったか?」
「ああ…」
「でも本当にやるのか?」
クロイツェル家を名乗ったリーダーの男は、仲間の質問に悪い顔をして答えた。
「…もちろんだ。この僕の顔に泥を塗った連中だ。男は死んで貰って、勇者だとかいう女や仲間は僕達の慰み者にでもしてやろうじゃないか…ぐへへへッ」
「ああ」
「そうだな」
・・・
・・
・
ぐもおおおお…ドサッ…べちゃ~…
「よし!ミノタウロス撃破だ!皆お疲れ様!」
「ふう、手強かったわね…」
「あのムキムキの筋肉が夢に出て来そうです…」
「ん、殴り甲斐があった…」
「くッ…こんなにタンクをするならせめてライオの方で来るんだった…」
「ははは、まあそういう事もあるさ。でも弱点があって助かったね」
部屋に入るなり自慢の筋肉を活かした突進攻撃を多用し、僕達を翻弄したミノタウロス。大きな体やデカく鋭い2本の角を武器にこちらを幾度となく襲ってきた彼だったが、
「弱点…ね…」
「はあ…ここって何でこんなエッチなダンジョンなんですかね…」
「ん…右に同じ…抗議したい…」
「ははは、そういう点ではライカで良かったのかも…」
「まさか、弱点が裸の女性とはね…」
そう、僕の『弱点看破』によって曝け出されたミノタウロスの本性は、『童貞』だった。女性を狙った攻撃頻度もそれに関係している様で、女性に対して免疫が全く無いと看破したのだ。奴の激しい攻撃を止める為、僕は女性陣の装備を外させ全裸にした。
セシリアの白いエロボディ、サキュの褐色小悪魔スタイル、スーの透き通るような瑞々しい肌、ライカの純情そうな裸体がミノタウロスの眼前に並ぶ。その光景に、奴の逞しい体に備わったペニスが膨張し、見る見る図体が小さくなった。血流か魔力か、あるいは両方か、興奮した性器に集まった訳で体に反比例してペニスだけでっかくなったのだ。
「動きが止まったぞ!今がチャンスだ!『クエイク』×5!」
「『ブレイブ」!『メテオスラッシュ』!!」
「ん!そのデカいだけのイチモツ、粉砕する!うりゃああッ!」
「最後は良い夢でも見てね♡『魅了』♡」
「私は…何もすることないじゃ無いですか、う、うアァ~!」
うん、ライカはタンク兼ヒーラー兼サポーターだもんな。あ、一応盾で殴るのね…可愛いな…
何かが大切に詰まったであろうミノタウロスのイチモツは、未使用のまま体から切り離され、ボコボコにされ絶命した。
白い液体の様に消えたミノタウロスのご冥福をお祈りしつつ、扉を進むと、
「お!これでポータルも3つ目か…ん?これはいつものポータルとは違うのか?」
フィズ達はついに3つ目のポータル部屋まで到達した。普段通りポータルを起動させようとすると、ステータス画面が現れた。
「あら、私もよ?それに他のみんなも」
「ん?あ!ポータルが!」
スーの指摘にポータルに目を戻せば、僕達と同じ様にステータス画面の様なモノが表示されており、そこには、
「『登録済み』?なんの事だ?…あッ…」
ポータルが光ると、僕たちは強制的に入口にあるポータルに飛ばされて戻ってしまった。という事は…、
「お?最初の入口だ…」
「まさか!?折角あそこまで行ったのにですか?」
「ん。やり直し?」
「こんな事ってないですよ~…」
「…みんな、ちょっといい?」
悲しむメンバーの中、セシリアだけは冷静に状況を判断している様で、ポータルに手を翳すと、
ブン…『行先を選択してください。1つ目、2つ目、3つ目、アンロック、アンロック…』
「やっぱり、双方向性になったわ。これで好きな所から始められるわね!」
「おお~!!じゃあ、さっきのミノタウロス討伐が鍵になったのかもな…」
「ん、煩悩から切り離されたミノタウロスのお礼かもね」
「あははッ、きっと夢の中では卒業出来たんじゃないかな?」
「ひえ…」
理由は定かでは無いが、どうやらこれでダンジョン攻略がより早く進められそうだ。僕たちは、余力が残っていた物の、その日は早めに切り上げて、久しぶりに午後は休日を満喫した。今日は朝から嫌な事にも巻き込まれたのだし、そういう意味では休みも必要だ。この町も殆ど見て回っていなかったし、ギルドに報告がてらみんなで町を見て回る事にした。
そんなフィズ達の後を追って色欲ダンジョンに潜入した青年パーティは、フィズ達から離れていた為、彼らがポータルで帰った事など気が付かなかった。青年達も3つ目のポータルは発見したのだが、なぜか起動せず。彼らは不審に思いながらもフィズ達が先に進んだと勘違いして、先を急いだのだ。
「待って居ろよ…弱った所を確実に後ろから仕留めてやるからなぁ、くくくッ…」
徐々に暗さを増し始めた通路は、先を進む青年パーティを闇で覆い隠した。その先に待ち受けるダンジョンの恐怖が彼らに牙をむくのに、そう時間は掛からなかった。




