第四十話 解放
ギルドへスタンピートの原因であったスキュラの討伐を報告してきた。ここ最近あった女性の行方不明はスキュラの所為だったようだ。スーの髪の毛を証として持って行ったので討伐した事になったのは幸いだ。
そう言えば、その女性たちはどこに居るんだ?まさかもうすでにこの世には…
「ああ、そう言えば忘れてた…」
「忘れるな!で、集めた女性たちは何処に居るんだ?まさか海の底か?」
「そんな事はしない。彼女達は南の小島で生活して貰ってる。まだ『支配』の影響を受けてるだろうけど、ちゃんとした生活をさせてるよ」
「なら、早く支配を解いて解放しなさい。このままじゃスー、貴方を本当に討伐するわよ?」
「ハワワワ…するするから!!その大剣を下して」
大剣を構えるセシリアに恐怖したスーの話によれば、集めた女性たちは沖合の島で生活させている様で、彼女達とウハウハハーレム生活を楽しむ予定だったとか。百合好きだったスキュラ時代を考えると、今のスーは女性より男性に傾いていると言えるだろう。
「じゃあ、夜の内に女性達を解放しようか。昼間よりは人目も無く安全だろ?」
「今からですか?夜の海はより強い魔物が出るってお客さんが言ってましたよ?」
「ん?まあ僕達なら大丈夫だろ?」
僕らは早速、宿を出ると海岸へと向かった。海岸に着くとスーは沈没船を呼び出すと、
「じゃあこれで島まで移動する」
「やっぱり船を呼び出すスキルは便利だな。スーのステータスはと…」
~スー ~
種族:スキュラLv3(低級)
名前:スー
年齢:不明
状態:健康、支配
装備:深海のワンピース
スキル:船呼び、広域支配、タフ
船呼び:船を呼び出す。魔力を消費して船を動かす。
広域支配:声を一定範囲に残し、対象を支配する。持続して効果を発揮するため魂の深層に残り易い。
タフ:受けたダメージを蓄積し、自身の身体機能を向上させる。倍率1.125倍。
「さあ、行くわよ。シャナは危ないから船内から見ていなさい」
「分かりました」
船を沖合に向け動かす。夜の海は波も穏やかで静かだったが、
「この先、魔物の海域を抜けるの。私だけなら問題無いけど、今日はフィズさん達が居るから戦闘になると思う」
「任せなさい。戦闘はお手の物よ、ね、フィズ?」
「ああ、スーは気にせず船を進めろ」
「了解。ん、魔物が来るよ」
海が盛り上がり、槍を持った魔物が浮かび上がって来た。月に照らされた姿は魚の頭をしたじ魚人の姿だった。
「マーマンよ!槍の攻撃に注意して!フィズ!」
「ああ、先手必勝だ。『サンダー』×3!」
ズババババーンッ!と雷鳴が轟き、海中のマーマン達に向かって雷が落ちる。水に濡れたマーマンは集団で致命傷を負い、痺れて動けない個体が多数出た。魔法で対処しつつ、接近して来た敵はセシリアの大剣が薙ぎ払っていく。ライオ君の回復やサポートがばら撒かれ、サキュも魅了で同士撃ちを誘発する。
初めは海面一杯に居たマーマンであったが、徐々に数を減らし、セシリアの一太刀が最後の一体を屠ると、再び静かな波間が戻った。
「ふう、終わったか?」
「すごッ…あの数のマーマンを殆ど2人で倒しちゃった」
「スー、この先の航路は?」
「えっ?あ、うん。島まではもう安全だと思う」
そう言うと、スーは船を進めた。沖合の島までは安全らしいが、僕達は周囲を警戒したながら進んで行った。船の行く先を見据えていたスーであったが、
「ん?」
「どうした?」
「え?いや、目的地の島から煙が上がってる…」
「どう言う事?」
「分からない…けど何だか嫌な予感がする…ちょっと急ぐから皆落ちない様に捕まって!」
「うおっ!?」
「キャアッ!」
船の揺れが激しくなると、波を削るようにスピードを上げて船を進めた。ギシギシと船体を軋ませながら進んだ船は、激しく揺れ、浅瀬に乗り上げながら沖合の島に到着した。
「到着した。皆急いで!」
「おい!スー、待てよ!」
スーは一目散に煙の上がる村へと移動して行く。どうやら酷く荒れた村が目的の場所の様だ。焦げ臭い匂いを辿り僕らも急いで村へと移動すると、目の間には壊れた家々や荒れた畑が見える。
「これは…」
「何だか嫌な気配がするわね…スー、捕らえた人達は何処?」
「分からない。支配の影響が途切れちゃってる」
「そうか…サキュ!」
「やってるよ…、…、…?反対の岸辺に結構な数の人間と、魔物かな?集まってるみたい…」
「魔物?まさか!?」
「おいスー!待て!」
僕の静止も聞かずに村を飛び出したスーは急いで海岸を目指した。そこには女性の体を犯す海獣の魔物が居た。鬣を持ったトドの様な巨体で、女性に腰を打ち付けてはオウオウッと図太い声を上げて鳴いている。
「シーライオン!お前か…私の物に何をしてるの!」
「ああん?!誰かと思えばスキュラ、お前か?!てっきり人間に倒されたかと思ったが生きてたのか」
