第27話 貰った物(6歳)
午後になり、サミュエルはルーカスが来ていてもいつも通り工作室で術式の研究をしていた。
マルシュブルグで買ってもらった本を読み、工房で多くの術式や考え方を教えてもらったことにより、創作意欲が高ぶっていた。
(そろそろ修理以外にもなにか新しいことがやりたい。)
知識の積み重ねはできているが、やっていることは既存の製品の修理のみ。
それも触っていい物は一通りやってしまっているため、心のうちにある火は燻っていた。
そこでふとサミュエルは考える。自分はこの先なにをやりたいのか。
今は魔術技師の真似事をして、家族にもそれが認められている。
家族にも大事にされている。前世からは考えられないほどの幸せを享受している。
だが家族からの愛情を感じると同時に、胸に痛みを感じる。
この胸の痛みの原因はすでに理解できている。
家族からの愛情は自分へ向けられたものではなく、本来の【サミュエル】が受けるべき愛情を自分が受けてしまっている罪悪感だ。
この先も、この罪悪感と付き合っていくのだと思うと、胸が苦しくなる。
自分の意思ではないとはいえ、【サミュエル】の人生を奪ってしまった。これを晴らすにはどうすればいいのだろうか。サミュエルの中にいる男は答えがわからずにいた。
すると工作室にノックの音が響いた。
「サム、いいかしら?」
「お姉様?どうぞ入ってください。」
サミュエルは入室を促す。扉が開かれるとルーカスとミシェルが立っていた。
「ルーカスさんが渡すものがあると仰ってるのでお連れしました。」
「渡す物?」
なんだろうとサミュエルは不思議に思う。彼からなにかしてもらうようなことなどやった記憶がない。
「サミュエル君。君はマルシュブルグにきた時、工房を見学して親方と話してただろう?それで親方からお祖父様に、お祖父様から僕に君にこれを渡してほしいと頼まれたんだ。内容は手紙に書かれてるよ。」
それは大きめに作られた照明具だった。工房で見せてもらった5つの術式が刻まれた照明具に似ていた。
一緒に渡された手紙を開くとルシアンから経緯が書かれていた。
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サミュエルへ。
久しぶりだな坊主。
レオン様が坊主の将来性を見込んで成長のきっかけを与えてほしいと言われてな。おそらく見学の許可を出したのもそれが理由だろう。
俺の工房に来た時、複合術式を面白そうに見ていただろ。特に5つの属性を複合できることに驚いてた。だからこいつをお前にくれてやる。こいつは工房で見せたあの照明具の試作品だ。好きに使っていいからこれを研究材料にしてみろ。
面白い物が出来たら俺にも見せてくれ。
期待せずに待ってるぜ。
ルシアン・アイゼルより。
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手紙を読み終えたサミュエルは大きな照明具に目を向けた。
試作品とはいえ、故障品でも修理品でもない魔術具を研究材料として譲ってもらえたことに歓喜で震えた。そしてルーカスにお礼を言う。
「ルーカスさん、わざわざありがとうございます。レオン辺境伯とルシアン男爵にもあとでお礼の手紙を書きますので、申し訳ありませんが帰ったら渡してもらえますか?」
「ああ、構わないよ。未来の義弟の頼みだからね。だが代わりと言ってはなんだが、修理するところを見せてくれないか?手紙を渡すときどうだったか話せると良いと思ってね。」
「わかりました。あまり見ていて楽しめるものではありませんが、それでもよろしければ。」
そう言って、貰い物の照明具を弄り回す前に一番早く片付けられそうな魔術具の修理を始めた。
四半刻ほどで修理が完了したため、いつものように庭へ移動し、アレンに試してもらうと問題なく動いていた。
「おお、凄いな。疑っていたわけではないが、こうも早く修理するとは思わなかったよ。」
ルーカスは手際の良さを褒めた。
「いえ、照明具でしたら一番数をやってて慣れてるだけですので……。」
「サム……。あなたすぐに修理できる魔術具を後回しにしていたでしょ?面白そうなものばかり優先して、すぐ終わるものを後回しにしていたのでしょう?」
「い、いやだなあ……お姉様。たまたまですよ。たまたま。」
姉に図星を刺される。面白い方ばかり優先して嫌なこと、つまらない物を後回しにしていたのを見抜かれてしまった。
「そちらの魔術具は1年前に工作室に運ばれたものでございます。一度中身を見て、すぐに戻されたことは私も覚えております。」
カークの口からミシェルに知られたくない事実を伝えられる。
「あなたは昔から興味がないものに見向きもしようとしませんね。その性格は直さないといけませんよ。すぐに終わらせられるならまずは終わらせてから次にいきなさい。始めたことは必ずやり遂げる。そうではないと他人から信用されなくなってしまいます。」
姉から説教を受ける。だが言っていることが正しく、サミュエルのためを思って言っていることがわかるため反論もできない。
「すみません。お姉様。」
「次から気をつけるのよ。」
そう言って、ミシェルがサミュエルの頭を撫でた。
ルーカスが微笑ましいものを見たという顔をしているが、サミュエルはそれに気づかない。ミシェルに頭を撫でられるたび、本当はこの温もりを受けるはずだった【サミュエル】のことを思い、また胸が痛んだからだった。




