7:外から見える「わたくし」は
「……なるほど。流石は慧眼のクルード様。わたくしの浅慮な芝居など、とうに見抜かれておられましたか」
「──ほう? なぜそのように振舞う? なぜ耐え忍んでいる? 嫁いだ娘とはいえ、おまえの才が消え失せたわけではない。ダルネスごとき、いくらでも説き伏せられるはずだ」
「……人は皆、哀れなものに心を寄せたいのです」
言われ、端的に答えた。
穏やかに、かつゆったりと放った鋭利な棘に、クルードが驚き目を見開く中。リュネットは静かな笑みを湛えて云う。
「憧れ・羨望・悪意・憐憫……。
人が他人に心を寄せる理由はいくつかございますが、その中でも、「弱く可哀そうなもの」は人の心を奪います。もちろん、加減が過ぎれば嫌悪の対象になり得ますが、わたくしの場合はどうでしょう?」
言いながら思い出すのは、屋敷の人間たちの顔や態度。
日々繰り返される理不尽な行為に、ダルネスに忠誠を誓った執事が寝返った。日和見だった召使いが気をかけてきた。
「哀れ」が集まってきている。
それが、「現状」。
「一方的になじられ、侮辱を受けています。
このような場合、十中八九、人々は弱き者に加担する。弱き者の前では、自分が「救いの手を差し伸べる善人」で居られますから。
──わたくしは、「それを誘っているだけ」ですわ」
「ほう……」
明かした本性に返ってきたのは感嘆の音。
静かなる高揚を押さえ見射る先、クルードは愉快だと言わんばかりに顎をさする。
「つまらぬ女では無いようだな」
「あら。お褒め頂けるのですか? 光栄です、ふふ」
策略と策略が交錯する空間に、咲き誇るは共鳴の花。
腹の内の探り合いの最中見つけた共通点は、ふたりの距離を縮めるには十分だった。
「気に入った。『薄笑いの蛇』『菩薩の淑女』の噂に、飛んだ偽善女かと思っていたが……本性はそれか」
「まあ。本性だなんて。「立ち回り」です」
「──ふ、ははは!」
愉悦に頬杖をつき、クルードが笑った。
その声には言い知れぬ興奮が混じっており、まるで「こちら側の人間だ」と言うようだった。
そして彼は前のめりに肘をつくと、紺碧の瞳を光らせリュネットに笑いかけ、述べるのである。
「おまえの目は濁っていない。今も野心を燃やしているな? ダルネスの仕打ちをどう返してやろうか、そう企てている目だ」
「さあ。どうでしょうね」
ここで返すは「蛇能面」。
わざとはぐらかし、曖昧な返事を返すリュネットの挑戦的な姿勢に──
「食えぬ女だ、ふ、はははっ!」
再び笑うクルード。
その笑いはまるで彼女を許容し認めたようで。
リュネットも意識せず口の端を緩めていた。
……考えを見せすぎたかと思ったが、そうではないのかもしれない。クルード伯爵の腹の内は掴み切れぬが、自分に対して興味を持ったのは間違いない。
後ろ盾も援軍もなにもない中、彼という人間は、この状況を打破する切り札になり得るかもしれない──……
そんな思惑を微笑みに隠し、わざとほころびを見せる彼女の前で。笑いを納めた彼は、ふぅ、と息を整えると、至極真面目な顔つきで述べたのである。
「──どうだろう? ダルネス子爵夫人……いや、リュネット殿。私に力を貸してはくれないだろうか?」
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クルード・フォン・プレニウス伯爵(26)
プレニウス領を納める大貴族。
カルディア王国の騎士団長。
性格は武骨で近寄りがたい。話し方も固い。
敬虔なカルディス教信徒。
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