第34話 辺境伯からの依頼(6歳)
面会の次の日、ミシェルとルーカスはお互いの両親を伴い、婚約の儀を進めるため、マルシュブルグにある神殿に来ていた。
領都ほどの規模になると、礼拝堂とは別に神殿も建てられている。婚約や結婚などの大きな行事は神殿で執り行われることが多かった。
代わりに礼拝堂は民衆が普段から足を運ぶ場所となっている。
それはこの世界の歴史を紐解くと、神々は実在が証明されているためであった。
婚約の儀において、二人はそれぞれの神に誓い、願いを捧げる。添い遂げるその日まで精進する。神々に見守っていてほしいと。定型文ではあるが神への誓いでもあった。
そうして婚約の儀はつつがなく終了し、数日後、大量の荷物を抱えたエドワードとミシェルが帰還した。
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エドワードがミシェルを連れて婚約の儀から戻ってきた。
そしてサミュエルは、待ちかねていた辺境伯との話し合いの結果を、セドリックと共に聞いていた。
「それでどうする?弟子入りするか?」
サミュエルは考える。自分の目的に合っているかどうかを。さきほどの話を聞く限り、弟子入りさせてもらうメリットは大きい。いままで独学でやってきた技術を一流の職人に教えてもらえる。多くの魔術具も触らせてもらえるかもしれない。販路や仲介などは既存の経路もそのまま使わせてもらえるだろう。
ではデメリットはと考える。【サミュエル】の作品ではなく【ルシアン工房】の作品になる。これはサミュエル・ヴァロワールの名前を広めたい考えに合わない。
取り分。自分は弟子になるため手元にどれだけ入るかわからない。それ以上にヴァロワール家の取り分がおそらく無くなる。家族の助けにならない可能性が高い。
そして最後、家族と離れ離れになってしまう。寂しいという気持ちもあるが、家族に【自慢できる弟(子)】だと思って貰いたい。だから家族の元にいつつ名を轟かせたい。それができなくなる。
「悩んでいるようだな。儂から一つ助言をしよう。ヴァロワールの利益は考えなくていい。ああは言ったが儂は孫の成果に依存するような情けない祖父ではないぞ。」
セドリックはニヤリと笑い、そう言った。売上が出た際、制作費+2割をヴァロワール家に納めるようにという話だろう。あれは取引で必要な対価を教えるためにすぎない。ヴァロワール家の財政状況からすれば惜しい金額にはなると思われるが、孫の将来を考えれば諦めが付く。そもそもサミュエルがいなければ成り立たなかった条件だ。
「いえ、答えは出ました。弟子入りはお断りします。」
「理由を聞かせてくれないか?」
セドリックが弟子入りの方へ背中を押したにもかかわらず、断るというサミュエルにエドワードは問いかける。
「家族と……まだ離れたくありません。」
エドワードにとって子どもらしい回答、そして納得も行く答えだった。
「お前がそういうのであればそうしよう。では断った場合の、販路や仲介に辺境伯様が協力するために条件を伝えよう。」
「はい。お願いします。」
「ルーカス殿に贈った照明具と同じ、色が変わる照明具を2つ用意しろ。3ヶ月後に予定されている、王族の誕生日への献上品とする。変化する色は通常のランプの色に加え、青緑色、薄紫色、金色とする。もしこれが王族に認められれば、協力を約束しよう。納品の期日は祝賀会の1ヶ月である2ヶ月後とする。とのことだ。」
王族への献上品を用意しろという驚きの提案だった。
「ちなみにこれは余談ですが、辺境伯様は私の前で今回の約束を神に誓われようとしました。さすがにそこまではしなくていいとお止めしましたが、それだけの意気込みを見せておいででした。」
「ほう、そこまでされようとしたのか。ならば本気だな。期待して良さそうだ。」
祖父と父のそのやり取りを聞き、サミュエルは違和感を覚えた。
(辺境伯が神に誓おうとしたことをずいぶん重く受け止めているな。そんなに信仰心が篤いのかな?)
そんなことを考えたが、今はとりあえず置いておくことにした。そしてサミュエルは依頼について疑問を口にする。
「王族への献上品とは……凄い条件を付けられましたが、この色の指定にはなんの意味が?」
サミュエルの疑問にはエドワードが答える。
「それは私から辺境伯様に確認をしたよ。どうやら今度でサミュエルと同じ6歳を迎える双子の王族の方々がいらっしゃる。そして、青緑色は王子殿下の、薄紫色は王女殿下、金色は王族に特有の瞳の色みたいだね。近い色の布と宝石を受け取っているからこれらを参考にするといい。」
そう言ってエドワードが預かったという品を取り出す。受け取ったのはエメラルドの青緑、そして琥珀の鮮やかな金色、そして布はラベンダーのような明るい薄紫だった。
「後日返却するから破いたり、無くさないようにね。」
「わかりました。王族の献上品の照明具となると、土台となるランプはどうしましょうか?」
「それは以前から用意している町で作らせたランプを使え。王族への献上品だが、デザインが素朴な方が色が変わったときの衝撃は大きかろう?」
ランプ自体は以前から用意させていた。照明具として販売できなくても、通常のランプとして流用ができるからだ。
「ではそのようにします。すぐに作り始めたいので他になければもう行っていいですか?」
「構わん。行くといい。」
セドリックはサミュエルを送り出した。そしてサミュエルはすぐに工作室へと向かったのだった。
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工作室で準備を終えたサミュエルは考える。
(前回作った照明具と方向性は同じ。でも色のバリエーションが違う。それも一から自分で術式を書くんだ。時間が前よりかかる。)
どうしても作業時間がかかってしまう。納期は2ヶ月。移動時間も入れるとそれより10日は早く終わらせなければならない。
(色のための魔力配分は前回に何回も試したからおおよそは掴めた。それでも借りた宝石や布を見比べながら調整には回数が必要だ。これは祖父と交渉して、色の調整段階に入り次第、アレンではなく自分で確認できるようにさせてもらおう。アレンにも負荷が大きいし、なにより毎回庭までいって試してもらうのが手間だ。)
そして送る相手のことを考える。
(王族の双子って言ってたな。献上品に差があると喧嘩の原因になるかもしれない。なら全く同じ物を用意したほうがいいな。それに3色よりも4色に光ったほうが照明具としての価値も上がるはずだ。一度作ってしまえば同じように作るだけだから2個目の作成は早く終わるはずだ。)
方向性は決まった。
そしてサミュエルは集中し、作業に取り掛かり始めた。




