第10話 こどもの日 主役となるは 菖蒲かな①
——五月五日。都内某所のショッピングモールにて。
梛は一人の少女に振り回されていた。
背まで流れる明るい茶髪は、緩やかに波打っている。その美しさをより一層引き立たせるように、鋭くも眩しい少女の双眸は、いつも以上に光り輝いていた。
オフショルダーの白いブラウスに黒のチュールスカートという装いも、まるで彼女のために誂えたかのようによく似合っている。
「ねえねえ、梛くん梛くん。これなんて似合うんじゃないかなー?」
言いながら、その少女——小鳥遊綾芽は、店に並んだポロシャツを一枚手に取って、梛の身体に軽く押し当てた。
「おー、やっぱ似合うねー! つーぎーはー……これとかどうかな?」
綾芽は満足そうに頷くと、梛の返事など待つことなく、隣に掛かっていた別のシャツを手に取り、今度はそちらを梛へ当ててみせる。
「ほおほお、なるほどなるほど……うん、これもいいね! さてさてお次は……っと」
「あのー……」
と、楽しそうに服を選び続ける綾芽に、梛は恐る恐る声をかけた。
「ん? どしたの、梛くん。……はっ! さては、お姉さんが適当に選んでると思ってるなー?」
「え、いや、そうじゃなくて……」
「もー、梛くんのお洋服なんだから、真面目に選ぶに決まってるでしょー。お姉さん泣いちゃうぞー?」
梛の弁明を聞こうともせず、綾芽はぐいぐいと梛の頬に指でつつきながら、しつこく迫ってくる。
いったい、どうしてこんな目に遭っているのか——もとい、なぜ綾芽と二人きりで服を選んでいるのか。
言うまでもないことだが、もちろんその元凶は、こうして酔っ払いのようにダル絡みしてくる綾芽である。




