第36話 新たな依頼(6歳)
「セドリックの孫め……本当に狙っておらんのか……」
レオンは王都にある自分の屋敷で独りごちる。
献上をした結果があまりにも上手く行き過ぎた。
自分が盛り上がるように演出したのは認める。だがあれほど上手く行くとは思ってはいなかった。
おかげであの後、多くの貴族から問い合わせがあった。
辺境伯家で作ったのか。同じ物を売ってくれないか。色を自分好みに変えてくれないか。何色までなら作れるか。外見をもっと立派にしてくれないか。等々だ。
ある程度はあらかじめ想定されていた質問だったため、答えられるものは答えた。だが想定していない技術的な質問に関しては後日お答えすると返しておいた。
「こんなことならルシアンも連れてくるべきだったか……。」
信頼できる家臣の内の一人を連れてくるだけでおそらく技術的なことは答えられただろう。だが本人が貴族が集まる場所に来るのを嫌がっていた。
「しかしセドリックのやつ、これからが大変になるぞ。孫も心が折られなければいいが、必要以上に肩入れはできない。ルシアンにいつでもフォローできるようにさせておこう。」
レオンはこれからヴァロワール家を襲うであろう波乱を確定事項として予想していた。他の寄子に反感を買わない程度にフォローできる準備はさせておくことにした。
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「よくやったサム。献上した結果は辺境伯様もお喜びとのことだ。無事販路と仲介をしていただけることになった。仲介に関してはすでにいくつか依頼を頂いている。」
「ありがとうございます。でも、もう依頼があるなんて……早いですね。」
「祝賀会で献上する際に辺境伯様が実演したとのことだ。それも事前に『辺境伯が珍しい魔術具を持ってきているようだ』と噂を流させ興味を引かせるようにした上でな。」
要するに自分で噂を流し、祝賀会でデモンストレーションをしやすい雰囲気を作り、実演する際もうまく演出したというわけかとサミュエルは理解する。自身には絶対にできないやり方だった。
「王子と王女の反応もよく、陛下からも『素晴らしい贈り物だ』とお褒めの言葉を頂戴したと手紙に書かれていた。」
手紙の内容とセドリックの反応から相当上手くやったことがわかる。実際にすでに依頼をもらっていることからもそれは明らかだろう。
「それと今回の献上品の依頼で辺境伯様から代金を頂戴している。販路と仲介の約束とは別にな。」
そういってエドワードが辺境伯から頂いた代金を取り出した。
「僕の取り分はお父様が管理をしてください。お金の使い道が特にないのでなにか欲しいときはお父様に相談します。」
「それでいいのならそうしよう。将来のお前のための貯金にもなる。」
家を出る時、独り立ちする時、研究のために魔術具を購入する時、その時のために蓄えておいたほうがいいだろうとエドワードも判断した。
「それと、ルシアン卿からもサムに手紙を預かっている。読んでみろ。」
そういってサミュエルは手紙を渡され、内容を確認する。
「なんと書いてあった?」
セドリックが手紙の内容を質問した。
「弟子入りを断ったのなら仕方がない。一人では大変なこともあると思うが頑張れ。だが弟子入りしたくなったらいつでも言ってこい。相談でもいいぞ。とのことです。」
「そうか、彼にも気を使わせてしまったようだな。」
ルシアンにとって弟子入りを断られることは意外でもあったが、子どもだから仕方がないという思いもあった。そして今後起こり得る未来を予見し、予めその布石も打っていることには、この場にいる3人にはわかりようがなかった。
「では依頼品の生産に入ります。」
「その前に一つ頼みたいことがある。」
「なんでしょうか?」
「町の北側のエリアに魔術具があるのは知っているか?」
「いいえ、初めて聞きました。」
サミュエルはこの町のこの屋敷以外に魔術具があること自体が初耳だった。
「この領地を賜った時、開拓に使える魔術具を辺境伯様より譲り受けてな。それの調子が悪いということでなんとかしてほしいという嘆願があった。」
「どのようなものでしょうか?」
「詳しくは現地の者に聞け。直せそうなら直してほしい。直せないようであればこちらで別途考えるとするからとりあえず見てやってくれないか。」
「わかりました。すぐに行きます。」
「うむ、頼んだぞ。場所はカークが知っているから護衛と一緒に行くといい」
そう言うと、サミュエルは退室した。カークとともに目的の場所に向かうことにした。
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カークに開拓用破砕魔術具がある場所まで案内された。
町の北側の一角に風雨を避けられる程度の小屋の中に魔術具はあった。
「これは……思ってたより大きいね。」
目の前には大人数人がかりでないと運べなさそうな箱が鎮座していた。
「ここに領地に持ってくる時も、荷馬車をこれだけで1つ使用していました。」
サミュエルの声に答えたのはセドリックより一回り歳が離れた年老いた男だった。
この魔術具を管理している町に住む魔術使いである。
