冒険者編 ポルトー7【後編】:激突! 呉の『がんす』vs異世界グルメ(料理対決・勝利編)
第1章:開幕! 港の美食祭と強力なライバルたち
【AM 10:00 | 港町ポルトー・中央大広場特設会場】
青空の下、潮風に乗って食欲をそそる香ばしい匂いが会場中に充満していた。
「さあさあ! 港町ポルトー名物『港の美食祭』本選審査の始まりだばい!」
土佐弁の競り市の大将が大声を張り上げると、ぎっしりと埋まった観客席から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
会場の中央には、厳しい予選を勝ち抜いた凄腕の料理人たちのブースが立ち並んでいる。
審査員席に座るのは、津軽弁の頑固美食家として知られる「ガゼル公爵」をはじめ、港町の重鎮たち五名。いずれも味に一切の妥協を許さない食の権威たちだ。
ひよりたちのブースのすぐ隣では、昨年の覇者ドン・ペペが、金の刺繍が躍るコックコートの袖をまくり上げて高笑いしていた。
「ハッハッハ! 観念しな冒険者ちゃん! うちの『特製オマール海老の黄金ムース〜深海ノエサンブル〜』は、港中の高級食材を惜しみなく注ぎ込んだ至高の逸品や! お前さんらの貧乏くさい揚げ物料理なんぞ、一口で霞んで消えてまうわ!」
ひよりは腰に両手を当て、胸を大きく張って呉弁で言い返した。
「何言っとるんねあんた! うちと飯蔵の『がんす』はね、みんなの想いと故郷の味が詰まったぶち凄い料理なんじゃけぇ! 負けんよ!」
「ひより様、応援しております!」
手のひらサイズの天球儀のステラが、ひよりの肩の上で嬉しそうに星の光を振りまく。
「カッカッカ! ひより様、仕込みは完璧! ワシらの『呉風ポルトーがんす』の底力、とくと見せてやりましょうぞ!」
木製しゃもじの飯蔵が、大童の姿で太い腕を鳴らした。
第2章:付喪神たちの神技調理とサクサクの魔法
【AM 11:30 | 実演調理開始】
「調理時間制限は三十分! 競技開始だばい!」
ドカン! と合図のドラが打ち鳴らされた。
各ブースで一斉に火が焚かれ、包丁の音が響き渡る。ひよりのブースでも、付喪神たちが一斉に実体化し、呼吸の合った神技のような連携プレイを開始した!
「竹千代殿、材料の投入比率、再確認を!」
「了解。白銀タラのすり身五百グラムに対し、一ミリ角のタマネギ百グラム、唐辛子一・五グラム。寸分の狂いもなし!」
竹定規の竹千代がミクロン単位で分量を弾き出す。
「タマネギと唐辛子のみじん切り、任された!」
朱色の袴を纏った神刀の紅緒が実体化し、神聖なる刃を舞わせる!
シューッ! ズババババッ!
目にも止まらぬ神速の刃捌きにより、細胞一つ潰されることなく、美しい極小のみじん切りが瞬く間に完成した。
「せいっ! バケツで冷やした清らかな山湧き水、注入ーッ!」
三つ仕切りバケツの洗三が、キンキンに冷えた浄化水を絶妙な量で注ぎ込む。
「カッカッカ! これをワシのしゃもじで一気に捏ね上げる!」
飯蔵が巨大なしゃもじをぶんぶんと振り回し、極上のツヤを纏った白いすり身へと昇華させていく。
「仕上げは糸吉特製・極細パン粉コーティングチョキ!」
糸切りバサミの糸吉がハサミを軽快に鳴らし、細かくカットされたパン粉がすり身の表面へ均一に付着するよう導く。
そして、揚げ油の鍋の底では、朱色と黄色のモコモコカバーを着たトタン湯たんぽの『ぬくもり』が、自身のポカポカとした熱伝導を応用し、油の温度を寸分の狂いもなく「百八十度」に保ち続けていた。
ジュワァァァァァァァッ……!
綺麗な黄金色の油の中にすり身が投入されると、まるで音楽のような軽やかで香ばしい揚げ音が会場中に響き渡った。
「な、なんやあの手際……! 一分の無駄もないだと!?」
隣のドン・ペペが目を剥いて驚愕する。
狐色に揚がった『がんす』が次々とバットに並べられ、食欲を極限までそそる香ばしい匂いが審査員席まで流れていった。
第3章:審判の刻・二つの至高の味
【PM 01:00 | 審査と試食】
ついに全料理人の出品が完了し、審査員たちによる試食が始まった。
並み居る有名店の料理が次々と採点されていく中、圧倒的な評価を受けたのはドン・ペペの『特製オマール海老の黄金ムース』だった。
津軽弁の美食家ガゼル公爵が、一口食べて目を細める。
「……ううむ、美味い! 濃厚な海老の旨味とフレンチの繊細なクリームが見事に調和しておる。まさに王道、高級料亭の至高の味だばい!」
会場からドン・ペペへの大歓声が上がる。
「ハッハッハ! 見たか! これが王者の味や!」
そして、いよいよひよりたちの番がやってきた。
木皿の上に盛り付けられたのは、見た目は至ってシンプルな黄金色の長方形の揚げ物——『呉風ポルトーがんす』だ。
「……ふむ? 最後に残ったのは、素朴な揚げ物か。見た目は華やかさに欠けるだばって……」
ガゼル公爵が半信半疑で箸を伸ばし、『がんす』を一口かぶりついた。
サクッ……!!
