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201人目の魔箒(まほう)使い  作者: ソレナリノニート


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7/7

7.「私もテナの師匠探し手伝う!」



 柔らかな白い光が箒の穂から流れ落ち、テナの周囲を包み込む。

 雪のように白い光の中に、ちかちかと混じる銀の光が幻想的で、魔法を使ったテナ自身も思わずその光景に見入ってしまう。

 ――が、すぐに喉の奥まで迫り上がる吐き気に現実に引き戻された。


 …やっぱり魔法を使った時のこの感覚は苦手だ。

 箒を持ってから何かが身体中を這い回る感覚に、身体中に鳥肌がたっていた。



「すごい…! ほんまに“復元”の魔法使えるんや!! めっちゃすごい!!」


 女の子が手を叩き飛び上がる。

 精神的な疲労を感じながら、テナは女の子に微笑んだ。


「ちゃんとできたならよかった!」


 地面にはつやつやの真っ赤なリンゴが八つ並んでいる。

 女の子は嬉しそうに、一つ一つ並んだリンゴを眺めていた。


「ほんまにありがとう! …えーと、名前なんて言うん?」

「テナだよ」

「ありがとうテナ! 私ラプリって言うねん! ラプリって呼んで!」


 あははっと豪快に笑うラプリに、テナもつられて笑う。


 ひび割れていた石畳もテナの魔法の影響か綺麗に直っていて、とりあえず二人でそこに座った。

 ラプリが話したところによると、彼女は一年前の十二歳の誕生日にサントルースの国民になり、今はとある魔法使いの弟子をしているそうだ。


「私の師匠めっちゃ怖いねん。外面はいいからみんな優しいって言うねんけどな、ほんまは真逆やねん」


 ラプリはリンゴを齧ると、もう一つをテナに差しだす。


 …あれ、これ師匠に頼まれたんじゃないの? 食べていいの?

 疑問に思ったが、美味しそうにリンゴを齧るラプリにテナのお腹が鳴る。

 結局、空腹に負けたテナはありがたくリンゴをいただくことにした。


「テナの師匠はどんな人?」

「……いないの」


 リンゴを咀嚼しながらそう答える。隣でラプリが固まっていることに気づかず、テナはどうやって師匠を見つければいいのか聞くことにした。


「魔法協会に登録したいんだけど、師匠がいないと無理だって言われたの。師匠ってどうやって見つけるの?」


 テナがリンゴを咀嚼する音がその場に響く。

 リンゴを半分くらい食べ進めたころ、なかなか帰ってこない返事にテナは隣へ視線を向けた。


「え、えーぇえ? …うそやろ? あんだけ魔法使えて師匠おらんとかある!? いやいやいや、そもそもどうやってあんな数の精霊と契約したん!?」


 驚愕の顔を向けるラプリの、リンゴを持つ指から果汁が滴る。

 手が触れないように腰の位置をずらし、テナはどう説明すればいいのか悩んだ。


 魔箒の存在は言うつもりはない。これがあれば、魔法使いの血を引いてなくても魔法が使える。それが知られれば、たぶんこの箒は狙われるだろう。

 それは旅立つ前、シェラさんとジークさんにも注意されたことだった。


「えーと、よくわからないけど…。箒をくれた人(商人)が旅に出て(旅に出たのはテナだけど)、代わりに魔法について教えてくれる人を探してるの」


 そんな曖昧なテナの説明に、なぜかラプリは瞳を潤ませた。


「私もテナの師匠探し手伝う! なんなら私の師匠に、テナを弟子にしてくれへんか頼んでみる!」


 迫ってくる顔に思わずのけぞったが、ラプリの言葉に目を見開き、気づけばテナから彼女に顔を近づけていた。


「え……! いいの!? すごく助かる!!」

「うんっ、まかせて! また明日のお昼に、ここで集合な!」

「ありがとう!!」


 急いでリンゴを食べ終え立ち上がるラプリに合わせて、テナも慌ててリンゴを咀嚼する。

 その間、ラプリは地面に並べていた六つのリンゴをポケットに詰め込むと箒に跨った。


「テナ、じゃあまた明日! アエリウス・ウォラトゥス」


 ラプリが呪文を唱えた瞬間、彼女の跨る箒の穂が青い光を帯びざわざわと揺れる。

 ふわりとラプリの足がテナの肩の高さまで浮き上がり、くるりと箒の柄の先の方向が変わると、人が走るよりも少しだけ早い速度で進み始めた。


 …あの魔法、この本にもあるかな。すごく便利そう。





 次の日。日が上り切った頃に、テナはラプリと出会った広場に着くと、すでにラプリが噴水のそばで立っていた。

 箒を抱え不機嫌そうに腕を組むラプリに、テナは来るのが遅かったかなと慌てて声をかける。


「お待たせ! ごめんね、ちょっと遅かった?」


 テナが声をかけると、眉に皺を作った顔を向けられた。

 やっぱりなんか怒ってる…?

