第100話 違和感の正体(10歳)
部隊員全員で食事を取っていると隊長が今日の振り返りを始めた。
「皆のおかげで今日は50体以上の魔物を処理できた。ご苦労だった。」
その場にいる10人は黙って隊長の話を聞き続ける。
「それと気になることがある。音に引かれてやってきたとは思うが……あまりにも数が多いとは思わないか?」
「そうですね。どこまで聞こえたかはわかりませんが、落ち着く暇もなくすぐに集団が現れたことを考えるとあまりにも多いと思います」
他の兵士が隊長の言葉に同意する。
彼らの経験からしても、明らかに多すぎる量の魔物だったからだ。
「そこで副隊長と相談したのだが……、もしかしたら小規模な魔物領域ができているのではないかと予測が立った」
隊長の言葉にサミュエルと副隊長以外に緊張が走り、ざわめき出す。
「落ち着け、あくまで予測だ。だがないとは言い切れないため周辺の魔物討伐を進めつつ、魔物領域の探索をする。もし魔物領域が見つかり、規模次第ではそのまま消滅させる予定だ」
「消滅……させられるんでしょうか?」
「それは見て判断しないとわからん。だがこの辺りに魔物領域があった話はない。まだ出来たばかりで規模は小さい場合、消滅させられるだけの準備はしてきている」
魔物討伐に向かったら、出来たばかりの魔物領域を発見した。
よくある出来事ではないが、稀有な事例というわけでもない。
そのため、小規模であれば即座に消滅させられるだけの人員と装備を用意するだけの余裕が辺境伯軍にはあった。
「あの……魔物領域ってどうやって探すんですか?」
サミュエルは魔物領域を実際に見たことがなかった。
「正直手当たり次第探索するしかない。魔物領域に入れば感覚でわかるから入るまでとにかく歩き回る形になるな」
魔物領域に足を踏み入れると、人類は感覚でわかると以前に聞いたことがある。
おそらくそのことだろうとサミュエルは当たりをつけた。
「とりあえずはこのままさらに東に向かう。食料が保つかぎりはできる限り探索をするぞ。いいな」
「はい!」
隊長の指示に兵たちは呼応する。誰一人として嫌そうな顔はしていない。
「サミュエルも付き合わせることになってしまいすまない。だが近隣の村人のためにも今のうちにできれば潰しておきたい」
魔物領域は時間が経てば当然大きく成長していく。そうなると真っ先に被害に合うのは近くに住む村の人々だ。
「大丈夫です……。それに僕も戦えます……」
「ありがとう。そいつは頼もしいしな。だが付き合わせておいてなんだが、無理はしないでくれよ」
サミュエルは兵士ではない。それにレオンからも最優先で守るように言われている。
なにがあろうと彼だけは無事に返さなければと隊長は決意を新たにした。
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翌日、野営の後片付けをし、出発の準備をしていると隊長がサミュエルに話しかけてきた。
「虫除けの魔術具のおかげか、虫に悩まされることなくしっかり休めたようだ。感謝するよ」
「お役に立てたのならよかったです」
寝ている者たちだけではなく、夜番の者も虫で嫌な思いをせず過ごせたようで隊長からお礼を言われた。
警報具のほうは幸い、活躍することもなく回収することになった。
「それではさらに東に向かうぞ。なにか気になる所があれば適宜報告するように」
出発の準備を終え、隊長が全体に指示を飛ばすと、一行はその場を後にした。
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しばらく歩いたが、魔物と遭遇することもなく探索は進む。
「やはり昨日、周辺の魔物を一気に討伐できた影響でしょうか?」
周囲を警戒しつつ進む兵が、すぐ後ろにいる隊長に話しかける。
「かもしれんが、警戒だけは怠るなよ」
兵の発言に隊長が同意はしつつも、隊長としての注意を促す。
しかし隊長はそれほど心配はしていなかった。
魔物の気配がまったくしないどころか、動物の気配もない。
