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9【後編】:打ち解ける心と呉の思い出話(絆深まり・深々夜話編)

9【後編】:打ち解ける心と呉の思い出話(絆深まり・深々夜話編)

【PM 10:00 | 冒険者ギルド「潮風の錨亭」・酒場の片隅】


夜もすっかり深まり、ギルドの酒場を満たしていたドンチャン騒ぎの熱気は、薪ストーブの火のように心地よく静かな温もりへと変わっていた。


酒樽の台座に腰掛けたひよりの周りには、九州弁の巨漢斧使いレンや、津軽弁の魔法使いガルバをはじめ、地元の冒険者たちが車座になって集まっている。


「ほうじゃね……呉はね、山と海に囲まれたぶち綺麗な港町なんよ。うちの家からは、海に浮かぶでっかい船がよく見えてねぇ……」


ひよりがハーブティーのカップを両手で包み込みながら呉弁で語ると、ほろ酔い気分のガルバが「へぇ〜! 呉ってのも、このポルトーみたいに海の街なんだばいね」と目を細めた。


「うん! でもね、一番すごいのはお肉やお魚を売っとる商店街なんよ。お母さんと一緒にお買い物に行ったらね、お魚屋のおっちゃんが『ひよりちゃん、今日もべっぴんさんじゃね!』言うて、練り物をおまけしてくれるんよ!」


「ガハハハ! それ、お前さんがべっぴんさんだからじゃなくて、おまけ欲しさに物欲しそうな顔して見つめてたからだろ!」


レンが太いお腹を揺らして大爆笑すると、ひよりは「な、なんね! うち、そんな意地汚い顔しとらんよ!」と頬を膨らませた。


その時、ひよりのリュックの横で、竹定規の竹千代がカチリと音を立てて実体化した。


「ひより様の証言を補正いたします。当時の日記の記録によりますと、おまけを貰った際のひより様の表情は『満面の笑み率九八パーセント』。おねだり成功率は一〇〇パーセントであります」


「竹千代ーっ!? 余計な記録を言わんでつかぁさい!」


「ギャハハハハ! 定規に暴露されてるだばい!」


酒場全体にドッと弾けるような爆笑が巻き起こった。失敗や照れ隠しの笑いが、冒険者たちの心の距離をどんどん縮めていく。


【PM 11:00 | 道具たちの失敗談と、あふれる涙】


爆笑の余韻が残る中、今度は付喪神たちの「呉での思い出話」に花が咲いた。


裁縫用糸切りバサミの糸吉が、チョキチョキと軽快に刃を鳴らしながら前に飛び出した。


「糸吉も覚えてるチョキ! ひよりちゃんが小学校の時、自分で体操服の破れを縫おうとして、糸吉で体操服ごとズバッと切り落としちゃったんだチョキ!」


「あぁぁぁ!? 糸吉、それ言っちゃダメなやつじゃん!」


ひよりが顔を真っ赤にして叫ぶと、ガルバが涙を流して腹を抱えた。


「ぎゃははは! 穴を塞ぐどころか、服を切り落としたんかだばい!?」


「う、うるさいねぇ! あの時は必死じゃったんよ! お母さんに怒られる思うて、切った部分にでっかいミッフィーのワッペン貼って誤魔化したんじゃけぇ!」


「カッカッカ! ひより様、あの時はお母上に一瞬で見破られて、バツとして夕飯のニンジンを全部食べさせられておりましたな!」


木製しゃもじの飯蔵が追い打ちをかけるように暴露し、酒場は再び大爆笑の渦に包まれた。


しかし、ひとしきり笑った後、神刀の紅緒が静かに朱色の袴を揺らして立ち上がった。その凛とした瞳に、温かな光が宿っている。


「ですが……ひより様は、失敗したあと、決して道具のせいにされることはありませんでした」


酒場のざわめきがすっと収まり、全員が紅緒の透き通るような声に耳を傾けた。


「体操服を切ってしまった時も、ひより様は『糸吉は悪ないよ、うちが下手くそじゃったけぇごめんね』と、糸吉を抱きしめて泣いておられました。ひより様は昔から、道具一つ一つに命があり、家族であると信じて、深い愛情を注いでくださっていたのです」


