第98話 実戦検証(10歳)
11人の集団は早速森の中を突き進む。
目的地は特にないが、ひとまず魔物を見たと言われる場所へ向かった。
すると先頭を歩いていた兵士が制止をかける。
「前方、魔物の集団が居ます。ゴブリン8体。向こうはまだこちらに気づいていません」
「多いな……よし、では先制攻撃を仕掛ける。例の魔術具の出番だ」
隊長が周囲に指示を出す。距離からして投擲用の道具は必要なく、兵士が投げるだけの体制から、魔術が使える3人が魔力を流し、発動したら投げ込む形で決まった。
「投擲、構え」
隊長が小声で号令をかけると、3人の兵士が土器を手に取り、構えた。
「魔力、装填」
魔力を流す。
「いけます」
サミュエルたちが流し終え、発動したことを合図に兵士がすぐさまゴブリンに向かって投げる。
一つはゴブリンにぶつかって足元へ転がり、一つは足元に、もう一つは少し奥に落ちた。
「gyaa!」
直撃したゴブリンが悲鳴を上げる。ほかのゴブリンはこちらに気づき、一斉に顔を向ける。
「gya!gya!」
こちらを向いて警戒しているが、地面に落ちた土器は一切気にしていない。
そして次の瞬間、乾いた爆発音が空気を切り裂いた。
「どうだ?やったか!?」
兵士の一人が成果を期待した台詞を言う。
土煙が収まると、そこには足が吹き飛んだゴブリン、全身が破片にまみれのゴブリン、破片が刺さった状態で木に体を打ち付けたゴブリンがいた。
生き残っている者は一体もいない。
「うわ……思った以上に凄いことになってるね……」
「僕もここまでとは思ってませんでした……」
破片が突き刺さるのは想定していた。
だが傍で爆発に巻き込まれると四肢が千切れたり、ゴブリンぐらいの大きさだと吹き飛ばされるとは思ってもいなかった。
「レオン様は威力が攻撃用魔術具より弱いとか言ってたけど、これ十分じゃないですか?」
魔術使いの男が隊長に、辺境伯の目算が甘かったのではないかと問いかける。
「いや、これでも火槍杖よりは弱いと思うぞ」
「そうですね。ファイアランスをゴブリンに当てたらこの程度じゃ済まないと思います」
おそらく風穴が開くどころか、完全に炭にしてしまうだろう。ゴブリンには過剰な火力だ。
「次の集団を見つけたら一発だけにして様子をみてみようか。ただしその時は生き残りが多いだろうから、魔術使い以外はすぐに追い打ちできるよう準備しておけ」
今回は駆除のついでに、検証も兼ねていることを隊長は理解しているため、色々試す形で兵に指示を出してくれた。
そして少し進むだけで別の集団が見つかる。相手もこちらに気づいたがすぐに時間遅延爆発具を一発だけ投げ込み、予定通りの実験ができた。
爆発の傍にいた2体は足が千切れ飛んだが、ほかは破片が突き刺さった程度で1体は位置の関係から全くの無傷だった。
しかし生き残っているゴブリンはすべて動きを止めていた。
すぐさま接近した兵士たちが斬り伏せた。
「ほう、こういう効果もあるのか」
大きな破裂音とともに複数の味方が死傷するため、混乱し、たとえ無傷でも動きを止めてしまう。その隙に接近して攻撃する大きな機会が訪れる。
これはサミュエルも想定していなかった効果だった。
「倒しきれなくても追い打ちがかなり楽ですね。下手な魔術師に援護してもらうよりよっぽど助かります」
ゴブリンを斬り伏せた兵士が、隊長の一言に応える形で感想を述べた。
実際、魔術師が援護するより楽だったのだろうが、その言い方には若干の含みが感じられた。
「サミュエル君、これで初級魔術2回分というのは本当かね?」
「はい、使う魔術にもよりますが大体はそれくらいです」
「それでこれだけの効果が得られるならたしかに効率がいいな……」
2回目の集団を倒した結果から、感想を言い合っていると別の兵士が声を張り上げる。
「隊長!敵の集団が近づいてます!」
「なにっ!早いな!戦闘態勢!次は二発投げてみろ!」
投擲の準備をしていると、相手がこちらを発見し、投擲と同時にゴブリンの集団は走ってこちらに向かってきた。
