第三十四話 失踪
海の魔物狩りへと赴いたフィズ達であったが、ライオ君が何者かに支配され襲い掛かって来たのだった。ちょっと手強いライオ君を何とか浄化して事なきを得たのだった。
「でもどうしてライオが?」
「さあな…強力な『支配』なんて状態を掛けた魔物が近くに居るはずだが…サキュ、何か掴めたか?」
先程から『サーチ』で辺りの様子を観ているサキュに声を掛けだが思った成果は無かった様だ。
「私やセシリアさんはなんとも無かったんですけどね…」
「そうね…ライオは…」
「くっ…セシリアそれ以上は言ってやるな…」
きっと心の持ちようが影響してしまったのだろう…
「サキュは魔物でサキュバスだし、セシリアは一応勇者出しな。影響が無かったのは幸いだよ。それにライオ君と違って魔法への対処も完全では無いからな、もしもの時は僕が浄化出来るさ」
「本当にね。しかし、ライオを敵に回すと厄介ね…以外と手こずったわ」
「確かに!フィズさんやセシリアさんが居るから影が薄いですが、ライオ君もそれなりに戦えますもんね!ちょっと見直しました!」
今回の事でライオ君の株が上がって居るが本人は未だに気絶したままだ。この状態で戦うのは危険と判断し、僕達は街へと帰還する事にした。
「ライオ君…」
「心配するなサキュ。もうじき目を覚ますさ」
「ステータス上は問題無いのよね?」
「ああ、ほら…」
~ライオ~
性別:男性 (年齢:13歳)
職業:ヒーラーLv5(称号:お猿さん、射畜)
状態:従属化
「な?なんともないだろ?」
「そうですね…特に変な所は無いかと…」
「そうね…」
フィズの見せたライオ君のステータス画面は至って普通であった。フィズも含め、皆の目は輝かしい称号の数々に目を取られており、ステータスが消える瞬間にノイズが走った事に誰も気が付かなかった。
ザー…ザッ…
状態:従属イカ
「そうだ!ギルドに報告と魔物を下してこないとな…うーん、参ったな。結構な量を倒したからみんなで行かないとライオ君の分まで運べないぞ…」
「明日でも良いんじゃないかしら?」
「そうだな…今日までのクエストだったし、結構な金額だから出来れば今日中に…」
「ん?みなさん何かお困りですか?」
部屋で困って居た時、丁度扉が開くとそこにはシャナちゃんがおり、
「そういう事でした私が看てますよ?」
「え?でも宿の仕事はどうするんだ?」
「それなら今日の仕事は終わってますから、お母さんに遊んで来なさいって言われてます。私で良ければライオさんが目覚めるまで一緒に居ますよ?」
「じゃあ、お願いしようか…ごめんねシャナちゃん…」
「あとでこのお礼は沢山するわね」
「やったぁ!ゆっくり行って来て下さいね!」
僕らは、シャナちゃんにライオ君をお願いすると、急いでギルドへと走った。そのお陰で、何とか納品時間に間に合った様だ。お土産を持ってライオ君が待っているだろう部屋に急いで帰ると、そこは居るはずの彼の姿は無かった。
「あれ?起きてどこかに行ったのかな?」
「お風呂にも居ませんよ?」
「海の方も見て来たけど、誰も居なかったわ」
辺りを探しても居ないので、もしかしたらシャナちゃんと遊びに行った可能性もあるかと、暫く待ってみたのだが、夜になっても帰ってこない。それどころか、
「え?!シャナちゃんも帰ってこないんですか?!」
「そうなんだ…あの子がこんな遅くまで帰ってこないなんて、今まで一度も無かったんだよ…何だか胸騒ぎがしてね…全くどこほっつき歩いてるんだか…」
女将さんは心配そうに外を眺め、いつまでも娘の帰りを待っていた。
「フィズ…」
「ああ、これは変だな…女将さん、ちょっと出かけてきます。もしライオやシャナが帰ったら引き留めておいてください」
「ん?ああ、気を付けるんだよ!」
女将さんにそうお願いすると、夜の町を探し回った。セシリアの従属化が問題無ければ何となく気配が判るらしいが、
「どうだった?」
「いえ、こっちには…フィズも?」
「ああ、さっぱりだ…サキュの方もか?」
「はい…それらしい反応はありませんでした…」
それからも探し続け、朝日が海から登って来た。僕らが朝の街で途方に暮れていると、何やら住民達が騒いで居る声が聞こえて来た。
「おい、海に海賊が出たらしいぞ!なんでも大量の海賊が上陸したらしい」
「ああ!ギルドが慌てて冒険者を集めていたぞ。まるでスタンピートだとよ」
「このままじゃこの街も飲み込まれちまうのか?」
ライオ君とシャナを探して居るという時にスタンp-ト…最悪のタイミングだな…
「仕方ない…セシリア、サキュ!捜索は一旦後回しだ。僕達も応援に行こう!」
「くッ…そうね…」
「全くライオ君もシャナちゃんもどこに行っちゃったんですか~!?」
冒険者が走っていく方向に、僕らも足を進めた。遠くからでも海辺から戦う音が聞こえ、魔法が飛び交う様子が伺える。水際で抑え込もうと広く拡がり戦う冒険者達に混ざり、海賊と対峙した。
「ぐががががッ…」
「スケルトン!?それにグールか!?」
「それだけじゃないわ!クラーケンやお化けダコも居るわね…」
海賊の様な恰好をした骸骨に死体が海辺に群がり、その後ろには巨大なイカにタコの魔物が2体も居る。剣を持った冒険者は目の前の海賊を、魔法や弓などを扱える者は後ろに控えるイカとタコに攻撃を集中している様だ。
「セシリア、サキュと前線を!みんなを鼓舞しながら戦え。サキュは魅了を!」
「任せて『鼓舞』!」
「死体に好かれたくないんですけど!?『魅了』!」
セシリアの鼓舞でこちらの戦力はアップした。さらに、魅了された魔物同士が戦う事で被害が減った。僕も、
『サンダー』×3!