紅緒の言葉に、糸吉も、竹千代も、洗三も、飯蔵も、ぬくもりも、硯水も、おみくじ箱も、ステラも、全員が愛おしそうにひよりを見つめた。


昭和レトロなトタン湯たんぽの『ぬくもり』が、朱色と黄色のモコモコカバー越しにぽかぽかと温かい熱を放つ。


『ひより様が私どもを家族として大切にしてくださるからこそ、私どもはこうして命を得て、ひより様をお守りすることができるのでございます……』


その言葉を聞いていたベテラン冒険者のレンが、ふと太い腕で目元を拭った。


「……くっ……あかんたい……泣けてくるたい……」


「レ、レンさん!? なんで泣いとるん!?」


「俺たち冒険者はな……武器や防具を『ただの道具』『消耗品』としてしか見てなかったたい……。ボロボロになったら捨てて、新しいのを買うて……。けど、ひよりちゃんと付喪神たちを見てたら、俺たちの道具にも申し訳なか気がしてきて……っ!」


巨漢のレンが大粒の涙をボロボロとこぼし、愛用の大斧をぎゅっと抱きしめた。


ガルバも鼻をグスグスと鳴らしながら、自分のサビかけた短剣を優しく撫でた。


「俺もだばい……。この短剣、亡くなった親父から貰った大切なものだったのに、最近手入れを怠ってたんだばい……。ひよりちゃん、教えられただばい。道具を愛する心は、仲間を愛する心と同じなんだな……!」


「ガルバさん……レンさん……っ!」


ひよりの目からも、ぽろぽろと大きな涙が溢れ出した。


「うちの呉の話……みんながそんなにちゃんと聞いてくれて……道具のことまで好きになってくれて……ぶち嬉しいわぁぁぁん!!」


呉弁で泣きじゃくるひよりを、冒険者たちが温かい拍手と笑顔で包み込んだ。


【AM 00:30 | 宴の終わりと新しい絆】


深夜一時近く。 窓の外には、静かな港の潮騒と満天の星空が広がっていた。


宴会は最高の温もりに包まれながら、静かに幕を閉じようとしていた。


レンがひよりの前にひざまずき、大きな手差し出した。


「ひよりちゃん。明日から、俺たち『黒潮の錨団』と、ひよりちゃんたちは、ただの先輩後輩じゃなか。共にポルトーを守る『本当の仲間』たい!」


「うん……! レンさん、ガルバさん、みんな……これからもよろしくね!」


ひよりがその大きな手をギュッと握り返すと、酒場中に大きな歓声が上がった。


ギルドのマスターも満足そうに目を細め、「いやぁ、最高の宴だったね。ひよりちゃん、君のおかげでギルド全体がひとつになったよ」と感謝の言葉を贈った。


【AM 01:30 | 宿屋「海猫亭」・星空の窓辺】


宴を終え、宿屋「海猫亭」の部屋に戻ってきたひより。


体は心地よい疲労感に包まれていたが、胸の中はぽかぽかと温かい情熱で満たされていた。


膝の上には『ぬくもり』が優しい熱を伝えてくれ、天球儀のステラが部屋の天井に綺麗な星空を映し出している。


ひよりは机に向かい、高級和紙と松煙墨で、両親への日記を優しく書き始めた。


【ひよりの日記】


パパ、ママへ。 今日はギルドのみんなが、うちのためにぶち賑やかな歓迎会を開いてくれたよ! 最初は失敗して激辛のスープでガルバさんが火を吹きかけたりして大爆笑じゃったけど、最後は呉の思い出や道具の話をしたら、みんなボロボロ泣いて聞いてくれたんよ。 ポルトーの冒険者さんは、みんな温かくて最高の仲間じゃよ。 ひよりより


日記を書き終えたひよりは、ペンを置き、窓から見えるポルトーの港を見つめた。


「ふぁぁ……今日は笑って泣いて、ぶち忙しい一日じゃったなぁ……」


布団に入ると、神刀の紅緒が優しく毛布をかけてくれた。


「ひより様、良い夢を。我らはいつでも貴女の側におります」


「うん……おやすみ、紅緒。おやすみ、みんな……」


広島呉弁の少女・ひよりは、大切な仲間たちの温もりに包まれながら、幸せな夢の中へと静かに落ちて行ったのだった。

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