41:投獄
「見世物になれ、ということですね?」
賊の出現を耳にして、クルードが取った策は、妻を牢に入れること。
民の留飲を下げるためとはいえ非道なやり方に、ショーンは激しく首を振った。
しかしリュネットが述べたのは、拒否でもなく、懇願でもなく、冷静な理解。
自分の胸に手を当て、毅然と述べるリュネットに、クルードは重々しく頭を垂れた。
「……………………………………すまない」
「いいえ、それが最善でしょう」
「リュネット様……!?」
悲壮どころか冷静に受け止め促した彼女に、ショーンが驚き顔を向ける。
しかし彼女は平静なのだ。
凛と背を伸ばし、両手を揃えて口を開くと、
「恐らく城内は、わたくしを連れて来たクルード様に不満を持っている者・クルード様の判断に不安を抱いている者・そして日和見のどれかに分かれているはずです」
述べるリュネットの声には、一切の迷いがない。
むしろ、その瞳は冷静に、かつ狡猾にモノを運ぶ色を宿している。
不安の色は消え去り、宿る輝きは、まるで戦場で策を巡らせる司令官のような鋭さで──
そんな彼女にクルードは瞳の力を取り戻し、ショーンは少しばかり慄いた。
彼女は言う。
深い紫色の瞳に、したたかな戦略の色を乗せて。
「わたくしを牢に入れることで、『伯爵は恋人に誑かされているわけではない』・『恋人相手でも毅然と判断する頼れる城主』と感じる者が出るはず。城内の空気は分散するでしょう」
「「…………」」
聞く二人が思い出すのは・出会った時のリュネットだ。
あの時もこうして、淡々と、そして水を得た魚のように論理を重ねた。
こちらに来て成りを潜めていたように見えたが──それは、健在だった。
彼女は変わらぬ口調で述べる。
「中にはそれすら穿った見方をする者もいるでしょうが、極めて少数。必要なのは、冷血な決断力と、有無を言わさぬ実行力です」
「…………」
リュネットの言葉に、クルードは短く息を吐いた。
──本当に、この女は賢い。
それが寂しさにもなり得るのだが、今はただ頼もしい。
ここで、悲しいと泣かれてみろ。
酷い、と傷つき首を振られてみろ。
やりきれない。
そんな思いを胸の奥に。
クルードはニヤリと笑い彼女に返す。
「…………リュネット。おまえ自らそれを言うとは」
「あら、ふふふ。ご存じでしょう?」
「──ああ。俺が惚れた『聡い女だ』」
冗談めかして返すリュネットの微笑に、クルードは挑戦的な笑みで返した。
救われた。
救われたが複雑だ。
見せかけとはいえ、惚れた女を投獄しなければならない。
身の安全や警備の視点から考えても投獄は最適な手段だが、心が進まないのは確かなのである。
しかしやるしかない。
そう腹に決め、腕を組んだままため息をついた時。
視界の隅に動く影ひとつ。
ひらりと動くドレスの裾に導かれ目をあげれば、見透かしたような、リュネットの淡い微笑みがあった。
「ええ。わたくしは大人しく、牢に籠ります。クルード様? その時はどうか、加減なさらないよう」
「……「それも」言うのか。……まったく、簡単に言ってくれる」
くぎを刺すように述べる彼女に、クルードは苦々しく呟いた。
まったく、惚れた女とはいえ、末恐ろしいやつである。
ここ数日の騒ぎに加え、追い打ちをかけるようなこの一件。
さすがに心を傷め狼狽するかと思いきや、彼女はどこまでも冷静だった。
その強さが危うくも感じるが、何があろうとも動じず、逆境においても策を巡らせ自らを武器とするその姿勢は、敬意と同時に愛おしくも感じられてしまうのだ。
「……おまえという女は、本当に侮れん」
苦笑いで呟いて、脳の裏で『相当だな』と呟く。
彼女が脅威に感じたのはこれで2度目だ。
それを愛しく感じるなど、あの時は無かった。
心の底から好きなのだ。
「脅威」も、愛らしいと感じてしまうぐらい。
そんな女がここまで覚悟を決めている。
ならばこちらも、万全を期して事を運ばなければならない。
手を緩めることは許されない。
ぐっと唇に力を込めて。
次の一手をどう打つか考えを巡らせるクルードの隣で、沈黙していたショーンが声を上げた。




