第37話 領地の問題(7歳)
あれから受注生産に対応する日々を送る内にサミュエルは7歳になっていた。
こちらで用意したランプに依頼に沿った色に変化する術式を書く日々。肌感で色の調整具合もわかるようになってきており、1個あたりの完成までにかかる時間も短くなってきていた。
厄介なのはランプを持ち込み、それを改良照明具にしてくれという依頼だった。
術式を書くことを前提とした作りになっていないため、どこを弄るかという問題がでてきたのだ。
だがこれは先日の開拓用破砕魔術具から解決策のヒントを得ていた。
ランプの底と同じ形の片面が磨かれた金属の板を用意する。磨かれていない面に術式を書き込むことで広いスペースを確保できた。術式は下に向けるので見えないし、金属を光が反射する程度に磨き上げることで鮮やかさを増すことができた。
自分たちでランプを用意する人たちなら、より綺羅びやかになることに文句は言わないだろう。
現物のランプと違って燃えカスや汚れが出ないので磨き上げた底板も綺麗なまま保てる。
そうして完成した商品を祖父に報告し、マルシュブルグに輸送して貰うのがいつもの流れであり、今回もその報告で執務室まで訪れていた。
「お祖父様、依頼の品が完成したのでいつものようにお願いします。」
「ああ……わかった。そこに置いておいてくれ。」
セドリックは書類をなにやら難しい顔をして見ており、返ってきたのは生返事であった。そんな顔をしている祖父が珍しく、サミュエルはつい聞いてしまう。
「なにやら困っている感じですが、どうかしたんですか?」
「ああ、すまない。大したことじゃないんだ。領内の報告書を読んでいて少しな。」
領内の報告書でその反応ということは、領内でなにやら面倒事が起きていると察した。
「どんなことが書かれていたんですか?大したことない内容なら聞きたいです。」
「そうだな。簡単に言ってしまえば、収穫量が減っているという話だ。」
「農作物の収穫量ですか?」
「そうだ。近年やや減少傾向にある。作物は天候に左右されるから毎年変化するのは当然だ。だがここ最近はずっと減少傾向にある。今すぐ問題にはならないが、なにかしら対策をしないと将来まずいことになりかねないと思ってな。」
農作物の収穫量は領民の食料事情だけではなく、領内の税収にも直結する。幸い土地は比較広く、それに対して人口密度が低いため大きな問題にはなっていない。魔物は出るが森林や山も近いためそちらでも食料が確保できるのも大きかった。
サミュエルはこれはチャンスなのではと思った。
名前を残すにはまず手始めに領民に名前と功績を広く知ってもらうのも手である。ましてや故郷なら誰でも知っているぐらいにならないと歴史に名前を残すなんて土台無理な話だ。まずは故郷で名を知られる、そのきっかけになればと思った。
「お祖父様、ちょうどいま依頼が全部終わったところです。その原因を調べてもいいですか?」
「なに?お前がか?珍しいな。魔術や魔術具以外のことにも興味を持つなんて。」
サミュエルは祖父のその言葉に軽くショックを受けた。
「外のことに興味を持つならそれはそれで構わん。いつものようにカークと共に行動するのなら好きにしていいぞ。ただし町からは出ないようにな。出る必要があるのなら必ず言いに来い。」
「ありがとうございます。それでは早速行ってきます。」
そう言って、サミュエルは町へと向かった。
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サミュエルは以前、町の子どもたちの話を聞いた時のことを思い出していた。
話を聞くために子どもたちに串焼を配ってカークに諌められた時のことだ。
顔は覚えていないがその中に農家の子どもがいたのを思い出した。なにか気づいたこととか聞けるかもしれない。そう思い以前行った場所に向かうと数人の子どもが遊んでいた。
「あ、あの!ちょっといいかな?」
「あ、この前の領主様の!串焼また持ってきてくれたの!」
第一声が串焼である。やはりカークの諫言は正しかったのだと痛感した。
「ご、ごめん。今日はないんだ。それより前より人が少ないね。」
「最近はトムとか、畑をやってる家の友達が全然来ないんだよ。うちの牛を貸したりしてるけど大変って言ってたよ。」
サミュエルの疑問に一番背の高い少年が答えてくれた。彼の家はどうやら畜産農家のようだ。
「じ、じゃあこの中に畑をやってる家の子はいないの?」
