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転生した辺境男爵家の少年は、魔術具で世界を変える  作者: エナジーコット
人類の領域

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第99話 野営の魔術具(10歳)

 魔物の死体を埋め終えると、一行は少し開けた場所へ移動し、野営の準備を始めた。

 兵士たちは慣れた手つきで周囲の警戒や薪集めを進める。その横でサミュエルは持参した魔術具を取り出し、一つずつ地面へ並べていった。


「隊長、少し時間もらえますか?今回色々な魔術具を持ってきたので使用許可が欲しいのですが……」


 先ほど、事前に話してほしいと言われたため、どういう効果の魔術具があるか、戦闘用と野営用、両方の説明をすることにした。


「いいだろう。説明してくれ」


「はい、では順番に――」


 サミュエルは持参した魔術具を一つずつ説明した。


「色々と考えたものだな……。魔力に問題がなければ野営用の魔術具は全て使っていいぞ。それとあの二人にも使いながら効果を説明してやってくれ。場合によっては使わせてやってほしい」


「ありがとうございます。わかりました」


 サミュエルは隊長に説明を終え、許可をもらうと魔術使い二人の元へと向かった。

 これから使う魔術具を二人にも実演するためだ。


 魔術使いの二人には経緯を説明すると、隊長命令ということもあり快く承諾してくれた。


「それで、どんな魔術具があるんだ?」


 男性の魔術使いが早速サミュエルが持ってきた魔術具に興味を示した。


「でははじめに……竈はどこに作りますか?」


「そこでいいんじゃない?一つは作り始めているけど、もう一つは必要だと思うから」


 女性の魔術使いが大まかな場所を教えてくれたため、サミュエルは一枚の紙を指し示した場所にそっと置いた。

 紙に魔力を流すと、周辺に石が生成され、竈が形成される。


「さっきの穴を掘った魔術具に似ているな。さしずめ、竈を作るための魔術具……ってところか?」


「はい、そのとおりです。ただこっちは石生成の魔術ですね」


「アースムーブじゃ駄目なのか?」


「魔力消費はそっちのほうが少ないのはいいんですが、地形次第じゃ使えないかもしれないので……。石生成ならどこでも使えるので使いやすさでこっちにしました」


 土操作の術式は土とあるが、実際は土だけではなく、極小の砂や石も動かせる。これは穴を掘る際は掘れる地形で使うこと前提のため問題はなかった。


 だが竈作りを土操作の術式に頼ると、土で作るか、石で作るか。どちらかに決めないといけない。そうなると土がほとんどない岩場のような地形では土の竈は作れず、その逆も起こり得ると考え、一から石を生成する術式にした。


 石生成は土操作より魔力を消費するが、差はそこまで大きくない。

 あらかじめ決められた形に石を生成することで、平地であればどこでも即座に竈を作ることができるようにした魔術具だ。


「へー……よく考えられてるんだなあ」


「使う人の視点……使う人のことを考えて作れと師匠や工房の人たちに教わりましたから……」


「魔術技師って思ってるより大変なんだね」


 二人に褒められてサミュエルは照れ隠しから、師匠やミーナからの教えを盾にして、恥ずかしさをごまかした。


「他にはどんな物があるんだ?」


「あとは……虫除けの魔術具ですね」


「あー、それは知ってるぞ。でもそれって室内で使うものじゃないのか?」


 男は過去に見たことがあるのか、貴族の屋敷などで使われている虫除けの魔術具のことを知っていた。


「はい、本来の魔術具はそうですね。それに香炉みたいな外観をしているものがほとんどです」


 しかしサミュエルは屋外で使えるように、さらにこちらも持ち運びのしやすさを重視し、紙に描き写していた。


「虫除けの術式の他に、とても弱い送風の術式を入れています。これを一定間隔で周辺に虫除けの効果を撒き散らすようにしています」


 従来品は、発動中常に魔力を消費し、虫除け効果を垂れ流すだけのものだ。室内であればそれで十分だが屋外ではそうもいかない。


 そのため、水面に投げ入れられた波紋のように一定間隔で決められた範囲に虫除け効果を広げることで消費魔力を抑えつつ、効果時間を伸ばすことに成功した。


「そうなのか……ところで虫除けの魔術ってなんで虫が逃げていくんだ?」


「正直そこまではわかりません。ただ色々試したところ、目に見えない虫が嫌がる空気みたいなのが出ているみたいです。だから送風術式で広げることができました」


 サミュエルは王都の本屋で見つけた術式を参考にしたに過ぎない。そしてなぜそれで虫除けが実現できているのか、細かい理屈まではわかっていなかった。


「あとは……食後に設置する予定ですが、警報具を改良したものですね……」


「ああ、貴族の屋敷や大商会でよく使われてるやつな」


 警報具は侵入者検知時に大音量で鳴る魔術具としてすでに存在していた。

 しかし今回は野営で使うことを想定しているため、音だけでなく機能にも手を加えている。


「これは音だけじゃなくて、反応した場合、点灯の術式で周囲が光るようにしました。これで近づいてきた相手を視認できますし、急に明るくなることで相手を光と音両方で驚かすことができます。ただこれはそこそこの大きさの虫にも反応してしまうので、虫除けの魔術具の範囲内で使うこと前提ですね」