数はおよそ10体。投擲した二発で半分は倒せたが、真っ先に向かってきた3体は無傷で刃を交える形になってしまった。
すでに接触寸前だったため、爆発音にも気に留めず、味方の状況も確認していない。
そのため、先程のように驚きで硬直するようなことはなかった。
だがそこは経験豊富な兵たちにより、危なげなく処理することに成功する。
「走ってくることを考えるともう少し考えて投げないといけないな」
「だけど、投げる場所が手前すぎると我々が危険です」
「そうなると接近されると使えなくなる武器とも言えるな」
「自分たちも手傷を負ってしまうのは弓とはまた違う欠点ですね」
隊長と兵士の会話を聞きながら、心の中のメモにその内容を書き留める。
サミュエルは現状では改良の余地はないが、運用方法の注意点としては必須だと考えた。
「隊長!再び敵集団が近づいています!」
「なにっ!またか!今度はまっすぐ向かってくることを想定して投げろ!同じく二発だ!」
今度は問題なく2発でほぼ全滅させられた。生き残りがいないか近づこうとすると――。
「隊長!別方向からゴブリンの集団が!」
「ええい!またか!同じく二発の準備!」
その後も同じような戦闘が三度続き、そのたびに投擲位置や投げる数を変えながら検証を重ねた。
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「敵集団は!?」
「大丈夫です。もういません」
「しかしなんで次から次へと……」
まともに移動していないのに魔物の集団との連戦が続いた。
幸い、一つの大集団ではなく、五回に分けた集団だったため、危なげなく処理することができた。
「もしかしたら……爆発音に魔物が引き寄せられたのかもしれません」
サミュエルの推察を隊長に話すと、隊長は納得したのか小さく頷いた。
「至近距離で爆発して味方が死ねば驚くが、遠くで爆発音が響けば警戒して近づいてくる。十分ありえるな」
「そうなると、この辺りの魔物は結果的に一掃できたということでしょうか?」
兵士が隊長の意見に乗る形で現状を推察する。
「かもしれんが、警戒は怠るなよ。それとこいつらを埋めるぞ」
目の前には50体以上の魔物の死体が転がっている。中には四肢が爆発で千切れていたり、陶器の破片が突き刺さったうえで斬り伏せられた個体がほとんどだった。
「それなら僕が穴を作ります」
サミュエルがそう言って取り出したのは、文字が書かれた一枚の紙だった。それを地面に置き、魔力を流すと、文字がうっすらと青白く光り、紙の周辺に土の山と穴が出来た。
「……なにをしたのかね?」
「土操作……初級魔術のアースムーブの術式を書いた紙です。少し範囲と穴の深さをとってありますが、魔物の処理が楽にできるようしました」
三年ほど前、初めてマイケルたちの討伐に同行した際、死体の処理に苦労していたのを思い出して作った魔術具だ。見学だけという話だったが、途中でアースムーブが使えることを思い出して手伝うと、とても喜ばれた。
魔術具というには紙に書いた簡単な物だが、討伐に持ち出して使うにはこれくらいのほうがいいと思い、急遽作ったのだ。これなら土属性の適正がない魔術使いでも簡単に死体処理を手伝うことができる。
「穴を掘って、土を寄せただけだが、その作業が大変だからこれは正直助かるな」
「はい、こういった戦闘以外でも使えそうな魔術具をいくつか持ってきているので、そちらも試させてもらいます」
「そういうことなら使う前に教えてほしかったが……まあ助かっているから今回は良しとしよう」
事後承諾になってしまったが、持参した他の魔術具の使用許可がもらえた。
「幸いこの辺りの魔物はほとんど居なくなったみたいだからちょうどいい。魔物の死体を処理したら、近くで野営の準備をするぞ」
隊長が全員に指示をすると、死体の処理を終え、野営の準備をすることになった。
ここでもいくつかの新しい魔術具を使わせてもらおうと、サミュエルは早速試せることに胸を躍らせた。