『セイント』×3!
『スピリット』×3!
ずごごごーんッ!びーーーーんッ!ゴおおおおーッ!と巨大なイカとタコの魔物に魔法を食らわせる。巨体を大きく削り、体力を削った事で、周囲から歓声が上がる。
これで大丈夫だろうと安心したのだが、
「『ガードアップ』…『プラスアーマー』…」
「何?!海賊達の防御力が上がったわよ!?」
前線の海賊が硬さを増し、冒険者の攻撃がビクともしない。そればかりか、
「『ヒール』…『リジェネ』…」
「な?!削った巨体が回復していく…?」
クラーケンとお化けタコの傷が徐々に塞がり、水の砲弾で攻撃や墨を履いてへデバフを振りまいてきた。
「これの感じ…まさか?」
「え!?『サーチ』に反応あり、海の奥にライオ君が居ます…なんで?」
「ああ、見えたぞ…ライオ君だ…」
海に浮かぶ巨大な海賊船が見えた。その甲板に立つライオ君の姿も…
「…」
・・・
・・
・
フィズ達がギルドへと向かってすぐ、気絶したライオ君は強力な存在が離れた事を感じとり目を覚ました。向くりと布団から起き上がったライオ君を見て、驚いたシャナは、
「あ!ら、ライオさん、大丈夫ですか!?今さっきフィズさん達はギルドへ…らいおさん?キャあッ!」
無表情でシャナに迫ったライオ君は、近くにいたシャナを捕まえると、耳元で何かを呟いた。その言葉を聞いたシャナは、目が虚ろとなり力が抜けた様だ。
「…」
ライオ君は静かにシャナを担ぐと、プライベートビーチの方へ歩き、そのまま海の中へと消えて行った。海の中を移動するが不思議と息が続く。まるで魚にでもなったかのように、暗い海を沖へと向かって移動すると、
「あら?男がなんで私の船に?」
海に沈んだ海賊船に着くと、訝しげな声が辺りに響く。イカの様な吸盤を持つ足で船内から女の姿が這い出てきた。青髪長い触手の様な髪に、青い肌。黄色い目が闇の中でライオを見ていた。
「…」
「あら、やっぱりこの子、私の呪いが残っているわね…女にしか掛からない筈なのに」
その場にシャナをゆっくりと降ろすとライオもその場に倒れた。どうやら呪いの効果が消えたようだ。
「あら?男なんて汚くて嫌なんだけど…さっさと処分して…そうだわ!そう言えば魔王様が男の精液を集めているって言って居たわね…私の呪いで男を集められれば魔王様に貢献出来るかも…」
そうだ、この子で実験しましょ♪
そう思いたった魔物はライオに近づくと、触手の様な足で手足を拘束し空中へ固定した。そして、ペシンッと頬を叩きライオを目覚めさせた。
「ううッ…あ、あれ?ここは?」
「気が付いたかしら?」
「うわぁッ!?だ、誰?!ここは何処!?うぐっ…」
慌てふためくライオの首を触手でグッと締めると、苦しそうな顔を見ながら笑う魔物は、
「静かにして。今から実験に協力して貰うんだからさ」
「ぐっ…じ、っけ…んッ?!」
「そう、このスキュラちゃんの実験♪君はなんで私の呪いに掛かったのかな?見たところ女には見えないし…」
「や、やめ。て…」
「あー、抵抗しないの!そうだ!あんまり抵抗すると君が連れてきたこの子、酷い目に合わせちゃおうかな♪」
ライオの目の前にシャナを見せつけるスキュラは、触手を少女の体に巻き付け、首を絞めながら笑っている。
「シャ、ナちゃん…どうして?!やめて、彼女を返して…」
「あれれ?君がここまで運んで来たのに?これは私への捧げモノだよね?私がどうしたって構わないよね?」
「がっ…」
俺が?彼女を?!理由はどうあれ冒険者でもない少女を危険に晒す訳にはいかない…
「ぐっ…」
「そうそう♪抵抗しなければ痛くないからね♪」
スキュラは、触手でライオを弄ぶが、一向に精液を出さない彼にイライラし始めた。
「ちょっと!全然精液ってのが出ないじゃない!さっさと出しなさいよ!」
「うッ…そ、そんなの無理だッ…」
「ちッ…時間の無駄よね。そうだわ、また呪いで支配しちゃえば良いのよ!うふふ」
スキュラは、ずいっと近づくとライオの耳元で呪文を呟いた。
『支配』!
「くッ…」
ライオはぼんやりとした瞳で虚空を見つめてしまうのであった。