「どのような魔術具なんですか?」
「開拓用破砕魔術具といいます。使い道は中に入れたものを粉砕し粉状にします。使い道のない切り株や建築用の廃材を投入するのが主な使い道でした。今でこそ開拓が落ち着いて利用頻度は下がってますが、それでも年に数回は使っています。ただもう30年ぐらい前の物で、最近調子が悪いのです。」
「どんな感じか、少し使ってみてもいいですか?」
その言葉にカークが反応した。
「危ないのでやってほしくはないのですが。」
「まだ使える状態みたいだし、物を入れる場所に巻き込まれなければ大丈夫だよ。上から入れるんですよね?」
「仰るとおりです。」
「魔力の流れも見たいし、誰か廃材を持ってきてくれないか?」
「それならあそこに積んであります。」
老人にそう言われ教えられた場所に目を向ける。そこには少しだけ溜まった廃材や切り株が置かれていた。
「ある程度溜まってからまとめて処理するためにあそこに固めてあります。」
「じゃあ魔力を流すから、合図したら入れてね。」
「承知しました。」
カークの返事を聞き、開拓用破砕魔術具に魔力を流す。その時の感覚は修理前の魔術具でよくある感覚だった。魔力を注入すると中でなにかが回る音が聞こえ始めた。
「いいよ、入れて。」
合図とともに、カークが廃材を魔術具に放り込む。バキバキと木を砕く音が響き、しばらくしたら、下から粉末になった木屑が出てきた。
(これはあれだな。工業用に使われたりする大型のシュレッダーだ。)
「木材だけに使っているんですか?」
「はい。主には切り株や廃材ですね。」
「これより硬い物は砕けるんですか?」
「時間は掛かると思いますが石ぐらいなら砕けると思います。ただ、石は砕いても使い道がありませんし、魔力も勿体ないですからな。」
石や岩は使い道が多い。わざわざそれを砕く人間は居ないのだろう。どうやって砕いているのか中が気になるが、中の構造はきっと危ないと言われて、たぶん見させてもらえないだろう。そうしてしばらく待っていると魔術具は動きを止めた。
「とりあえず使えるのは確認しました。原因も大体察しは付きますが、どう調子が悪いと思ったんですか?」
「砕くときの力が以前より弱くなっています。木屑が排出されるまで時間がかかっている感じです。」
「大体わかったよ。中を見てみるね。」
サミュエルは魔力を流す位置から術式が書かれている場所に当たりを付け、外れそうな箇所を外していく。想定通り、術式が書かれた板が出てきた。
(思ったより少ない術式だな……ここまで大きくする必要があったのかな?あ、そうか大きいのは術式を入れるためじゃなくて、大きいものを砕くためか。)
術式は酷く単純だった。属性の術式もなく、おそらく照明具のほうが術式に種類も多く複雑なぐらいだろう。問題の原因も魔力を注いだ時の感触から予想できていたが、案の定魔力インクの摩耗によるものだった。
「これならすぐに直せると思います。」
「本当ですか!お願いします!」
そう言うと用意しておいた魔術インクを取り出し、摩耗した魔術インクを書き直していく。摩耗しているだけで大きな欠けなどないため半刻ほどで作業は終了した。
そして魔術具を元の形に戻し、魔力を流すと、先ほどあった違和感が消えていた。廃材を投入してもらうと先程と違いすぐに木屑が出てきたことからも修理ができたと思う。
「これでいいのかわからないので、管理人のあなたに使って貰って問題ないか確認してください。」
「はい……。調子が悪くなる前と変わらないと思います。ありがとうございますサミュエル様。」
老人はサミュエルにお礼を言う。修理をしてお礼を言われるこの感覚にサミュエルは懐かしさを覚えてきた。前世で田舎の老人が住む家の家電を出張修理したあとの感覚だ。
「祖父からの指示なので礼には及びません。また調子が悪くなったら教えてください。」
「はい、今回はありがとうございました。またなにかあった時はお願いします。」
そういって小屋を出て屋敷の帰路についた。
道中カークと雑談を交わす。
「案外すんなり終わったね。」
「左様でございますね。ところで1つ気になっていたのですが。お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なに?」
「サミュエル様は人見知りされる方だと私は思っております。現にお客様がいらした時や街の人たちと話す時、緊張されているご様子です。ですが、昔魔石を購入しに向かった時や先ほどのような場合、6歳とは思えないようなやり取りをされております。何故でしょうか?」
サミュエルは考える。あまり意識したことではないからだ。
「自分でも言われないと気づかなかったけど、多分、仕事だからじゃないかな。手も貴族の子どもだし、失礼がないようにという意識だから、多分僕も緊張しない……んだと思う。」
(仕事ってある程度定型でのやり取りになるから、それだけは慣れてる……なんて言えないしなあ。)
「そういうことでしたか。そのご年齢で仕事と私生活を切り分けられているとは、このカーク感服いたしました。」
そんなやり取りをしながら、途中見知った顔の人たちに挨拶をしつつ、ゆっくりと歩いて帰った。




