第35話 献上品の意味(6歳)
献上品作成のための作業を始めて1ヶ月と半月後……照明具の内側に最後の作業として、二本の木とその間に小さな炎の刻印を刻み、完成させた。
それはサミュエルが自分の制作物であることを示すために考えた刻印だった。
「終わった……。」
大変な日々だった。一から術式を図に書き起こさなければならない。でも実際書き始めるとズレが出る。そのため正常に発動できる形になるまでが思った以上に苦労した。
そして完成してからの調整で難航した。理想の色が出せない原因が色の調整不足だけではなく、明るさが足りてないことに後で気づいたからだった。そのためライトの術式に込める魔力量を増やす調整に術式を書き換える必要があった。そうすると、その後に続く術式も書き込む位置を修正しなければならなくなる。
1つ目を完成させるだけで、一ヶ月もかかってしまった。アレンが手伝ってくれなければ魔力切れで作業ができなくなってたかもしれない。しかし2つ目は同じものを用意するため、完成は早かった。差がないように調整するのに少し時間を取られたぐらいだ。
「お疲れ様です。私から旦那様に報告しますので、今日はもうお休みください。」
照明具の発動で手伝いをしていたアレンがサミュエルに休息を取るよう進言する。
「そうはいかないよ。説明もしないといけないし、休むにしてもそれからにしないと。」
「それは明日でもよろしいかと思います。納期より早く終わったのです。まずはしっかり休んで、元気な姿で旦那様たちの前に立たないと心配されてしまいます。」
「そうだね……。じゃああとは頼んだよ。僕はもう寝るね。」
そう言って、サミュエルは部屋に戻り、眠りについた。
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それから11日後、納品された照明具を見てレオンは迷っていた。
「私は3色ずつ、ただ1色だけ異なる照明具のつもりだったのだが……。王都にも行ったことがないであろう辺境の男爵家の子どもが噂を知っているわけではあるまい。なぜこの形にしたのか……。」
サミュエルは、自らの作り出した物が持つ意味など知る由もなかった。
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時と場所は移り、フェルミナ王国王都アルフェルト――王城、その後宮のサロン。可愛らしい少女が一人でいた。しかし今、その少女は浮かない顔をしている。
「はぁ……。」
第四王女、シャーロット・スキア・フェルミナ、1週間後に6歳を迎えるこの国の王女だった。
(また……言われてた……。)
先ほども、庭園で見たことのない蝶を夢中で追いかけていたら、使用人たちの会話を偶然聞いてしまい、その時のことを思い出していた。
「アルフレッド殿下は、やはり王家のお血筋を色濃くお継ぎでいらっしゃいますね。」
「ええ、本当に。あの青緑のお髪に琥珀の瞳。まだ6歳にもなられていないとは思えないほど凛々しいお姿をしていらっしゃる。」
「シャーロット様も、お可愛らしいとは思いますけれど……。」
「お声が大きいですよ。」
「申し訳ありません。ただ、アルフレッド殿下の代わりにスキア様のお美しさを一身にお受け継ぎになったのでしょう。」
王家の血は強く、ほとんどの王族は青緑の髪に琥珀色の瞳を持って生まれてくる。
けれどシャーロットは母スキアによく似た薄紫の髪をしていた。それを誰かが面と向かって直接シャーロットに言うことはない。
(お兄様はあんなに立派なお姿なのに……一緒に生まれた私はどうして……。)
まるでお前達は兄妹ではない。そう言われているような気さえしていた。
そんなことを考えていると、誰かが部屋に入ってきた。
「シャーロット、ここに居たのか。探したぞ。」
「お兄様……。」
第三王子、アルフレッド・スキア・フェルミナ、シャーロットの双子の兄である。
「その落ち込み方、どうせまた髪の色のことを気にしているんだろう。」
「う……、違います……。」
「いいや、そうだね。顔を見ればわかる。お前のお兄様だからな。」
アルフレッドはお見通しだと言わんばかりに、シャーロットに笑いかける。
「気にしなくていいぞ。どうせ誰かが流した噂だ。それに母上に似て綺麗じゃないか。」
母親はシャーロットと同じ薄紫色の美しい髪をしていた。その美貌で王に見初められ、子爵家だった貴族の娘が側室に入ることができた。だが所詮は子爵家の娘、その美しさから正妃からは妬まれ、戦えるだけの政治力もなかった。
「それより楽しいことを考えたほうが良いぞ。ほら、来週俺達の誕生祝賀会をやるじゃないか。楽しみだな。」
「いいえ、私はそこまで……。」
この髪について周りになにか言われるんじゃないか。そう思うと人が集まる場所に出たいと思わなかった。そんなことをするぐらいなら部屋に籠ってこの前届いた本でも読んでいたかった。
「噂だとなんでも辺境伯が珍しい物を持ってきたらしいぞ。」
その言葉にシャーロットは興味を惹かれる。
「なんでも珍しい魔術具だとか。」
大抵の物はこの王城にある。魔術具だっていままで色々見てきたつもりだった。それなのに珍しいとは一体どんなものなのだろうか。