小さな虫などはいるだろうが、ある程度の大きさの生物の気配が一切ないのだ。
とにかく、まっすぐ東に進んでからどう動くか改めて考えようと思い、部隊はそのまま東に向かう。
しばらく経つと、部隊の真ん中に位置していたサミュエルが突然小さな違和感に気づき、足を止める。
「おい、どうしたんだ?」
すぐ後ろを歩いていた兵が立ち止まったサミュエルを不思議に思い、問いかける。
「あの……なんか変じゃないか?」
「ああ?なにがだ?」
「いえ、なんか違和感があるというか……」
サミュエルは言葉にできない違和感を覚えた。しかし、以前似たような感覚に襲われた記憶があった。
「おい、どうした?」
サミュエルが止まったため、少し前を歩く形になった隊長たちが後ろを振り返り、サミュエルより後ろが止まっていることに気が付き、声をかけてきた。
「いや、こいつがなんか変だって言うんですよ」
肌で感じる空気が少しだけ重いような、空気そのものに何かが混じっているような感覚は初めてではない。しかしすぐに思い出すことができなかった。
「おい、サミュエル。どうした」
「いえ、ここにきた瞬間、違和感があったんです。少しいいですか?」
サミュエルは違和感を感じた位置から、南側に一歩動くと違和感が消えた。
元の位置に戻ると、再び小さな違和感を覚えた。
東に進むと違和感は残っていたが、ある境を超えると違和感が消えた。
再び元の位置に戻ると違和感は戻り、北側に進むことにした。
「おい、待て!」
制止する声が聞こえたが、サミュエルは止まらない。
そして違和感も消えなかった。
「待てって言ってるだろ!魔物が飛び出してきたらどうするんだ!」
隊長がサミュエルを強く叱責する。
隊長にとっても最優先で守らなければいけない存在が勝手に違う方向に進まれては困る。
「……すみません。あの……こっちに行きませんか?」
「どうしてだ?」
「……さっきからずっと違和感があるんです。さっきの場所から。あそこから南や西に進むと違和感はありませんでした。東に進むと少しして違和感が消えました。でもこっちは違和感が無くなりません」
「なにかあるのか?」
「……わかりません。でももしかしたらなにかあるかもしれません」
サミュエルにもわけがわからない。そのためどうしても隊長の質問には要領を得ない回答になってしまう。
「隊長ー!どうしたんですか?」
兵の一人が代表で何をしているのか聞きに来たが、隊長はその兵に向かって指示を出す。
「全員、ここから北へ向かうぞ」
「ええっ!どうしてですか!?」
「サミュエルがこっちに違和感があると言っている。なら全員で確かめに行く」
そのやり取りを聞いていたサミュエルが隊長の言葉に驚く。
「……いいんですか?根拠なんてないんですよ?」
「東に向かうのは目標がどこにあるかもわからないからとりあえずというだけに過ぎない。なにか気になる所があれば適宜報告するように。と俺は言った。それに対してお前は報告し、その確認が必要だと判断しただけだ」
「……ありがとうございます」
部隊の全員がサミュエルたちの下まで辿り着き、隊長が新たな指示を飛ばす。
「サミュエルがここより北に違和感を覚えていると言う。これより全員で北に向かうぞ。サミュエルはその違和感に変化あれば随時報告しろ。そのため俺の後ろを歩け」
その指示の変更に対し、兵たちは一切不満を言わない。隊長への信頼が厚いのがサミュエルにも伝わってきた。
そしてそこから北に進む。違和感が徐々に強くなってきたため、隊長に報告をする。
「つまりお前が感じているという違和感の正体がこの先にあるということか……」
慎重に、だが確実に前に進む。北へと進む。
進むにつれ違和感が強くなると同時に、過去にこの感覚をどこで経験したかを思い出した。
あれは十歳式のため、故郷に帰ったときだった。
畑に近づいたとき、一瞬だけ感じた違和感。あれがまさにこれと同じだった。
そして今、その違和感を、あの時より強く感じている。
そしてあるところを境に一行は足を止めた。
サミュエルもそれがなんなのかすぐに理解した。
魔物領域に入ったのだ。




