第74話 王都観光(9歳)
「え? 王城の書庫……ですか?」
王城から戻ってきたルシアンから、褒美として王城の書庫にある本を閲覧する権利を賜ったと聞いた。
しかも許可されたのはルシアンだけではない。今回の功績を認められたサミュエルにも、その権利が与えられたという。
「ああ。ただし俺が持つ許可証がないと利用できんからな。当分は俺と一緒にしか入れん。」
「いえ、それだけでも十分です。いつ行くんですか?」
「さすがに今日は疲れた。明日にでも行くとしよう。ただし禁書庫への立ち入りだけは禁止されている。それだけは忘れるな。」
こんなにも明日が待ち遠しいと思ったのは、もしかすると前世も含めて初めてかもしれなかった。
「話は聞かせてもらったわ!」
いつの間に聞いていたのか、エレノアが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「サミュエルは今日はもう暇なのよね!なら約束を果たして貰うわよ。」
「約束……ですか?」
「忘れたなんて言わせないわよ!貴族街の外に出て観光するって約束したじゃない!」
そういえば、本屋へ行く時に「後日観光する」という約束で納得してもらったのだった。
「あ、はい。覚えていますよ。」
「ならいいわ!今から行くわよ!」
「サミュエル、お嬢の相手を頼んだぞ。護衛も付けてもらえるだろうから安心しろ。」
「ええ……。僕には荷が重いですよ……。」
「お前以外いないから諦めろ。じゃあ行ってこい。」
サミュエルはルシアンにエレノアの相手を丸投げされ、そのままエレノアに街まで引きずられていく羽目になった。
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「今日は私が案内するわ!」
「エレノア様って王都に来たことあるんですか?」
「ないわ!」
「……。」
サミュエルは無言で護衛へ視線を向けた。
護衛は苦笑しながら小さく頷く。
(私たちが案内します、ということか。)
「わかりました。では、よろしくお願いします。」
サミュエルには、エレノアのその自信がどこから湧いてくるのかわからなかった。
幸い、護衛の中にはマルシュブルグから同行した者と、王都に詳しい者がいる。
「まずはどこに行きますか?」
「王都に来た時、馬車から大道芸をしてる人を見かけたわ!それを見にいきましょ!」
「それならあっちですね。最近王都でも話題の芸人が毎日やっていると聞いています。」
護衛の一人が南門のほうだと教えてくれた。
走り出そうとするエレノアをサミュエルが手を掴んで取り押さえる。
「駄目ですよエレノア様!一人で走ったら逸れてしまいます。」
「あらごめんなさい。ではエスコートしてくださるかしら?」
どういうつもりか急に淑女っぽく振る舞い、サミュエルに先導するよう求める。
「わかりましたから、逸れないでくださいね。」
そうして二人は、護衛に囲まれながら南門へ向かった。
たどり着いた先には護衛の言ってた通り、大道芸人が数人で芸をしていた。
五、六個の玉をジャグリングで器用に回していると思ったら、いつの間にか玉がりんごに、そしてりんごがナイフに、そして最後は綺麗に六等分されたりんごが芸人の前に置かれた皿に盛り付けられていく。
「すごーい!」
「え?いま本当に変わった?」
魔術がある世界とはいえ、どの魔術を使ったのかまったく見当もつかない。あるいは単純に技術だけで成し得ているのかもしれない。
次に出てきた物は火を扱う芸人。
最初は小さな火球を飛ばしていたが、それが段々増えていき、するとその火は赤から橙、黄、黄緑、青緑、赤紫と変化をしていく。
その火が先程のりんごに移り、りんごがじんわりと焼けていった。
「なにあれ!凄い!」
「あれ熱くないのかな?火傷しないようにしてる?」
そして次に出てきたのは2本の棒と箱を持った芸人だった。
箱の中に棒を入れると、粘り気のある透き通ったピンクの液体が棒に付いて出てきた。
芸人はそれを踊るように伸ばしたり引いたり、丸めたりしながら鮮やかな手つきで扱う。そしてそれは次第に鳥の姿へと変化していった。
「かわいい!」
「もしかしてあれって飴……なのかな?」
「飴ってあんなに伸びるものなの?」
鳥の形をした飴はいつの間にか固まっており、目の前の皿へ盛り付けられた。
そして次の別の色の飴で犬、猫、うさぎといった馴染みのある動物の形を作っては皿に盛り付けていった。
そして皿に盛り付けられた物を売り始める芸人たち。
「あれ欲しいわ!」
「いいですか?」
サミュエルは護衛に尋ねる。おそらくこういうことを想定していくらか持たされているはずだ。ヴァロンでも兄のマイケルがそうだった。
護衛と一緒に芸人のところまで近づいていくと、向こうがこちらに気がついた。
「坊ちゃん、嬢ちゃん。気に召しましたかい?よかったら好きな物を選んで買っていってくだせえ。」
「その鳥のがいいわ!」
エレノアは最初に作られた鳥の皿を選ぶ。すると飴細工職人が気を利かせたのか追加でもう1羽飴を作って同じ皿に載せてくれた。
「へい、二人分で小銀貨5枚になりやす。」
サミュエルはそれが高いと感じたが、甘味は高級品だ。大道芸を楽しませてもらったおひねりと職人の技術料も考えれば、そんなものかもしれないと考え直した。
護衛がお金を払うと、エレノアはその皿を受け取る。
「二人で食べましょ!」
エレノアはサミュエルを連れて近くの椅子に座る。
「これだけ見事な細工だと、食べるのがなんだか勿体ない気が……。」
「私は食べるわよ!そのための飴だもの!」
エレノアは気にせず片方の鳥を口に放り込む。
「……味は普通の飴ね。」
「見た目は凄いけど、中身は飴ですからね。」
飴細工なのだから原料はおそらくシンプルに砂糖か蜂蜜、もしくは果糖を使っているだろう。
そのためそこまで味に変わりがないはずだが、エレノアは見た目から変わった味がすると期待していたのかもしれない。
「次はどこに行きますか?」
「あっちの市場に行きましょ!お店がたくさん並んでたわ!」
食べ終わったエレノアは次は露店が並んでいる広場のほうに興味が向いていた。
そうしてこの日は日が傾くまでエレノアの気が向くままにサミュエルと護衛は振り回されて終わった。




