第31話 決意(6歳)
翌日、ミシェルたちはマルシュブルグに向けて出発した。
魔術具の改良には無事成功をし、ミシェルに喜んでもらえた。
ルシアンが譲ってくれた試作品のおかげで改良が成功し、今日までに間に合うことができた。彼にお礼の手紙を渡してもらえるよう、ルーカスにはお願いをした。
いまできる会心の出来だったとサミュエルも思っている。
しかしまさかあのミシェルに泣かれるとまでは思っていなかった。
だけど嫌な気持ちはしなかった。
最後に抱きしめられたが、いつもある胸の痛みがなかった。
今までの経験上、ああいう場合は【サミュエル】への罪悪感から胸が痛むことが当たり前だった。この罪悪感をもつ心を捨てることができればどれだけ楽に生きられるんだろうと考えたが、サミュエルの中にいる男が28年間生きてきた性分なのか、捨て去ることができなかった。
そして昨日、明らかに【サミュエル】への愛情を向けられたのに胸が痛まなかった理由はなんだろうと考える。
なぜあそこでミシェルは愛情を注いだのか。
ミシェルがサミュエルを『自慢の弟』とまで言うほど感謝してくれたから。
なぜサミュエルに感謝したのか。
サミュエルがお祝いの品として改良した魔術具を渡したから。
なぜ改良した魔術具を渡したのか。
自分に今できる、精一杯が魔術具の改良だったから。
深掘りすると見えてきた。
いままで愛情は一方的に受け取っていた。それは家族の末弟だから。なにもしていないのにそれだけの理由で家族の人たちは無償の愛情を向けてくれた。本来向けるべき相手でもないのに。それが【サミュエル】を奪い、乗っ取ってしまった自身の罪悪感を刺激していた。
だけど昨日は、魔術具を贈った。それに対して感謝とともに愛情を向けてくれたのだ。もちろん、それはミシェルのためを思って改良した魔術具だったからこその感謝だとわかる。だけど今回は一方的に与えられるだけではなかった。自分も与えて、それに対する返礼として愛情を向けてくれた。だから自分の胸が痛むことはなかった。
それは初めてのことで、とても心地の良いものだった。
そしてミシェルはサミュエルのことを『自慢の弟』とまで言ってくれた。自分を誇ってくれる存在だと言ってくれたのだ。たとえそれが【サミュエル】だったとしても。
あの言葉も、何もしていない自分に向けられたものではない。ミシェルのために考え、作り、贈った結果として返ってきた言葉だった。
だから俺は【サミュエル】が『自慢の弟』としてあり続ければ、この罪悪感は感じなくて済むようになるかもしれない。
そのためにも、家族に胸を張って『自慢の弟だ』と言ってもらえる【サミュエル】であり続けたい。
俺にできることは魔術具を弄り回すことだ。
だから俺は魔術技師として、誰にでも自慢できる【サミュエル】として歴史に名を残そう。それが【サミュエル】への贖罪にもなるはずだから。
第3章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
サミュエルにとって一つの区切りとなる章でした。ここから彼がどのような道を歩んでいくのか、引き続き見守っていただけると嬉しいです。
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