「うん。親が手伝いをしろって言って遊びに行かせてもらえないとって前に話してたよ。」
いきなり躓いてしまった。すると落ち着きのある少年が理由を尋ねてくる。
「トムに用でもあったの?」
「う、うん。ちょっと話しを聞きたくて。」
「じゃあ!わ、私がトムの家まで案内しましゅ!」
少女がトムの家まで案内をしてくれると言い出した。最後噛んだのが恥ずかしかったのは顔を赤くしていた。サミュエルは少し親近感を覚えた。
「そ、そう。じゃあお願いしていい?」
「は、はい!」
そう言うと少女がサミュエルとカークを先導してくれた。
そして子どもたちがいた場所から離れた場所の畑に到着する。
「こ、こここです!」
「ありがとう。助かったよ。またなにかあったら頼むね。」
「は、はい!」
そう言うと少女は走って去っていった。
後ろでカークが困った顔をしていることにサミュエルは気づいていなかった。
「さて、家に居てくれるといいんだけど……。」
そんなことを考えて家に近づくと畑のほうから言い争う声が聞こえてきた。
「――ぐらい、いいじゃねえか!」
「駄目だ!日が暮れるまでに土を砕かねぇと種が撒けねぇ!」
「でも!」
「牛だけじゃ耕しきれなかったんだ!いいから手伝え!」
そんな声を聞きサミュエルはどうしようか悩んでいる。
(とりあえず声をかけないと……。)
「あ、あのすみません!何かあったんですか?」
サミュエルの呼びかけに子どもが気付く。
「あ!領主様のとこの!……えーと。」
「さ、サミュエルです。」
「領主様の!?さ、サミュエル様どうしてこんなところに!?」
サミュエルの自己紹介に親の方が反応した。
「と、トム君に話を聞きたくて……そうしたら言い争ってる声が聞こえたのでつい。」
「お見苦しいところを……。」
「どうしたんですか?」
サミュエルは言い争いの原因を尋ねると父親が説明をしてくれた。
「いえ、子どもに畑を手伝えと言ったんですが、遊びに行きたいと我が儘をいうものでして。」
「だって最近毎日朝から日が沈むまで手伝ってるじゃん!全然遊びにいけてないよ!」
「それは……たしかにトム君の気持ちはわかります。」
自分だってずっと貴族の勉強ばかりで魔術や工作室に行けなくなると正直辛い。
「ですが、最近土が固くて。近所から牛を借りて耕してはいるんですが、結局あとで我々で土を砕いているんです。」
「じゃあ耕すのが楽になれば収穫量は戻るんですか?」
「いいえ、土を柔らかくして種を撒いても土が痩せてきていて成長も悪いんです。」
サミュエルは収穫量が落ちてきた原因にたどり着いた気がした。
土の栄養が無くなってきている。そしてその結果土も固くなって労力が増えている。種まきも遅くなり生育も悪い。そして来年は更に土が悪くなるという悪循環に入っているのだと思った。
「堆肥は使っていますか?堆肥を混ぜればいいんじゃないですか?」
「堆肥は使っています……が、量が全然足りないんです。昔は土地を休ませてたりしましたがもう限界みたいで……。」
サミュエルは堆肥が使われていないのではないかと予想したが、予想は外れた。すでに堆肥は広く知れ渡っている。単純に量が足りなくて追いついていないというのだ。
「堆肥は何で作っているんですか?」
「牛や馬の糞に草や落ち葉を混ぜて、掘った穴に放り込みます。あとは土を被せてしばらく置いてます。」
「でも量が足りないと……。」
「ええ。この辺りは畑ばかりで、作るための材料が足りません。」
「なるほど……。」
ここでサミュエルは少し考え込む。
「今日はありがとうございました。とても参考になりました。」
「い、いえ。まさかサミュエル様にお話を聞いていただけただけでも……。」
そしてトムを見る。
「トム君。」
「なに?」
「今日は手伝ってあげて。」
「……うん。」
トムには悪いが、畑が大変なのは本当のようだ。ここは我慢して手伝って貰うしかないだろう。
そうしてサミュエルは帰路につく。
「坊ちゃま。なにかわかったのですか?」
カークが傍でずっと聞いてたため疑問を口にする。
「なんとなくだけど……土を良くするものが足りてないんだよね。」
「そのようですな。」
「じゃあ土を良くしないといけない。だけどそのための堆肥が足りない。堆肥を作ろうにも材料となるものが足りない。時間もかかる。」
「仰る通りかと。」
「堆肥をもっと作れれば解決するかもしれない。できるかわからないけど、それを考えてみるよ。」
サミュエルは歩きながら、堆肥作りになにか使われていないものがないか考え始めていた。




