6:発破をかけるのですか?
「──おまえ、いつまでその皮を被り続けるつもりだ」
低く鋭い声が、談話室の空気を変えた。
その一言に、リュネットは目を見開き、瞬時にその場を計りにかけた。
(どう返すべきかしら)
刹那、頭の中で算段が弾け飛ぶ。
だが、次に飛び込んで来た、それを許さぬかのような紺碧の瞳に、息を呑んでしまった。
クルード・フォン・プレニウス伯爵の威圧が凄まじい。
彼は微動だにせず、冷たくも鋭い目つきでリュネットを見据えている。
ほんの些細な動き、視線の揺らぎさえも見逃すまいとするその眼差しは、まるで剣を構えた騎士のようで、何か言えば、容赦なく真実を抉られてしまうだろう。
そんなクルードに気圧され、頬をかすかに強張らせるリュネットの視界の隅で、ショーンが一歩身を引いた、瞬間。
「かのサルペント商会がダルネスの手に落ちたのは存じている」
響いたクルード伯爵の声には、抑えた怒気が滲んでいた。
「ダルネス卿の婚姻にまつわる醜聞も耳にしている。それだけの悲劇に見舞われておきながら――おまえから感じるのは、『作り物めいた悲壮感』だ」
まるで刃のように鋭い言葉。
彼女は視線をそらさず問い返す。
「何をおっしゃりたいのでしょう?」
「おまえの知恵を奪い、意志を折るような環境にあったのなら、それは哀れなことだ。だが、俺にはそう見えない」
「……」
「……まるで、自らを『悲劇』で飾り立てようとしているように見える。違うか?」
「……あら。お見通しですのね」
気迫漂う詰問に、リュネットが返したのは、あっさりとした肯定だった。
そうだ。演技だ。
すべて作りものだ。
それを見破られたことなど無かったが、彼にはバレている。
ここで隠すのは得策ではないだろうと判断し、ほほ笑むリュネットに、クルードの瞳が光った。
「……ほう?」
愉悦を交えて眉を上げる彼。
先ほどとは一変、鋭い詮索の中に僅かな興味を放つ彼は、にやりと笑うと、自身の頬を触りながら口を開け、
「……認めるのか。悲壮の笑顔で同情を誘うか、もしくは怒り出すと踏んでいたのだが……違っていたようだな」
「随分と試されたものですね」
「……クルード様にその口利き……!」
ショーンが怒りを交えて割り込んだ。
しかし、クルードは彼を制するように片手を挙げ、笑みすら浮かべると、
「ショーン。構わん。俺は彼女の真意を知りたいのだ」
「……真意、ですか?」
それに返したのはリュネットだった。
先を促すリュネットに、クルードはひとつ、じっとりと頷くと、思案するように腕を組み、
「おまえがダルネスに嫁ぐ前から、おまえの話は聞き及んでいた。『非常に聡い娘だ』とな」
静かな物言いに心が揺れた。
彼は「私」を知っている。
そんなリュネットの前、彼は上質なソファーで続きを語る。
「あれは4年前か。あのサルペント商会の大市にて、わずか13歳のおまえが取引の場に同席し、交渉を見事に納めた」
彼が語る思い出話に、また。
リュネットの瞳が僅かに揺れた。
「『難攻不落の大旦那』と呼ばれていたレインベル卿を説き伏せ、多額の融資まで引き出した。それも、わずか半刻で」
述べるクルードは証拠を並べ立てるような迫力を放ち、リュネットを射抜き続ける。
「商談に同席していた貴族たちは、その場でおまえに一目置いたと聞く。『幼さを感じさせる娘ではなく、場を制する交渉人そのものだった』と。しかし、それがどうだ?」
クルードの声が、ぐんと低くなる。
そこに滲む、明らかな怒りの色。
「ダルネスの元に嫁いでからというもの、哀れな噂しか聞こえない。腑に落ちない」
──それはまるで、悔しいと言わんばかりの色で。
リュネットは一瞬視線を下げた。
『おまえはそんな女ではないだろう』
無言の問いが胸を打つ。
迷う瞳が、クルードに惹かれて上がる。
本質を表せと言われているような感覚に、リュネットは小さく息を吐き、静かに目を閉じた。
──これは騙せません。
きっと彼は、わたくしに似ているのでしょう。
ただの挑発ではありません。
確信を以って述べていらっしゃる──……
それは、”経験と思考がなせる業。
己で見、考え、導き出した答えへの信頼──
──ふう……
数秒の葛藤。
迷いを晴らすように、リュネットは小さく息をついた。
それは、諦めか、それとも同調か。
リュネットはそれまで浮かべていた「悲壮に満ちた」笑みを一変。
きりりとした眼差しで彼を見据え、冷徹で策略的な笑みでゆるりと唇を開くと、悪戯のばれた子どものように手を開くと、




