第32話 催しの後
サミュエルが決意をする前日、婚約の儀へ向かう前の催しが終わった後、子どもたちを寝かしつけ、大人たちだけで今夜あったことを酒を飲みつつ、話し合う。
「まさかこんなことになるとはな……。」
セドリックがワインを一口飲むと、そう呟いた。
「サムは少し家族と距離を取っているように思えてました。だからてっきり家族のことがあまり好きではないのかと思ってました。」
「そうですね。褒めてもあまり嬉しそうではない。とまでは言いませんがどう反応すればいいのか困ったような顔をしていることがほとんどでした。」
セドリックの呟きに対し、ルーシーとエドワードがそれに応えた。
「私もあの子にはミシェやマイクと違って、ほとんど甘えられたことがありません。母親として信用されてないのかと思ってました。」
母親として夫や義母とは違う反応。家族を嫌っているとは言わないが、心を許していないのではないか。そう感じていた。
「だが、それらは杞憂だったわけだ。儂らはあの子のことをしっかり理解してやれてなかったのかもしれん。」
「はい、それにあの子はルーカスさんが我が家に来た次の日の昼過ぎに、今回贈り物をすることを知りました。その時私は気持ちを込めた手紙でいいと話したのですが。」
「そうか……。その日の夕暮れにサムは私のところにきて、照明具を2つ、自分の物にさせてほしいと言ってきた。しかも代金は出世払いでときたもんだ。ククク。」
6歳の子どもが祖父に欲しいものをねだるのではなく、出世払いでなどと、支払う意思まで示すことがあまりにもおかしく、つい笑ってしまった。
「なにをするつもりか興味もあったし、どうせあの子が何もしなければ故障したままの物だ。安全にだけは気をつけて、あとは好きにしろと言ったら、まさかこうなるとは思いもせなんだわ。」
「そんなことがあったんですね。あの子は本当に自分一人の力で二人を祝いたかったんですね。ただレベッカの言ったことではありませんが、父親としてもう少し頼ってほしいと思ってしまいますね。」
エドワードもレベッカと同様、親として、力になってやれていないことに忸怩たる思いを抱えていた。
頼ろうとしてくれるのなら応えようがある。しかしサミュエルは一人で考え、一人で解決してしまう。サミュエルの興味は魔術具ばかりで、魔術具に関しては、家族の誰もサミュエルの相談に乗ってやることができない。
「ミシェも誰に似たのか、自分にも他人にも厳しい性格ですからね。あの子の優しさは伝わりにくいのに、サムはしっかりそれをわかっていたみたいですね。」
ルーシーはセドリックを見ながらそんなことを言う。
「本当に誰に似たことやら。女の子ならもう少し愛嬌があっても良いと思うが、それもまたミシェの良さなんだろう。」
セドリックは素知らぬ顔で返した。
「そして、これからどうする。」
空気が変わった。
「サムが改良したという、あの魔術具ですね。」
「そうだ。サム自身、自分がなにをやったのか理解していない。できそうだったからやった程度の認識だろう。」
「私も色が変わる魔術具なんて聞いたことがありません。お義母様は?」
「私もないわ。」
「あれが凄いのは、色を変えたことだけじゃないと思います。前にサムと魔術工房に見学したとき、明るさが変わる魔術具を見せてもらいました。そこの親方も言ってましたが、とにかく大きくなってしまうと。私が抱えるぐらいの大きさでした。」
技術的なことはわからない。だからこそ、もっと詳しい者に見てもらう必要がある。
「私は、婚約の儀でマルシュブルグに行きます。その時にサムのことを辺境伯様に相談したいと思います。」
「それがいいだろう。私からも手紙を書いておく。あの方ならサムのためになる案をくれるかもしれないからな。」
セドリックはエドワードの案に賛成する。辺境伯は彼にとって最も信頼できる貴族だからだ。
「あと、サムはおそらくいくつかの魔術具を改良しようとすると思いますが、どうしますか?」
「それに関してはわからん。改良がどのような結果を生むのか……。ただあの照明具は売り物になるかもしれんな。」
「そうですね。サムがやる気ならそれを売って、いくらかをサムの将来の資金にしていいかもしれません。販売方法などは辺境伯様に相談してみよう。」
「そうですね。私からも直接伺ってみます。」
「あの子のためになる道を探してやらねばな。」
セドリックの言葉に、その場にいた全員が静かに頷いた。
技術的なことは誰にもわからない。
ただ一つだけわかることがあった。
6歳の子どもが数日で作り上げたあの魔術具を見て、誰もが驚いていたということ。
ならば、もっと詳しい者に見てもらうべきなのだろう。
幸い、頼れる相手はいる。
「辺境伯様なら、何かわかるかもしれませんね。」
「ああ。あの方なら、あの子の才能も正しく見てくださるだろう。」
「できれば、ほどほどの凄さであってくれると助かるんですがね。」
エドワードが苦笑すると、その場にいた全員が小さく笑った。