「そんな事はどうでもいいの。彼女達を返して」
「ああ!?返してだ?こいつ等は俺が見つけた人間だぜ?俺がどうしようと俺の勝手だろ?」
「お前、ここが私の縄張りだって知ってるはず。だから態々襲いに来たんでしょ?早くその粗末なイチモツを仕舞って。握りつぶすよ?」
スーとトドの魔物は知り合いの様だ。だが決して仲が良いとは言えない様だが、
「スー!そいつが犯人か?」
「んん?!おいスキュラ!お前まさか人間とつるでんのか?!かーッ魔物の風上にも置けねえな…やっぱりお前もさっさと犯しちまうべきだったな…ん、そうか…人間側に居るって事は敵って事だよな?なら俺がお前をどうしようと俺の勝手だよな!」
「ぐうッ…負けないよッ!」
シーライオンはニヤリと笑うと、スー目掛け取っ組み合いを仕掛けてきた。太い腕が彼女を襲うがスーも負けじと太い触手で抵抗する。
殴り殴られ拮抗する状況に、僕らも参戦しようとするが、
「邪魔しないで!これは私の戦いだから…」
「スー…」
「はっ!力で俺に勝てるかよ!フンッ!」
「ぐふっ…分かってないね…力だけだからこれまでも私に勝てなかったのにさッ!」
「ぐおっ!?」
重い一発を貰ったスーだが、お返しに触手で首を締め付ける。腕2本に対して数多の触手、明らかにスーが有利だが、
「くっ…今までならな…だが、これを見てもそんな強がりが出来るか?来いお前達!」
「ん?!」
シーライオンの掛け声に、後で倒れていた女性達が起き上がると、一斉にスーに向かって群がってくる。人間とは思えない力で噛みつき、引っ掻き、触手をズタボロにする。
「ぐっ…や、止めて…」
「へへへッ、どうだ?数には勝てねえ様だな、それとも人間と仲良し小好しで、反撃も出来ねえか?うらっ!」
「かハッ…」
取り付く女性達に気を取られたスーは、シーライオンから前蹴りを食らう。思い通りに触手が使えず、自由になったシーライオンから、一方的にボコられ続けた。
「へ!ザマァねえな!これまでのお返しだ。これからはそこの人間共々、たっぷり俺が可愛がってやるぜ、ぐハハハッ」
「…それは無理、お前なんかに勝てるわけない…」
「あ?まだそんな減らず口を叩ける元気が有るのかよ?そろそろ負けを認めたらどうだ?ふん!」
「ぐっ!…そんなんだから、お前は私に勝てないんだ…」
「はぁ?この状況で何を…ん?」
人間に触手を抑えられて無防備なスーをタコ殴りにしていたシーライオンだったが、スーの異変に気が付くと、その場から遠退いた。
これまで触手を取り押さえ、攻撃していた人間らがそれを止めたのだ。それだけでは無い。目の前のスーから蒸気が上がり、青い体が赤に染まる。
「な、なんだっ!?おい!お前ら早くそいつを取り押さえろ!!」
命令に反応することも無く立ち尽くす女性らに苛立つシーライオン。彼の『ハーレム』で服従状態であったが、スーは殴られながら触手から直接『広域支配』を彼女らに上書きしたのだ。
今やスーの『支配下』に、置かれた女性たちは、スーの命令に従い。その場から逃げ出すと、
「さあ、これで邪魔は居ないよ?たっぷりお返ししてあげるからね♪」
「な、な?!そんな、この、俺が、こんなヤツにまた負ける?く、くそッ、舐めるなーーーッ!ぐふっ?!?!?!」
力を込めて殴りかかって来たシーライオンだったが、赤くなったスーは冷静にその動きを見極めると、その一撃をオデコで完璧に受け止めた。
その一撃すらも力に変えて、触手で編み上げた巨大な拳をシーライオンの頭上から思い切り叩き付け砂浜を肉塊と血で汚したのだった。
「ふっ………」
「スー?!ライオ!回復を!」
「了解です!『ヒール』!」
ダメージを食らい過ぎた所為か、その場に倒れ込むスーに駆け寄ると、ボロボロになった彼女を回復させる。
「全く…、無茶するなよな?」
「う…、これもケジメだから」
「それにしても驚いたわ。スーって武闘派だったのね?」
「見直した?」
「ああ、格好良かったぞ!」
照れるスーは赤く染まる顔以外はいつもの青い体に戻っていた。スーを休ませつつ、サキュに女性達を纏めて貰い『クリーン』で浄化する。
これでシーライオンの影響も汚れも元通りだ。疲弊した彼女らもライオ君に回復させると、スーの回復を待って僕らは船へ帰還する事にした。
「シャナ、待たせたな」
「お帰りなさい。大丈夫でしたか?」
「ああ、この通りさ。さぁ街に帰るぞ」
「ここ、誰も居なくて良い島ですね。次は明るい時に来てみたいです…」
「あ~そうだな、今度はシャナも水着で遊びに来ようか♪」
「はい♪♪♪」
そう言って嬉しそうにするシャナの頭を撫でると、連れてきた女性達を託して、僕らは甲板で周囲を警戒しつつ街へと戻った。
海岸で女性達を降ろすとスーの『広域支配』で都合よく記憶を改変する。シーライオンから受けた陵辱は、綺麗に忘れさせると彼女らを解放したのだった。