あまりにも軽やかで、澄み渡るような最高のサクサク音が、静まり返った会場全体に響き渡った。
その瞬間、ガゼル公爵の目がカッと見開かれた!
「な……なんんだこの音はぁぁぁっ!?」
一口噛み砕いた瞬間、細かな衣の軽やかな食感の直後、プリップリの白銀タラの濃厚な旨味と、タマネギの優しい甘みがじゅわっと口いっぱいに溢れ出してきたのだ。さらに、後から追いかけてくる唐辛子のピリッとした爽やかな辛味が、鼻腔を心地よく突き抜ける!
「サクサク……ジュワッ……そしてピリッ! なんという完成度だばい! 高級食材のくどさが一切なく、いくらでも食べたくなる……! 故郷の温かさと、職人の情熱が伝わってくるような味わいだ!」
他の四人の審査員たちも、夢中になって『がんす』を平らげていく!
「うまい!」「お酒にもご飯にも最高に合うだばい!」「こんな美味い揚げ物は食べたことがない!」
会場は大歓声に包まれた!
第4章:栄光の準優勝と温かい拍手
【PM 02:30 | 最終結果発表】
全ての審査が終わり、競り市の大将が黄金の羊皮紙を広げた。
「それでは! 第五十二回『港の美食祭』、最終結果の発表だばい!」
静まり返る大広場。ひよりは両手を胸の前で固く組み、付喪神たちと息を呑んだ。
「優勝は……! わずか一分差の僅差で……ドン・ペペシェフの『特製オマール海老の黄金ムース』だばい!!」
「やったぁぁぁ! 王座死守やでぇぇぇ!」
ドン・ペペがガッツポーズを決め、会場から大きな拍手が送られた。
そして、大将がさらに声を張り上げた!
「そして! 審査員全員が満点をつけ、会場を最も盛り上げた【準優勝】は……初出場の冒険者! 天照ひよりちゃんの『呉風ポルトーがんす』だばい!!」
ドカンッ! と大きな紙吹雪が舞い散り、優勝以上の雷のような大歓声がひよりたちに降り注いだ!
「準優勝……!? うち、二位なん!? ぶち凄じゃん!」
ひよりが呉弁で跳び上がると、準優勝の賞品として「銀貨五十枚(約五十万円相当)」と「ポルトー特産大名エビ半樽」が授与された。
表彰台の隣で、優勝したドン・ペペが晴れやかな顔でひよりの元へ歩み寄ってきた。
「冒険者ちゃん、凄まじい味やったで。正直、審査員の好みひとつで負けてたのはうちの方や。その『がんす』とかいう料理……ほんまに最高に美味かったわ!」
ドン・ペペが差し出した手を、ひよりは両手でギュッと握り返した。
「ドン・ペペさんの海老の料理もぶち美味そうじゃったよ! ありがとね!」
「カッカッカ! 準優勝、見事な成果ですぞひより様!」
飯蔵が大涙を流して喜び、紅緒も「ひより様、おめでとうございます」と優しく微笑んだ。
竹千代、糸吉、洗三、ぬくもり、硯水、おみくじ箱、ステラ。
全員が誇らしげに音を奏で、ひよりの健闘を称え合ったのだった。
第5章:波止場の夕焼けと最高のご馳走
【PM 06:00 | 宿屋「海猫亭」の入り江】
美食祭が終わり、夕陽がポルトーの海を真っ赤に染める頃。
ひよりたちは、準優勝の賞品でもらった大名エビと、自分たちの作った『がんす』を並べて、波止場でささやかなお祝いパーティーを開いていた。
「いやぁ〜、優勝は逃したけど、準優勝で銀貨五十枚もおエビ様ももらえたけぇ、大満足じゃね!」
ひよりが揚げたての『がんす』を口に放り込む。サクッという音が心地よく夕空に響いた。
「ふぁぁ……やっぱりうちとみんなで作った『がんす』が一番美味しいわぁ」
昭和レトロなトタン湯たんぽの「ぬくもり」が、ポカポカとした温かさでひよりの足を温めてくれている。
『ひより様、私めもひより様の笑顔が見られて、胸がいっぱいでございます』
「ぬくもり、ありがとね。みんなもお疲れ様!」
天球儀のステラが綺麗な星の光を夜空に打ち上げ、みんなの笑顔を優しく照らし出した。
ひよりは、机に向かい、松煙墨でパパとママへの日記を静かに書き始めた。
【ひよりの日記】
パパ、ママへ。
美食祭でみんなと『がんす』を作って出したよ!
凄いシェフの人たちがいっぱいおったけど、なんと「準優勝」になれたんよ!
審査員の人らも「ぶち美味しい」って全部食べてくれて嬉しかったわぁ。
呉の味は異世界でも大人気じゃったよ!
ひよりより
「ふふ……明日もポルトーの街で、みんなと楽しく過ごそうかいね」
故郷の味と付喪神たちの絆を再確認したひよりは、波止場の優しい潮風を感じながら、満開の笑顔を浮かべるのだった。




