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48:聖女のお触れ 3





 急に話を戻したクルードに、ネネは若干戸惑うように頬を掻いたが、すぐに続きを話してくれた。



「……えっと……聖堂の中のことや教会まわりのことは、一般人は知るすべを持ちません。聖女様のお勤めも、使命も、我々にはよくわからないんです」

「聖女の勤めや功績は世に知らしめられ、神格化されているのではないか?」


「ウウン……神格化……している……というか……」

「されていないのか?」

「イエ、『神格化といえば神格化』……になるのかな……って感じで……」



 濁すネネに真剣なまなざしで問う。

 自分が今、余裕もなく食いついているのは解っていたが、それどころではなかった。ネネには申し訳ないと思いつつ聞き入るクルードに、ネネは語る。



「えと。我々にとって聖女様は、『感謝と祈りの象徴』ですね。カルデウス神とはまた違い、『日々、健康と豊穣のお礼を祈る相手』といいますか……」

「聖女は神に仕え、婚姻するわけではないのか?」

「カルデウス様と婚姻!?」




 当たり前の問いかけに、素っ頓狂な声が返り、今度はクルードが目を見開いた。


 おかしなことを言ったつもりはない。

 ──しかし、ネネの反応は違う。

 一瞬の沈黙を置いて首を振りまくると、




「さっ、さすがにそれは、聖女さまといえどもおこがましくないですか? カルデウス様が人間の女なんて欲しがりますかね~? 離縁も不貞も禁止されてる神様ですよ? 愛する人を大切にされてると思います!」 

「……」

「あ! たぶん! たぶんですよ!? たぶん! おそらく! わかんないですけど!」




 ──慌ててブンブン首を振り、予防線を張るネネに、クルードは腕を組んで口を閉ざした。



 隣でショーンが「ネネ。キミ……情報が曖昧過ぎないか」とにじり寄り、「わかんないことをさも確定項のよーに伝える方が問題でしょ。ショーンのいしあたま」と返しているのを視界の隅に、情報を整理する。





 ──ネネのおかげで、先ほどの焦燥感と怒りは収まった。


 『聖女』という響きだけで早合点し、教会に怒り散らかしていた自分を恥じる。

 しかしながら、教会の仕組みや聖女の役割が明確になったわけではない。

 ただ今、わかったのは『神に身を捧げるわけではない』・『聖女は感謝と祈りの象徴』ということだけだ。


 


 ──おそらく、ネネからこれ以上の情報は出ないだろう。

 現に今も、詰め寄るショーンに「わかんないもん」「知らないもん」と首を振っている。



 それより、ネネが魔導使いだということのほうが利点だと考えるクルードの、意識の外から。

 簡単に投げるような声色で、ネネの言葉は届いてきたのだ。




「でもクルード様。明確には解りませんが、聖女様のお力でオルセリアが平穏なのは間違いないです」

「なぜ言い切れる?」



 述べた彼女に顔を上げた。

 紺碧の瞳を丸め聞くクルードに、穏やかな返事は返ってくる。



「言い伝えがあるんです。『オリセリアの民が病魔にやられないのは、聖女様の祈りの賜物だ」って」

「………………」


 ──『祈りの』、『賜物』。


 その単語に、クルードは表情を鋭く曇らせた。



 街の安寧が聖女の祈りのたまものならば、やはり聖女の役割は大きいのだ。神に人生を捧げすらしないようだが、それなりの制約や禊はあるはず。

 リュネットが聖女として堂々と『選ばれし者』になるのは誇らしいが、彼女を聖女に選ばれてしまうことで、自分たちの未来はどうなるのか──。



 その懸念を掬い上げるかのように。

 呟いたショーンの懸念が、部屋に響き解ける。



「……やはり、リュネット様が聖女に選ばれたら、この婚姻は……」

「…………」




 ──そうだ。

 焦点はそこだ。

 

 クルードはあの日、リュネットに惚れた。

 心の底から欲しいと願った。

 そのために、自分の私怨も使い彼女に取り入った。

 ダルネスへの恨みがいつしか、リュネットに近づく手段の一つに変わっていたと気づいたのはついこの間のことだ。


 城内がこんな状態だから、彼女を堂々と妻として迎え入れることができないだけで、今すぐにでも婚姻を結び、傍で愛を注ぎたいのに──


 それを口に出せず、ただ胸の痛みを殺すクルードの視界の隅で。

 ネネが目を丸くして声を上げた。




「え! リュネット様にお声がかかったの!?」

「おい、ネネ」



 驚くネネに、ショーンが素早く言葉を挟む。

 ──が。



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