49:聖女のお触れ 4
それを口に出せず、ただ胸の痛みを殺すクルードの視界の隅で。
ネネが目を丸くして声を上げた。
「え! リュネット様にお声がかかったの!?」
「おい、ネネ!」
「お二人は恋仲なりたてホヤホヤきゅんきゅんなのに!?」
「おい!」
「クルード様、夜も眠れないほど好きなのに!?」
「お」
「リュネット様も早く禊終えてラブラブしたいと思ってるのに!?」
「ちょ」
「そんなことってある!? 可哀そう!!」
「ネネ!!!」
ネネの口から次々と暴露される言葉に、クルードは完全に硬直していた。
「夜も眠れないほど好き」「早く禊を終えたい」──そのフレーズが頭の中で堂々巡りを始め、羞恥と困惑がじわじわと押し寄せる。
だが、そんなクルードの心情などお構いなしに、ショーンとネネはあるじを差し置き口を開く!
「オマ、オマエ……! 何を暴露しているんだ!」
「だぁってぇ。お二人両想いなのに、しばらく引き裂かれちゃうかもしれないってことでしょ? だいっすきなのに! だいっすきなんだよ!? スキスキ愛してるんだよ!?」
「ちょ、おい!」
「こんなの歴史に残っちゃう! あとで小説になっちゃうよ!」
「……」
ネネの展開論に、クルードは、こめかみを押さえて深くため息をついた。
恥ずかしい、ただただ恥ずかしい。
こんなふうに見られていたとは思わなかった。
ネネの述べたことは事実だが、口には出さずに居たし、態度にも出していなかったのに。
バレていたことに背中を熱くしながら、この状況を止める気力のないクルードの隣、応戦しているのはショーンだ。黙り込む自分の前で、慌ててネネに顔を向けると、
「ネネ、オマ、……あのなあ!! そういうところ直せよ! 旦那様のまえだぞ!」
「これがアタシのいいところっ! はああ、もお~! かわいそーだし、じれったい! だってこのお二人、ダルネスの婚姻契約は終わってるのに、バカ真面目に禊守ってキスどまりだよ!? 早く欲望に任せてがっ……んぐっ……」
「黙れ、ネネ!」
ようやくショーンがネネの口を手で塞ぎ、必死にその場を収めようとする。
ネネは依然もがいているが、ショーンは冷静だ。
険しく眉を寄せたまま、勢いよく頭を下げると、
「──クルード様。この馬鹿がすみません。よく言い聞かせますので」
「………………いや、いい。下がれ、ショーン。礼を言う」
沈痛な面持ちでネネの口を塞ぐショーンに、クルードは疲れた声で首を振った。
ネネが引きずられて退室していくのを把握しながら、ひとりになった部屋の隅で、肺の底から息を吐いた。
参った。
ネネの暴露は、彼の潜在意識を刺激した。
そうだ。
──俺は彼女を愛している。
早く本当の意味で自分のものにしたい。
婚約を成婚にし、妻として迎え入れ、確固たるものとしたい。
彼女が隣でほほ笑む未来を創り上げていきたい。
誰にも渡したくない。
それが例え、聖堂であろうが何だろうが、だ。
それがまだ叶わぬこの状況で、降って現れた聖女選別は。
──彼にとって、荘厳な邪魔者でしかなかった。