 不安を感じながらも様子を伺っていると、ラプリが口を開いた。


「ぜんぜん! 私が師匠と喧嘩して早く来てもうただけ!」

「喧嘩?」


 詳しく聞くと、どうやらテナを弟子にすることを断られたらしい。

 それはそうだ。そもそも一度も会ったこともない人を弟子にすることがあるの?

 テナの疑問に、ラプリはふんっと鼻息を荒くする。


「あるよ! だいたい弟子入りは紹介ばっかやし。でもうちの師匠、偏屈やから…」


 紹介で師匠が見つかればいいとは思っていたが、元々は自分で探すつもりだったのだ。そんなに落ち込んではいなかったのだが、ラプリは違ったようだ。

 俯き軽く息を吐くと、申し訳なさそうに呟いた。


「……ごめん」

「いいよ! 元々自分で探す予定だったし――」

「私も探すん手伝う!!」


 勢いよく顔を上げ、拳を握りしめて叫ぶラプリにテナは目を瞬かせる。


「だってあんなに才能あるテナが、師匠が見つからんだけで魔法を学ばれへんのはおかしいと思う!」

「……」


 突然の褒め言葉に口をつぐんでいると、ラプリがポケットをあさり出す。


「師匠がよく手紙出す先の魔法使いリスト、持ってきてん!」

「……それ、大丈夫なの?」


 思わず口元を引き攣らせるテナに、ラプリはにっこり――というより、にったりと不敵な笑みを浮かべる。

 そして、数枚まとめてくるくるに巻かれた紙をちらつかせた。


「協力してくれへん師匠が悪い。……ふっふっふっ、このリストを順番にまわって行けば、きっと師匠になってくれる人が見つかるはず……」


 ……ほんとに大丈夫かな。

 若干不安もあるが、テナのために動いてくれているのに変わりはない。

 あてもない中一人で師匠を探すのも大変だし、正直ラプリのリストは助かる。


「よし。そうと決まればさっそく行くで! ……まずは一番近い、魔法使いビルダさんの家やな」


 言いながら、ラプリは箒にまたがる。

 元気よく「しゅっぱーつ!」と声を張り上げ、呪文を紡ごうとして――


「ちょっとまって! 私箒で飛んだことない! あっ、あの本に魔法のってるかな!?」

「あ……」


 本を取り出そうと鞄に手を突っ込むテナに、ラプリはバツの悪そうな顔を浮かべて箒から降りる。


「たぶんあったと思うけど、あかんわ。国内での飛行は許可が必要やねん」


 …そうなんだ。私も箒に乗りたかった。国内ってことは、外なら大丈夫なのかな?


「で、その申請も師匠のサインが必要やから…」


 ……魔法関係の申請は師匠がいないと何もできなそうだ。


 こうして、テナとラプリは徒歩で魔法使いの家をまわることが決定した。





 公園を出て三十分。

 たどり着いたのは、外壁を覆い尽くすほどの緑の蔦に、色とりどりの花が咲いた木造の家だった。

 周囲は町中にある普通の木造の家だが、明らかにこの緑の家だけ、別の空間から切り取ったかのように浮いている。


 テナが外観に目を奪われていると、ラプリは蔦で覆われた扉をがんがんと叩きだした。


「ビルダさーん! 弟子にしてください! ビールーダーさーん!」

「…」


 こんなファンシーな家を前に、ラプリは変わらず大ざっぱだった。


「ビールーダーさー、」

「誰だようっさいな! 弟子はまにあってるし今忙しいんだよ! ……て、ラプリじゃないか」


 乱暴に扉を開けて現れたのは、首までの長さの黒髪を緩く巻いた中年女性。

 黒髪に混じるひと束の白髪が、風に揺れてさらりと頬へ落ちた。



レナ視点


「箒をくれた人(師匠)が旅に出て(亡くなって)、代わりに魔法について教えてくれる人を探してるの(新しい師匠を探している)」


きっと師匠は凄腕の魔法使いで、死が近い中テナの才能を知り弟子にして、箒を渡し呪文を書き残して、テナに魔法を教える前に力尽きて亡くなったんだ。

悲しみに暮れながらも、師匠の立派な魔法使いになって欲しいという想いを胸に、きっと新しい師匠を探してるんだ…!


と、想像していました。

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