第104話 討伐任務の報告(10歳)
数日ぶりにマルシュブルグの城門が見えてきた。
討伐任務もようやく終わりを迎える。
兵たちも張り詰めていた表情を緩め、ようやく帰ってきたと安堵したように息を吐いた。
「ようやく帰ってこれたな」
「今日はゆっくり眠れそうだ」
そんな兵士たちの会話を聞きながら、サミュエルは今回の任務をルシアンにどう報告するか、考えていた。
戻ってきた一行は、隊長が代表として帰還の報告を終えるとレオンが顔を見せに来た。
隊長たちに労いの言葉を投げかけた後、最後にサミュエルへと声をかける。
「サミュエルも任務ご苦労だった。詳細の報告は後日頼んだ」
「ありがとうございます。隊長を始め、皆さんのおかげで怪我をすることもなく戻ってくることができました」
「彼らには改めて労いの言葉を掛けよう。ルシアンにも無事帰ってきたことを教えに行ってやってくれ」
討伐任務の詳細は隊長たちが報告することになっている。サミュエルはレオンから直接、工房へ戻るよう許可をもらった。
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「ただいま、戻りました」
「おう、よく戻った」
帰還の挨拶に返ってきたのは、ルシアンらしいぶっきらぼうな返事だった。
だが、彼なりに無事を喜んでくれているのだと、サミュエルには十分伝わっていた。
早速、今回の魔術具についていくつか報告をすることにした。
はじめに、時間遅延爆発具の実戦での使用結果を報告した。
それを聞いたルシアンは、要点を整理するように口を開いた。
「ゴブリンぐらいの魔物には想定以上の効果があったわけか。爆発音が想定外の効果をもたらしたと……」
爆発音で敵が怯み、動きが止まる。そして、その音で遠くの敵まで引き寄せてしまう。
「ホブゴブリンぐらいになると致命傷にはならないが、効果自体は大きく、追撃で処理できるぐらいの手傷を負わせることができたわけか」
話を聞いたルシアンは、魔物領域へ踏み込んだ件については何も言わなかった。
本来なら気にする点だが、今は魔術具の検証を優先する。
「アクアウルフには足止め程度の効果しかないが、試作した強化型なら致命傷を与えるほどだったと。主にもある程度効果があったみたいだな。主ってのはどれくらいの大きさだった?」
「魔石を見比べてもらえればわかりやすいと思います」
サミュエルは報酬として貰った主の魔石と、群れの一匹にいた通常のアクアウルフの魔石を取り出し、机の上に置いた。
「なかなかの代物だな。なにより色が鮮やかだ」
「色ですか?」
確かに綺麗だとは思ったが、それ以外に意味があるかのような言い方をしたルシアンを、サミュエルは気になって問い返してしまった。
「話したことなかったな。魔石の色は魔物が使う魔法の属性で変わる。そして魔法の扱いが長けた魔物ほど色が鮮やかになる。この辺りはリュシエルの専門だから詳しく知りたければあいつに聞くといい」
ルシアンが小さく咳払いをしてから、話を続ける。
「話が少し逸れたな。魔力の消耗はどうだった?」
「僕の他に魔術使いの方が二人いましたが、最後まで戦い続けられるぐらいには消耗は大きな問題ではなかったみたいです。ただ試作型を二度使ったのは、さすがにきつかったようで後始末に魔力を使う余裕はなかったみたいです」
戦いが終わったあとに二人から文句を言われた。せめて他のより多く魔力を消費することぐらいは伝えてほしかったと。
魔力欠乏で倒れかねないから、戦闘後の後処理に魔力が使えないと言われた。
「では他の魔術具はどうだった?」
「一番活躍したのは穴掘り用の魔術具ですね。拠点構築する際にも活躍してくれました」
続いて野営で使った魔術具の報告へと移る。
一通り説明を終えると、問題点もわかってきた。
「爆発音で魔物を引き寄せるとなると、たしかに警報具の音は問題だな。光だけで十分か?」
「でもそれだと野営の四方に設置したとき、夜番の人が気づかない可能性はないですか?」
「それなら音の量を調整するか……。夜番だけ気づけば周りを起こしてくれるだろう」
「音に指向性を持たせるのはどうですか?野営の内側にだけ音が届くようにするとか」
なにも四方八方に音を聞かせる必要はない。
野営をしている人たちが気がつけばいいのだ。
「それもありだな。術式は長くなるから、紙に書く場合も検証は必要だ。案としてまとめておけ」
最後に、ルシアンは一番気になっていたことを確認する。
「それで……紙の魔術具はどうだった?」
野営用として持ち込んだ魔術具の多くは紙に術式を描いただけのものだった。
いままで高級品としてあり続けた魔術具を、消耗品として野営や軍用で使ったことでの使用感をルシアンは一番知りたかった。
「紙にしたことで持ち運びはかなり楽でした。従来の魔術具はやはり嵩張りましたから。でもこれならインクが乾いたあとに丸めておけばいいので楽でした」
「ただし、紙なのでずっと使えるというわけじゃなかったです。特に使用回数の多かった穴掘りの魔術具は予備にいくつか持っていってましたが、すべて使い切ることになりました」
最後の方は二人の魔術使いが魔力切れを起こしたこともあり、穴掘りの魔術具が無くなり、サミュエルがアースムーブの魔術を使って対応していた。
「使える回数も物によってバラつきがありました。これは紙の品質が大きく影響していると思います」
この世界で紙はある程度普及しているが、お世辞にも紙質がいいわけではない。
わら半紙のさらに質を悪くしたような触感であり、インクもにじみやすい。
また機械で作られた物でもないため、品質にバラつきが生じる。
「長持ちさせたいなら治療具みたいに羊皮紙で一度試してもいいかもしれんな」
「でも嵩張りませんか?」
羊皮紙は羊や山羊の皮を加工して、文字を書けるようにしたものだ。
インクが染み込みにくく、文字を書く物としても丈夫だが、その分植物から作った従来の紙より分厚い。
また治療具という魔術具に使われており、専売が認められている教会の収入源の一つとなっている。
そのため一枚一枚がそれなりの値段で、ヴァロワール家でも貴重品だった。
「だろうな。だが点火具や造水器を持ち歩くよりはマシだ」
一通り報告を終え、ルシアンは満足そうに小さく頷いた。
「なら今日はレオン様への報告書を作っておけ。できたら俺からレオン様へ上げておく」
「わかりました」
サミュエルは工房の机へ向かい、今回の討伐任務で得られた魔術具の成果を報告書へとまとめ始めた。




