第26話 2度目の来客(5歳~6歳)
マルシュブルグを出て10日、ヴァロワール家の町、ヴァロンに帰ってきた。
「父上、只今戻りました。」
「ご苦労。縁談はどうだったか?」
「良い相手だと思います。ルーカス殿も真面目な少年といった趣で、おそらく将来は父親と同じ仕事に就くと予想できます。少なくともミシェルが不幸になるような家ではありませんでした。」
「ミシェル本人の様子はどうだった?」
「ルーカス殿と直接会ったおかげか、以前より将来に安心しているのが感じ取れました。本人は覚悟はしていても、いい夫であるほうがいいでしょうからね。」
「そうか。では問題がなければ、あとで婚約の意思があると手紙を出しておこう。」
ミシェルの意思を確認して、問題がなければ婚約をしたいと、セドリックは辺境伯に、エドワードはオスカーに手紙を出すことにした。
「マイクの様子はどうでしたか?」
「さすがに書類仕事は苦労していたな。だが諦めることなく机に向かい、素直に他の者に教えを請うていた。これからも少しずつ仕事させてもいいかもしれんな。」
それを聞き、エドワードは安心した。マイケルは身体を動かすのが好きな子だ。だから書類仕事などは無理だと投げ出さないか少し心配をしていた。そうなったとしても、まだ教育は間に合う。だが、そうならないに越したことはない。
「ところでサミュエルはどうだった?」
「サムに関してはいつも通りと言いますか……辺境伯様のご配慮でお抱えの魔術具工房を見学させてもらいました。本人もかなり楽しめた様子でいい刺激になったと思います。」
「連れ出した甲斐があったというわけか。」
二人はお互いの報告を済ませ、妻や子どもたちの元に向かうことにした。
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家族7人が揃い、再会の挨拶をしたあと、改めて話し合うことにした。
「エドワードから報告は受けた。最後の確認だ。ミシェルはこの縁談どう考えている?」
家族の視線がミシェルに集まる。
「私はルーカス様と婚約したいと思います。お家のためでもありますが、直接お会いして良い殿方だと思いました。」
「そうね。私も溌剌とした良い少年だと思ったわ。」
ミシェルは婚約を了承し、ルーカスの為人を口にする。それをレベッカが賛同した。
「では決まりだな。今後ルーカス殿との婚約を前提で話をすることとする。」
それから1ヶ月後、マルシュナト家からも婚約了承の返事が届くことになる。
ルーカス来訪の報せと共に。
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マルシュブルグから帰宅し、しばらく、サミュエルが6歳を迎えた頃にルーカスがやってきた。
「短い間にはなりますが、お世話になります。」
「なにもない町だが、ゆっくりしていきたまえ。」
ルーカスはセドリックに到着の挨拶をする。そこにエドワードが疑問をぶつける。
「報せで聞いてはいたけど、本当に一人できたんだね。」
ルーカスは身内の誰も伴わず一人でやってきた。勿論、護衛や身の回りの世話する者は付いてきているが貴族の場合、それらは人数に数えない。
「はい、祖父と父からは『お前の婚約相手が育った場所だ。お前一人の目で見てこい。』と言われました。私もそのほうがいいと思い、一人で参りました。」
「そうだね。家同士の繋がりのためとはいえ、実際婚約するのは君とミシェルだからね。」
「では案内しよう。」
セドリックはそう言うと屋敷へと案内をし、家族に面通しさせた。
「ミシェルさん、ご家族の皆様。お久しぶりです。改めて自己紹介させてください。ルーカス・マルシュナトと申します。」
「初めまして、ルーカスさん。歓迎いたします。ゆっくりしていってくださいね。」
当主夫人としてルーシーがルーカスの挨拶に応えた。
「ルーカスさん。初めまして。ミシェルの弟のマイケルと申します。今後ともよろしくお願いします。」
「初めましてマイケル君。領主としての勉強のため、マルシュブルグには来れなかったと聞いたよ。10歳でもう仕事の手伝いをしてるなんて凄いな。将来は義兄弟になるけど頼りにしてるよ。」
「いえ、お、私なんてまだまだです。まだ学ぶべきことがたくさんあっていろんな人に助けてもらってます。」
マイケルはルーカスが褒めてくれたことに対して謙遜したが、やはり嬉しかった。家族以外から苦手なことをしてそれを褒めてもらえたからだ。
「長旅でお疲れでしょうし、早速客室に案内します。ミシェル。貴方がルーカスさんを案内なさい。この家の事に関しては貴方がお世話するように。」
「かしこまりました。お祖母様。ではルーカスさん、こちらへどうぞ。」
「あ、ああ。よろしくお願いします。」
ルーカスはやはりミシェルと会話するときだけ緊張気味のようだった。
ルーカスとミシェルが出ていくとルーシーは家族を解散させた。
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翌日、サミュエルは屋敷を案内しているミシェルとそれに付いて歩くルーカスと出会う。
「おはよう、サミュエル君。」
「おはよう、サム。」
「おはようございます。ルーカスさん。お姉様。」
3人は挨拶を交わす。
「今ミシェルさんにお屋敷内を案内してもらってるところなんだ。」
「何もないところで恐縮ですわ。」
「いいえ、そんなことありません。少なくとも私の実家より立派なお屋敷で羨ましいくらいです。」
その言葉にサミュエルは疑問に思う。
「あら、そうなんですの?少し意外ですわ。」
代わりに同じ疑問を覚えたのかミシェルが疑問を口にする。
「よく勘違いされるんです。辺境伯の孫の家だから、さぞ立派な屋敷なのだろうと。祖父は身内に無条件で甘い人間ではありません。確かに援助はあったみたいですが、このお屋敷の半分もありません。」
「そうだったんですのね。」
「がっかりさせてしまい申し訳ありません。傍系の人間ですが決して裕福な暮らしができるわけではありません。」
期待させて申し訳ないと言った表情でミシェルに謝罪する。
「いいえ、ルーカスさん。謝罪は必要ございません。祖父から我が家も土地が余裕があったことと、辺境伯様の援助があってからこそこの大きい屋敷を構えられたと伺っております。すべては辺境伯様のご配慮のおかげだと。」
ミシェルは以前エノー家の面々が訪れた際に祖父から聞いた話を思い出していた。
「それに大きいだけでマルシュブルグのように様々な物があるわけではありません。私は慎ましくても幸せな家庭が築ければ十分です。そしてルーカスさんとはそれが叶いそうだと私は思っております。」
ミシェルはルーカスをフォローした。辺境の男爵家では豪勢な生活ができるわけではない。そのため淑女として、良き妻として、いまも研鑽と積み重ねている日々である。
「ミシェルさん……ありがとうございます。そのように言ってもらえたのは初めてです。」
ルーカスはミシェルに対して感謝した。軽いコンプレックスに思っていた部分を受け入れ、その上で自分と婚約をしたのだと言ってくれた。
サミュエルからみても今のルーカスがミシェルに見惚れていることが手に取るようにわかった。対してミシェルはルーカスに対して微笑みを返していた。
「では参りましょうか。サム、また後でね。」
「はい、お姉様。ルーカスさんもまた後ほど。」
「あ、ああ……また後で。」
そういって二人と別れサミュエルは工作室に向かった。
(これは完全にミシェルに主導権を握られてるな。)
他人の機微に疎いサミュエルですら、今のやり取りを見れば二人の力関係は理解でき、サミュエルは苦笑した。だがそれでも二人が幸せならいいのではないかとも思った。




