第33話 道の選択(6歳)
サミュエルが決意を固めた後、セドリックに呼び出された。
「何の用ですか?」
「昨日の魔術具のことで話がある。」
タイミング的にそうだろうなとサミュエルは思った。
「色が変わる照明具のことですよね?」
「そうだ。お前はあれをこれからどうしたい?」
「どう……とは?」
サミュエルはセドリックの質問が漠然としていて意図が掴めない。
「なにをしたのか、理解していない顔だな。まあ私たちも正確に理解できてるわけではないのだが……。簡単に言ってしまえば、あの改良した照明具を今後作るのか、そして販売していく気はないか?」
「なんでそんな話になるんですか?」
「私やルーシー、エドワード、レベッカ、そしてここにいる使用人たち、あとルーカス殿もだな。全員あのような機能の魔術具を見たことがない。これの意味はわかるな?」
その意味はわかる。珍しいということだろう。
「はい、ですが特別な術式は使っていません。望みの色を出すのは苦労しましたが、魔術技師ならたぶん誰でも出来ます。」
「いいや、わかっていない。誰も思いつかなかったことをやったのだ。そして珍しさから同じ物や自分たちのためにも作らせたい者が出てくる。貴族というのはそういうものだ。」
「それで販売するか……という話になるんですね。」
サミュエルは少し考える。今の話を踏まえるとおそらく物珍しさから需要はある。しかもこれは貴族だ。物珍しさを理由に購入するということは、金銭的に余裕があるか、見栄を張りたい貴族が相手になるということだ。
(自分はこの照明具に対して、特別な想いがある。家族のために改良した照明具だ。それを売り物にするのは……言葉に上手くできないが違う気がする。)
セドリックはサミュエルの反応から迷っているのがわかったため、補足する。
「作るのはお前だ。お前が嫌だというなら無理強いはしない。だが作るというのなら色々と相談に乗ってやれることはできる。」
「どういった内容ですか?」
「販路の確保。これは私から辺境伯に依頼する形になるが、辺境伯領だけではなく、他領にも販売できないか話を持っていく。他に言えば注意点だ。贈り物ならいいが、販売をするなら修理品を使うのは止めるんだ。」
「なぜですか?」
「世に出回っている魔術具の多くは、伯爵家以上の貴族が抱えている魔術技師が作った物がほとんどだ。たとえ数世代前でも貴族が後ろ盾になっている物に改良したといって、販売するのはその貴族に敵対する行為になる。」
著作権や特許が存在しない世界だから技術を盗んだコピー品を売っても罪にはならない。だが貴族が後ろ盾することで、自分たちの利権を侵したら許さないという睨みを効かせて防いでいるわけだ。
「だから作るなら、町の金属加工屋に照明具の元となるランプを作ってもらえ。その方がお前も術式を入れやすいだろう。儂からの依頼として制作費用はこちらで立て替えておこう。」
「僕は……いくら払えばいいんですか?」
その言葉にセドリックは笑う。
「ククク、あの時もそうだがタダで貰おうとしないのは面白いな。」
あの時とはおそらく、お祝いで贈った改良照明具の素体となった照明具を譲って貰った時のことだろう。
「そうだな。売れたら素体となるランプの制作費+2割だ。」
「それだけでいいのですか?」
サミュエルのその言葉にセドリックは眉を顰めた。
「それだけだと?残り8割から他の貴族の仲介をしてくださった辺境伯様への取り分を払い、運搬費も必要になる。どこの誰にいくらで売るかにもよるが、お前の手元に残るのは、良くて売上の二割ほどだろう。つまり儂はお前に、紹介と面倒は見てやるからお前の取り分と同じだけ寄越せと言っているのだ。」
サミュエルはその言葉を聞き、納得した。言葉ではこう言ってるが、魔術具の改良をやらせてくれるというのだ。
「いえ、それだけ貰えるのなら十分です。」
サミュエルの目的は金稼ぎではない。
「2つだけ我が儘を言わせてください。僕の刻印を入れさせてください。そしてサミュエル・ヴァロワールが作ったとわかるように喧伝もしてほしいです。」
「なんだ、そんなことか。自分の名を広めたいのだな。職人が自らの名を残したいと思うのは当然だ。いいだろう。ただし、辺境伯様に話を通してから行動に移すように。今まで通り修理と研究だけにしておくように。」
そうして話は決まり、急ぎこの事を手紙で書く。今朝出発したばかりのエドワードを早馬で追い、辺境伯様宛ての追加の手紙を託すためだ。
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それから11日後、レオン辺境伯とエドワード、そしてルーカスが面会をしていた。
「エドワード、セドリックからの手紙を読ませてもらった。にわかに信じがたいが……ルーカスの持っているものが例の物か?試してもいいか?」
「はい、お祖父様。サミュエルから頂きました。どうぞお試しください。」
事前にエドワードからルーカスに贈られた照明具をレオンに試してもらえないか頼んでいた。それに対してルーカスは快く受けてくれた。
そしてルーカスは半信半疑のレオンに対して照明具を預け、魔術が使える従者を呼び、発動させる。
「そこのツマミを回してください。」
「ここか……おお!色が変わった!」
ツマミを回し、赤から薄い青、薄い赤紫へと変化させた。
「これは初めてみるな。しかしなぜこの色なのだ?」
その質問にルーカスが恥ずかしそうにしていたため、代わりにエドワードが答えた。
「赤と薄青は夫婦二人の髪の色、薄い赤紫はふたつの色をあわせた色となっています。婚約した二人の幸せを祝っての品だからそうしたと言っていました。」
「なるほど、これは良い物を貰ったなルーカス。」
