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42/68

42:投獄




「──しかしクルード様、いつまでも閉じ込めてなどおけませんよね?」

「無論だ。いつまでも奴らに踊らされてたまるか」



 問いかけに短く答えた。

 いつまでもこの茶番に付き合うつもりはない。



「賊を一匹捕らえたと聞く。洗いざらい吐かせる。平行し噂を封じ、リュネットの潔白をみなに知らしめる方法を考える」

「……それならきっと、大丈夫ですわ」




 リュネットの声は穏やかでありながら、どこか確信を帯びていた。


 『何がどう大丈夫なのだ』

 クルードがそう聞く前に、彼女は凛とした声で云い放つ。






「────発芽の時です」

「……リュネット? ……うん? なんだ?」



 述べたその意図が読めず、顔を向けるクルードに、リュネットは覚悟の瞳を向けると、




「クルード様。街に下る際は、どうかわたくしの似顔絵をお持ちください。……きっと、力になってくれるでしょう」

「……似顔絵?」




 意表を突かれたクルードは、思わず聞き返す。



 一体、似顔絵が何の役に立つ?


  頭の中で疑念が渦を巻く。

 だが、リュネットは動じることなく、まるで確信を持っているかのように手を重ね、静かに瞳を閉じて述べるのである。




「──天におわしますカルデウスよ、我にご加護を与えたまえ」




 その凛とした声は静かに部屋の空気を換えた。




 張りつめていた空気は僅かに和らぎ、澄み渡るようで──

 クルードとショーンが思わず顔を見合わせ頷いた。





 ここが潮目だ。

 そう、確信しながら。









 ヒトはみな、見たいように見、言いたいように言い、聞きたいように聞く。

 真実などはどうでもよく、自分の感性・快楽に忠実に、その物事を捉える。


 ヒトは哀れで矮小なのだ。




 リュネットの投獄から二日が経った。



 街には「先の盗賊騒ぎの黒幕、リュネットを投獄した」という布告がなされて一日。プレニウス城内は、針のむしろと化していた。



 遠くから聞こえてくる囁き、噂、嘲笑、憶測。

 それらは毒のようにじわじわと、クルードの神経を蝕み、逆撫でていく。




 「捕らえた賊は「リュネットに聞け」、そればかりらしいぞ」

 「クルードさまは騙されているのよ」

 「さっさと処断すればいいのに」



 「でも、昨日も来たらしいじゃん、賊」

 「リュネット様を助けに来るわけでもないのね」

 「リュネット様自体が騙されてる説ある?」



 「何も投獄することないのに……」

 「私は彼女、何もしてないと思うのよ」

 「近寄りがたい空気はあるけど、庭のクロッカスを丁寧に花摘みしていたわ」

 「庭師がリュネットさんに褒められて嬉しかったって言ってたなあ」



 「我が城主は正常だった」

 「阿呆じゃなくてよかった。女に溺れてなどいなかった」

 「慧眼のクルードは健在だった!」




 ヒトはみな、見たいように見、言いたいように言い、聞きたいように聞く。



 自分の感性・信念に忠実に、その物事を捉える。



 リュネットの潔白を確信しているからこそ、クルードにとっては、耳に入るすべての声が癇に障っていた。





 ──なぜ、誰も事実を見ようとしない?

 無責任な憶測で誰かを貶め、いい気になっている彼らが心底忌々しい。



 冷静を保とうとしても胸中で燃える怒りが簡単には収まらない。

 それでも表には出さない。


 武力に出たら「制裁」だ。

 権力奮えば「暴君」だ。


 そうあってはならない。

 プレニウス領を護らねばならないのだ。




 それがたとえ、愛する人をを攻撃する毒だとしても。




 何を言われようと何を囁かれようと、毅然とした態度を貫くしかない。


 


 彼女が牢で過ごす夜。


 クルードは城内の警備状況を再確認し、指示を出し続けた。

 賊を捕らえたとの報告はあったが、まだ気を緩められる状況ではない。

 リュネットを守るために、そしてこの陰謀を暴くために、すべての手を尽くす──。



 夜が明けるまでの数時間、気を抜くことなく考え続けた。

 そして迎えた翌朝。



 いつもと違うざわめきが城内を走り抜けたのである。





「クルード様! 民が門の前に集まっています!」



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