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10【後編】:小さなお手伝いと道具を愛する心(成長・絆の芽生え編)

10【後編】:小さなお手伝いと道具を愛する心(成長・絆の芽生え編)

【AM 09:00 | 港町ポルトー・中央広場の噴水前】


昨日の涙の「短剣お手入れレッスン」から一夜が明け、ポルトーの朝は雲ひとつない快晴に恵まれていた。


「ひよりお姉ちゃん! おはようやきーッ!」


噴水の前で待っていたひよりの元へ、小さな影が元気に走ってきた。大きな猫耳をピンと立て、尻尾を機嫌よくフリフリと揺らしているのは、亜人少女のミミだ。


その腰に差された短剣は、昨日ひよりや紅緒と一緒に丁寧に磨き上げたおかげで、朝日を反射してツヤツヤと眩しい光を放っていた。柄の革紐も糸吉の手で美しく巻き直されている。


「ミミちゃん、おはよう! 今日もぶち元気じゃねぇ。お剣も嬉しそうに光っとるわ!」


ひよりが呉弁で微笑むと、ミミは照れくさそうに短剣の柄をそっと撫でた。


「ふふん、昨日の夜も宿で何度も磨いたがやき! 相棒を放ったらかしにしてごめんねって謝ったら、なんだか短剣が手にしっくり馴染むようになった気がするがやき!」


「カッカッカ! 道具を愛でる心、見事なり! ミミ殿、本日の修行も励みましょうぞ!」


木製しゃもじの飯蔵が大童の姿で豪快に笑うと、ミミは「はいやき!」と元気に返事をした。


ひよりは今日受ける依頼の羊皮紙を取り出した。


「よーし! 今日ミミちゃんと一緒にお手伝いするお仕事はこれじゃ!」


羊皮紙に書かれていたのは、B級やS級の激しい魔物討伐などではなく——


『Fランク依頼:港の薬草園での春摘みハーブの選別と、迷子になったおばあちゃんの黒猫探し』


「えっ……薬草摘みと、ねこ探し……やき?」


ミミは一瞬、拍子抜けしたように目を丸くさせた。しかし、昨日のように「そんな地味な仕事はいらんやき!」と怒ったりはせず、首をかしげてひよりを見つめた。


「ひよりお姉ちゃん、こういう地味なお仕事でも強くなれるがやき?」


ひよりは優しく微笑み、ミミの頭をなでなでした。


「強くなるだけが冒険者じゃないよ。街の人らを笑顔にして、感謝されて、しっかり報酬をもらう。それが一番安全で、一番立派な冒険者のお仕事なんじゃけぇね。行ってみようかい!」