「どのような物なのでしょうか?」
「そこまでは知らないな。当日のお楽しみってことなんだろうな。」
その話を聞いて、シャーロットはほんの少しだけ出てみても良いかなと思えるようになっていた。
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誕生祝賀会当日、大広間にはフェルミナ王国第十三代国王、アダムス・アルヴァ・フェルミナと側室のスキア・フェルミナと共に、アルフレッドとシャーロットが主役として中央に座っていた。
次々と挨拶にくる貴族たち。様々なお祝いの品を贈る人々。アルフレッドもシャーロットも最初は物珍しかったが段々それにも疲れてきていた。そしてシャーロットは自分に向けられる視線が、悪意あるもののように感じていた。そうして気持ちが沈んでいると、噂の辺境伯の挨拶の順番が来ていた。
「アルフレッド殿下。シャーロット殿下。6歳を迎えられたこと、お慶び申し上げます。」
「ありがとう、マルシュナト辺境伯。」
「ありがとうございます……。」
そうして贈り物の入った包装された箱を二人に渡す。
「これは?」
いろいろな品を貰ったが箱を貰ったのが初めてだった。これまでの贈り物すべて梱包されずに渡されていたからだ。
「中に噂の贈り物が入っております。開けてごらんください。」
レオンは王族自ら箱を開けさせることで、興味を惹こうとした。
「これは……ランプ……?」
シャーロットは箱から中にあったものを手に取り出す。
中に入っていたのはランプだった。それも王城では到底見かけないような、素朴なデザインのランプ。到底王族への贈り物に相応しいとは思えないような代物だった。
「噂では魔術具と聞いたが……どうかな?」
アルフレッドがレオンを問い詰める。
「ご明察の通りです。殿下。使用人の方々、申し訳ありませんがお送りした2つの照明具を使っていただけないでしょうか。」
魔術が使える使用人が、アルフレッドとシャーロットの手にあるランプに魔力を注ぐ。そして辺りを炎のような明かりで照らす。
「陛下にお願い申し上げます。周りが明るいと少しわかりにくいかと思います。少し薄暗くしてもらってもよろしいでしょうか?」
アダムス王もあの辺境伯がわざわざ珍しいと言われて持ってきたものだ。どんなものか興味があり、言う通りに明かりを落とし、薄暗くさせた。
「ありがとうございます。では殿下両名はそれぞれお手元の照明具に突き出たツマミがあるのがわかりますか?はい、そこです。そこを右にひねってください。」
すると辺りを照らす光が炎のような赤から、琥珀のような金色に光った。そこで会場から驚きの声が響き渡った。「あの照明具、色が変わるのか」「だがあれならうちの職人でも作れるのでは?」などと言った声が聞こえてくる。
「まだまだこれだけではございません。もう一回右にひねってください。」
すると今度はエメラルドのような青緑色に光る。さらに驚きの声が上がった。「ほお、これは美しいな。」「先ほどの金色といい、まるで王家を象徴する色ではないか。」察しのいい者はすでに色の意図に気づいた。王家を象徴する色の光に変化する照明具だということに。
「では最後にもう一度、右にひねってください。」
気づいた者の中でも『もう一度?』と疑問に思ったものがほとんどだった。
そしてツマミをひねる二人の少年と少女の手元の照明具の色が変わった。ラベンダーのような美しい薄紫に。
今度のどよめきには困惑の色が混ざっていた。「王家の色に続いてあの色……。」「辺境伯め、やりおる。」「あれは4色も変化するのか?どうなっておる。」
王家を象徴する色に続いて、薄い紫色。この意味に気づかない者はこの場にいない。
「マルシュナト辺境伯よ。素晴らしい贈り物だ。」
王のその言葉にどよめきが止まる。そして何者かが拍手をするとパラパラとそれに続き、喝采となった。
再び会場の明かりが灯される。
「マルシュナト辺境伯。噂通り珍しい物だったよ。妹も気に入ったようだ。」
「喜んで貰えたこと、心より嬉しく思います。」
シャーロットはじっと見ていた。その美しい色に光る照明具を。
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そうして祝賀会は無事終わった。
アルフレッドとシャーロットは後宮の自分たちの部屋に戻る。
しかしシャーロットの手にはいまだ照明具が握られていた。
「何だシャーロット、それがよっぽど気に入ったんだな。」
「はい……。」
眠るそのときまでずっと、それを見ていた。魔力が切れれば使用人に頼み、明かりを灯らせていた。そして何度も切り替えて変化する光を眺めていた。
王家の琥珀色、兄のアルフレッドの髪の色、そして自分の髪の色。
自分が王家の人間だと言ってくれているみたいだった。
アルフレッドと兄妹なんだと認めてくれているみたいだった。
その照明具は素朴なデザインだったこともあり、シャーロットにはなんだかその光が優しさに溢れているようだった。
薄紫色の光に照らされた自分の髪にそっと触れる。鏡を見るたびに嫌いだったその色が、今だけは少しだけ好きになれた気がした。