「それより気になったんだけど……紙の魔術具ばかりね。いままで紙に術式を描いただけの魔術具なんて見たことないけど前々から作っていたの?」


 穴掘り、竈、虫除け、警報、ここまで見せた魔術具はすべて紙製だったことから女の魔術使いが疑問を口にした。


「えっと……、同じ術式の魔術具自体は半年以上前から考えて作っていました。それは紙じゃなくてもっとしっかりした【道具】の形をしています」


「じゃあなんで?」


「時間遅延爆発具の開発で紙でもいいということがわかったので、持ち運びの便利さを考えて紙に書き写したんです」


 もっとも、紙なら何でも代用できるというわけではない。術式によっては紙との相性が悪く、従来どおりの魔術具でなければ実用にならないものもあった。


「でも点火具や浄水具、あとは造水器などは紙に描き写して使うことはできませんでした。使うと燃え尽きるか水浸しで二度と使えなくなるので……」


「ああ、それでそんな多くの荷物を一人で抱えていたのか」


 男はサミュエルが背負っている大きめの袋に視線を移した。


「それにしてもお前、よくそんな大荷物を平然と持ち運べたな」


 男から見てサミュエルが日頃から鍛えているのはわかる。だがまだ十歳になったばかりの子どもが持ち運ぶには辛いのではないかと考えた。


「ああ、この背負い袋も魔術具なんですよ。持ってみてください」


 そう言って、サミュエルは男に袋を手渡した。


「軽いな……。中身は……色々入っているのにありえない軽さだぞ」


「これは重量軽減の術式をかけてあります。ただ範囲が広いと魔力消費量が大きいのでこの大きさが実用範囲としては限界ですけどね」


 これも虫除けと同じく、王都の本屋で見つけた本に書かれていた、重量軽減の術式だった。だが範囲や軽減倍率を増やすにつれ、魔力消費量が増えることから、ほとんど使われていない。


 商人なら重宝しそうだが、魔力補充のために魔術使いを雇い、行商や配送に同行させるほうが高くついてしまう。よっぽど稼ぎのいい大商会でもなければ使っていないであろう術式になっていた。

 そのため、あれば便利だが実用的ではないと判断された術式だった。


 だが今回のように個人で持ち歩く範囲の荷物であれば、魔力消費も少なく、遠征のように魔術使いが1人いるだけでかなり楽になる代物だと考え、サミュエルが開発した。


「これはいいなあ……。いや本当にいいな……。魔力消費はどれくらい?」


「1個で初級魔術の氷生成1回分ぐらいです。大体半日は持ちますね。あと保冷箱と一緒で生き物には軽減効果がないですね」


「いやいや、それでもこれは助かるよ……。この部隊の全員に配備してもらっても氷生成11回分でしょ?それで出発から野営まで持つなら凄く欲しい……」


「でもこれ高そうだぜ?いままでのと違って作りがしっかりしてる」


 男は重量軽減の背負い袋の細部をひとつひとつ、丁寧に確認していく。

 背負い袋の形状は前世でのバックパックを参考にしているため、大容量でポケットも付いており、肩紐が食い込んで痛い思いをすることもない。


「ええ……。街の縫製職人に手伝ってもらいましたが、結構細かい注文を付けたため、文句を言われて作ってもらいました。結構手間がかかったから、それなりの値段がすると思います」


 丈夫でなければならないことからも、革製で縫いにくいのにも関わらず、細かい機能も付けたため、職人からは嫌な顔をされた。その分料金は多めに払ったが。


「そっかあ……。でも欲しいなあ」


 女であり、魔術使いでもあることから、他の兵士より力や体力が少ないのだろう。高いと言われても諦めきれないようだった。


「えっと……、今回で使った魔術具の結果は全部辺境伯様に報告するので、もしかしたらですが、支給されるようになるかもしれません……」


「本当!絶対だよ!いいように報告してよ!」


「あの……もしかしてなので……期待はしてほしくないかなあ……って」


 よっぽど欲しかったのか、女がサミュエルを見る目が怖くなっていた。


 そうして、一通りの魔術具の説明と野営の準備を終えると、集まって食事に入ることとなった。

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