2つの意味でレオンはそう言った。
「それで、私にはこの色の変わる照明具の販売に協力しろと。欲しがるのは金に余裕がある貴族。そこへの販促と仲介をし、受注生産をする……か。そこの者、ルシアンを呼んでこい。」
レオンはルシアンを呼ぶよう従者に命じた。
しばらくしてルシアンがやってくる。
「レオン様の命に従い、参上しました。」
「突然の呼び出しをしてすまない。こちらはエドワード・ヴァロワール次期男爵だ。」
「お久しぶりです。ルシアン・アイゼル男爵。」
「おお、前に坊主を連れて見学に来てくれた御仁か。ならあの坊主も来ているのか?」
すぐにエドワードがサミュエルの保護者だったことを思い出した。
「いえ、今日はルーカス殿と娘の婚約の儀でこちらに参りました。」
「そうだったのか。それはめでたいな。ならなぜ俺が呼ばれたんですか?」
他人の婚約の話なら、自分には関係ないはず。そう思い問いかける。
その問いに関してはルーカスが応えた。
「以前、サミュエルへの手紙と魔術具を私に託したでしょう?その時面白い物が出来たら見せてくれとも。」
「つまり、それが出来たってことか。そこにある照明具が?」
そう言うと、照明具に近づきじっくり見る。
「見た目は少し古いタイプの照明具にしか見えない……だがこのツマミは……レオン様。これを使ってもいいですか?」
「使ってもいいが、それは私のではなくルーカスの大事な物だ。ルーカスいいかね?」
それに対してルーカスはコクリと頷いた。
許可が貰えるとすぐに発動させる。魔力消費量は既存のものと大して変わらない。明るさも同じ、色は少し赤いぐらいだ。そして気になっていたツマミを回して――
「このサイズで色を変化させた!?しかも3色!?あの坊主なにをした!?」
「私の婚約者が貰った物はこれと同じ物でしたが、光らせると4色でした。」
「どういうことだ?ルーカス殿、悪いが中を見させてくれないか?」
話からしておそらくこれはお祝いの品だろう。本来壊れても居ない上、自身の興味本位で中を見るなど無作法でしかない。だが気にせずにはいられない。
「大事な物ですのでしっかりもとに戻して頂けるなら、どうぞ。」
「ええ当然です!では失礼!……色の術式が3つ、3色の変化だからまだわかるが、しかもここまで細かな色の調整はできない。それに4色で同じサイズは無理だ……いやまて、その前のこの術式どこかで……!魔力の流れを制御する術式か!たしかにこれなら僅かなサイズでできる!そして3つの色の術式に流す魔力を変えることで色の調整を行ってるのか!魔力過剰供給を防ぐのしか使い道がないと思ってたのに、こいつは面白い!」
ルシアンは興奮して一人で喋りだした。
「ルシアン、一人で納得するのはいいが、もういいか?」
それに見かねたレオンがルシアンを現世に引き戻した。
「すみません。あまりの内容に驚いてしまいました。」
「そんなに息子が作ったそれは凄いんですか?」
ルシアンの興奮ぶりから門外漢でも凄いことをしたのはわかってしまった。
「正直技術は未熟だ。6歳の坊主がやったのなら十分だが。珍しい術式があるわけじゃない。街に売ってる本にも載っている術式だ。だがこいつが面白いのは発想力だ。」
ルシアンはエドワードにもわかるように説明をする。
「術式は複雑になれば長くなり、魔術具も大きくなる。細かい色の数と種類を指定すればその分大きくなる。おそらくこいつはたった3色の組み合わせでほとんど色を表現できるようにしてある。そうすることで、サイズは小さいまま魔力の消費量もほとんど変わらず、色だけが自由に変えられるようになっている。」
「たった3色で?そんなことできるんですか?」
「細かい理屈は学者や染物職人に聞いてくれ。ただ俺も昔そんな話を聞いたことがある程度だ。」
魔術技師ではあるがさすがにその分野の専門家ではないため、そういうものだとして説明をする。
「それをこいつはそれぞれの色に流れる配分を別の術式で個別に調整してある。これは元々魔力の過剰供給を防ぐ安全のための術式でしかなかったのに。それを応用しやがった。すべて既存の術式の組み合わせに過ぎない。だがその使い方の発想力が普通じゃない。」
魔術技師が一生をかけて1つ新しい術式を創造できるかどうかの世界。しかもその多くが、『何に使うのか?』と疑問を持たれるものが多い。そういった術式は秘匿される価値が薄く、多くの魔術師に共有される。それをサミュエルは拾い上げ有効活用したのだ。
「エドワード殿、レオン様。坊主を、サミュエルを俺の弟子にしたい。」
辺境伯領ならず、他領にまでその腕が認められている一流の職人がサミュエルの作品を認めた。そして弟子に欲しいとまで言ってくれた。
「私は構わんが、ヴァロワール家はどうだ?弟子になるなら販路や仲介の話も早くなる。ルシアン工房の作品として出せるわけだからな。」
「息子はまだ6歳です。弟子入りとなるマルシュブルグで働くことになります。栄誉ある話だとは思いますが、持ち帰らせてください。」
突然の申し込みに即答しかねた。サミュエルの将来を考えれば弟子入りさせたほうがいい。だが本人が嫌がるかもしれない。父親として強制をさせることもできるが、あれほど家族を大事に思ってくれているとわかったサミュエルを無理やり引き離すような真似はしたくなかった。
「そうだな。では断る場合、仲介や販路を提供する条件を設けよう。依頼した品を作り、良い結果を得られたら弟子入りせずとも提案を受け入れよう。なんなら神に誓っても構わん。」
「!?……ご配慮ありがとうございます。神に誓っていただくまでもございません。もし断る場合、そのご依頼お受けいたします。」
そういうと依頼内容を手紙にしたため、エドワードに渡した。