【AM 10:30 | ポルトー外郭・南の薬草園】


南の薬草園では、広大な敷地に色鮮やかな薬草が萌え出ていた。


「うわぁ……! これ全部薬草やき!?」


ミミが驚いていると、竹定規の付喪神・竹千代がシャキーンと実体化した。


「薬草選別の効率化手順を提示します。ミミ殿、この『青精草』は、根元から三・五センチの地点で茎を傷つけずに摘み取ること。傷がつくと薬効が二割低下します」


「さん・ごセンチ……茎を傷つけずに……やき」


ミミは慎重に指先を動かし、短剣を使わずに丁寧に手摘みをしていく。


「こうやって摘んだ薬草がね、いつかミミちゃんの妹さんが飲むようなお薬になるんよ」


ひよりが隣でそっと教えると、ミミの表情がキリッと引き締まった。


「あたいの摘んだ薬草が、誰かの病気を治す……! そう思ったら、一本も無駄にできんやき! 集中して摘むがやき!」


指先を泥だらけにしながら、ミミは数時間、一度も根を上げずに集中して薬草を摘み続けた。


その姿を見守っていた文机の硯水が、満足そうに浮遊しながら囁く。


『ふむ……ミミ殿の集中力と指先の精度、素晴らしい成長ですな。剣を大振りするだけが訓練ではありませぬ。手元をコントロールする繊細さこそ、武芸の真髄にございます』


【PM 01:30 | 港の路地裏・迷子猫の捜索】


午後は、もう一つの依頼「おばあちゃんの迷子黒猫捜索」だ。


「黒猫のクロちゃん、どこに行ったがやき〜?」


ミミは自慢の大きな猫耳をピクピクと動かし、路地裏の物音に耳を澄ませていた。


「あっ! ひよりお姉ちゃん、あそこの屋根の上におるやき!」


ポルトーの古い石造りの倉庫の屋根の上、煙突の影に小さな黒猫が縮こまっていた。どうやら登ったものの、怖くて下りられなくなったようだ。


「クロちゃ〜ん! 今助けるやき!」


ミミが身軽に壁を登ろうとするが、足場が狭く、あと一歩のところで手が届かない。


「ミミちゃん、慌てちゃダメよ! 糸吉、竹千代、足場を!」


「了解チョキ! 糸吉の『安全ハンモック糸』発射!」


裁縫用糸切りバサミの糸吉が空を舞い、万が一落下しても大丈夫なように、地面の上に頑丈な粘着糸の網を広げた。


「ミミ殿、右足の踏み切り位置、石畳の左端より一二センチ奥。跳躍角度四十五度にて屋根のフチへ到達可能です」


「竹千代の計算、信じるやき……! えぇぇぃっ!!」


ミミが軽やかに跳躍! 完璧な足場を踏み切り、サッと屋根のフチを掴んだ。


「捕まえたやき、クロちゃん!」


ミミは黒猫を優しく抱きかかえると、糸吉の網の上へフワリと着地したのだった。


「やったやきーっ! 無事に助けたやきーっ!」


「すごぉい! ミミちゃん、大成功じゃね!」


三つ仕切りバケツの洗三が「クロちゃん、汚れを綺麗にしてあげるね!」と清らかな水で泥を洗ってあげ、黒猫はミミの腕の中で「ニャ〜ン」と嬉しそうに喉を鳴らした。


【PM 04:00 | 感謝と報酬、そして妹への希望】


「クロ〜〜ッ! 良かった、無事だったかい!」


依頼主のおばあちゃん(関西弁風の優しい老女)は、黒猫を抱きしめて涙を流した。


「おおきに、おおきにちゃん! 小さな冒険者ちゃん、ほんまにありがとうなぁ!」


おばあちゃんは、依頼の報酬である「銅貨五十枚」に加え、採れたての甘い「ポルトーミカン」をカゴいっぱいにプレゼントしてくれた。


さらに、薬草園の園長からも「最高の出来の薬草だ!」と絶賛され、予定以上の報酬を手にすることができたのだ。


港の波止場に戻ってきたひよりとミミ。


ミミは自分の手のひらに乗ったジャラジャラとした硬貨とミカンを見つめ、じーんと胸を熱くさせていた。


「ひよりお姉ちゃん……あたい、今日初めて『ありがとう』って言われてお金をもらったがやき……! 今まで地味なお仕事なんて嫌いだったのに、ぶち胸が温かいやき……!」


「じゃろ? 自分の力で誰かを笑顔にして貰ったお金は、ぶち重みがあるんよ」


ひよりが呉弁で優しく微笑むと、手のひらサイズの天球儀の付喪神・ステラがふわりと舞い降り、ミミの頭上で綺麗なお星さまの光を輝かせた。


『ミミ様、あなたの優しい心は、きっと病気の妹様にも届きますよ』


その時、神刀の紅緒が静かに進み出で、ミミに小さな包みを差し出した。


「ミミ殿。これは、ひより様と我らからの贈り物です」


包みを開けると、中には職人街で買い求めた「上質な研ぎ石」と「短剣用の革製のお手入れケース」が入っていた。


「あたいに……これを……やき!?」


「うん! これからもそのお剣を大切にして、立派な冒険者になってねっていう、うちからのプレゼントじゃよ!」


ミミの大きな瞳から、ぽろぽろと涙が溢れ出した。


「うぅ……うあぁぁぁん! ひよりお姉ちゃん……! 付喪神のみんな……! ありがとうやきーっ! あたい、絶対にくじけないやき! 道具を愛して、街の人を守る、ひよりお姉ちゃんみたいなカッコいい冒険者になるがやきーっ!」


ミミはボロボロと泣きながら、ひよりの腰に抱きついた。


夕陽が港の海を真っ赤に染め上げ、二人の影と付喪神たちの影を長々と波止場に映し出していた。


【PM 08:30 | 宿屋「海猫亭」・ひよりの客室】


ミミを笑顔で見送り、宿屋の部屋に戻ってきたひより。


膝の上では、朱色と黄色のモコモコカバーを着たトタン湯たんぽの『ぬくもり』が、ポカポカとした優しい熱でひよりの疲れを癒してくれている。


「ふぅ……ミミちゃん、ぶち良い子じゃったねぇ……」


『はい、ひより様。ミミ殿の目には、真っ直ぐな希望の光が宿っておりました。私どもも、微力ながら応援したくなりますな』


おみくじ箱がカコンと心地よい音を立てて同意する。


ひよりは新しい和紙と松煙墨を取り出し、両親への日記を優しく書き始めた。


【ひよりの日記】


パパ、ママへ。 ポルトーで「ミミちゃん」っていう亜人の妹みたいな弟子(?)ができたよ! 最初は焦ってお剣もボロボロじゃったけど、一緒にお仕事をして道具をお手入れしたら、ぶち優しい顔になったんよ。 妹さんの病気のために頑張るミミちゃんを、うちも全力で応援するけぇね! ひよりより


「ふふ……明日もミミちゃんと一緒に、楽しく冒険しようかいね」


故郷への思いと、新しい後輩との温かな絆を胸に抱き、天照ひよりは港町の優しい潮騒に包まれながら、幸せな夢の中へと落ちて行ったのだった。

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