42:投獄
「──しかしクルード様、いつまでも閉じ込めてなどおけませんよね?」
「無論だ。いつまでも奴らに踊らされてたまるか」
問いかけに短く答えた。
いつまでもこの茶番に付き合うつもりはない。
「賊を一匹捕らえたと聞く。洗いざらい吐かせる。平行し噂を封じ、リュネットの潔白をみなに知らしめる方法を考える」
「……それならきっと、大丈夫ですわ」
リュネットの声は穏やかでありながら、どこか確信を帯びていた。
『何がどう大丈夫なのだ』
クルードがそう聞く前に、彼女は凛とした声で云い放つ。
「────発芽の時です」
「……リュネット? ……うん? なんだ?」
述べたその意図が読めず、顔を向けるクルードに、リュネットは覚悟の瞳を向けると、
「クルード様。街に下る際は、どうかわたくしの似顔絵をお持ちください。……きっと、力になってくれるでしょう」
「……似顔絵?」
意表を突かれたクルードは、思わず聞き返す。
一体、似顔絵が何の役に立つ?
頭の中で疑念が渦を巻く。
だが、リュネットは動じることなく、まるで確信を持っているかのように手を重ね、静かに瞳を閉じて述べるのである。
「──天におわしますカルデウスよ、我にご加護を与えたまえ」
その凛とした声は静かに部屋の空気を換えた。
張りつめていた空気は僅かに和らぎ、澄み渡るようで──
クルードとショーンが思わず顔を見合わせ頷いた。
ここが潮目だ。
そう、確信しながら。
■
ヒトはみな、見たいように見、言いたいように言い、聞きたいように聞く。
真実などはどうでもよく、自分の感性・快楽に忠実に、その物事を捉える。
ヒトは哀れで矮小なのだ。
リュネットの投獄から二日が経った。
街には「先の盗賊騒ぎの黒幕、リュネットを投獄した」という布告がなされて一日。プレニウス城内は、針のむしろと化していた。
遠くから聞こえてくる囁き、噂、嘲笑、憶測。
それらは毒のようにじわじわと、クルードの神経を蝕み、逆撫でていく。
「捕らえた賊は「リュネットに聞け」、そればかりらしいぞ」
「クルードさまは騙されているのよ」
「さっさと処断すればいいのに」
「でも、昨日も来たらしいじゃん、賊」
「リュネット様を助けに来るわけでもないのね」
「リュネット様自体が騙されてる説ある?」
「何も投獄することないのに……」
「私は彼女、何もしてないと思うのよ」
「近寄りがたい空気はあるけど、庭のクロッカスを丁寧に花摘みしていたわ」
「庭師がリュネットさんに褒められて嬉しかったって言ってたなあ」
「我が城主は正常だった」
「阿呆じゃなくてよかった。女に溺れてなどいなかった」
「慧眼のクルードは健在だった!」
ヒトはみな、見たいように見、言いたいように言い、聞きたいように聞く。
自分の感性・信念に忠実に、その物事を捉える。
リュネットの潔白を確信しているからこそ、クルードにとっては、耳に入るすべての声が癇に障っていた。
──なぜ、誰も事実を見ようとしない?
無責任な憶測で誰かを貶め、いい気になっている彼らが心底忌々しい。
冷静を保とうとしても胸中で燃える怒りが簡単には収まらない。
それでも表には出さない。
武力に出たら「制裁」だ。
権力奮えば「暴君」だ。
そうあってはならない。
プレニウス領を護らねばならないのだ。
それがたとえ、愛する人をを攻撃する毒だとしても。
何を言われようと何を囁かれようと、毅然とした態度を貫くしかない。
彼女が牢で過ごす夜。
クルードは城内の警備状況を再確認し、指示を出し続けた。
賊を捕らえたとの報告はあったが、まだ気を緩められる状況ではない。
リュネットを守るために、そしてこの陰謀を暴くために、すべての手を尽くす──。
夜が明けるまでの数時間、気を抜くことなく考え続けた。
そして迎えた翌朝。
いつもと違うざわめきが城内を走り抜けたのである。
「クルード様! 民が門の前に集まっています!」




