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58:ざまあざまぁ、はい、バカ~~~、今どんな気持ち? ねえどんな気持ち?






 ナルシアの投獄を見届けて。

 そそくさと裏の森のボロ小屋周辺に逃げこみ、思いっきり疲れた声を上げたのは、リュネット・サルペント──ではなく、ネネ・ヴィスカル。リュネットの付き人で、オルセリア出身の女である。



 リュネットの装いをしているにもかかわらず、ぺたんと若草に座り込んだ彼女。

 そんな彼女に、どこからどう見てもクルードの顔で眉を寄せるのはショーンだ。



 「文句を言うなよ、ネネ。お仕えするのがオレたちの仕事だろ」


 

 言いながらさくさくと鎧を脱ぎ始める彼に頬を膨らまし、ネネはぷちんと自分の髪を引き抜き、《解除》する。


 途端、頭の上から「外見」が変わり剥がれ消えていく。

 ぱらぱらと光の粉となり宙に溶け、「ネネ」が姿を現した。




 ──そう。先ほど盗賊を迎え撃ったのはこの二人だ。

 リュネット・クルードの二人は少数精鋭の護衛と共に、日が昇ると同時に城を出た。今頃はオルセリアの手前──カルダ村付近に着く頃だろう。


 そんなお二人を想像して、ネネは「はぁ」とため息ひとつ。

 思いっきり背を丸め足を抱え、半ばぼうっとした眼差しでその辺を眺めつつ、



「……アタシが変身魔法使えたからいいものの……。じゃなかったらどうしてたんだろ?」

「クルード様は戦術に長けている。なんとかしただろうさ」



 こちらには目もくれず、さらりと述べたショーンに、ネネはむぅっと頬を膨らませる。



 そもそも今回の作戦については寝耳に水だったのだ。

 先日いきなり部屋に呼ばれたと思ったら「おまえは魔法が使えるそうだな。変容魔法があると聞く。使えるか」と聞かれ、意気揚々とドヤ顔で披露したのが運の尽き。ほぼ強制的に戦場にinである。無茶苦茶だ。



 ショーンはクルードに着いて戦場も訓練も受けて来ただろうが、自分は箱入り娘のリュネットのお付きだ。戦場になど出向いたことがない。


 役に立たないどころか完全お荷物なのだが、『二人を一度に変容させられるほど』の魔力と技術を持ち合わせていたのは自分だけだったようで──断ることなど出来なかったのである。



 もちろん、使用人で侍女のネネに拒否権など無いし、リュネットのためならやるのだが、それでも「いきなりすぎる」という念と、「戦場怖い」という気持ちは拭えなかった。




 結果、クルードに扮して堂々指揮を執るショーンの隣で、リュネットの姿でぴったりぺったりひっつき、ビビりまくりの内心を殺し続けるしかできなかった。


 巻き込まれた感が凄かった。

 リュネット様のためとはいえ、結構な貧乏くじを引かされた気分である。

 ──加えて。



「しかもさぁ、ショーン。ナルシアのやつ、グレードアップしてたよね~……」



 思い返してげんなりげっそり呟くネネ。


 ──そう。

 ナルシアの罵声を聞いたのもこの二人だ。

 あの頃の優美なナルシアは見る影もなく、絵に描いたような盗賊頭の女化していたナルシアが、捕縛されながらもギャンギャン騒いでいたのを一身に受けた。



 それも織り込み済みで引き受けた(るしかなかった)のだが、ナルシアの悪色豊かな罵詈雑言を思い出してくらっとする。

 


 あんなもの、いくら自分にぶつけられても「代理です」としか言いようがないし、

(っていうか『悲劇のお姫様ぶって』とか言われてもな~~~……)



 そもそも身代わりである。

 眉を下げて黙るしかない。



「……まあ今なら言うけどね、『ざまあざまぁ、はい、バカ~~~、今どんな気持ち? ねえどんな気持ち?』って。あの姿で云えるわけじゃないじゃん、ねえ、ショーン」

「──もう。どうでもいいよ、これでやっと終わったんだ」




 ──愚痴りまくるネネが顔を向けると、ショーンは……晴れやかな顔で身支度にいそしんでいた。


 そこから伝わる、彼の清々しい思い。

 ──彼にとっては、これで本当に終わったのだ。

 実の姉の、サラの仇。

 ダルネスとナルシア、どちらも無事に捕らえることができた。

 報復は終了だ。 




 ──ふふ。

 そんな思いを浮かべるショーンの横顔に、ひとつ。

 ネネはくすりと笑みを浮かべると、その場に座りながら両手で頬杖をして、



「……ともあれ、これでお二人とも無事に着くといいね、ショーン」



 そう、これで終わったのだ。

 あとはのろのろ屋敷に帰り、主人の帰宅まで悠々と過ごせる──……と、考えが過った直後。



「何言ってるんだ、追いかけるぞ」

「え?」


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