表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/68

41:投獄






「見世物になれ、ということですね?」




 賊の出現を耳にして、クルードが取った策は、妻を牢に入れること。

 民の留飲を下げるためとはいえ非道なやり方に、ショーンは激しく首を振った。


 しかしリュネットが述べたのは、拒否でもなく、懇願でもなく、冷静な理解。


 自分の胸に手を当て、毅然と述べるリュネットに、クルードは重々しく頭を垂れた。

  




「……………………………………すまない」

「いいえ、それが最善でしょう」

「リュネット様……!?」



 悲壮どころか冷静に受け止め促した彼女に、ショーンが驚き顔を向ける。

 しかし彼女は平静なのだ。

 凛と背を伸ばし、両手を揃えて口を開くと、





「恐らく城内は、わたくしを連れて来たクルード様に不満を持っている者・クルード様の判断に不安を抱いている者・そして日和見のどれかに分かれているはずです」



 述べるリュネットの声には、一切の迷いがない。


 むしろ、その瞳は冷静に、かつ狡猾にモノを運ぶ色を宿している。

 不安の色は消え去り、宿る輝きは、まるで戦場で策を巡らせる司令官のような鋭さで──



 そんな彼女にクルードは瞳の力を取り戻し、ショーンは少しばかり慄いた。




 彼女は言う。

 深い紫色の瞳に、したたかな戦略の色を乗せて。




「わたくしを牢に入れることで、『伯爵は恋人に誑かされているわけではない』・『恋人相手でも毅然と判断する頼れる城主』と感じる者が出るはず。城内の空気は分散するでしょう」

「「…………」」


 聞く二人が思い出すのは・出会った時のリュネットだ。

 あの時もこうして、淡々と、そして水を得た魚のように論理を重ねた。

 こちらに来て成りを潜めていたように見えたが──それは、健在だった。

 彼女は変わらぬ口調で述べる。

 


「中にはそれすら穿った見方をする者もいるでしょうが、極めて少数。必要なのは、冷血な決断力と、有無を言わさぬ実行力です」

「…………」



 リュネットの言葉に、クルードは短く息を吐いた。



 ──本当に、この女は賢い。

 それが寂しさにもなり得るのだが、今はただ頼もしい。



 ここで、悲しいと泣かれてみろ。

 酷い、と傷つき首を振られてみろ。

 

 やりきれない。



 そんな思いを胸の奥に。

 クルードはニヤリと笑い彼女に返す。



「…………リュネット。おまえ自らそれを言うとは」

「あら、ふふふ。ご存じでしょう?」

「──ああ。俺が惚れた『聡い女だ』」




 冗談めかして返すリュネットの微笑に、クルードは挑戦的な笑みで返した。



 救われた。

 救われたが複雑だ。



 見せかけとはいえ、惚れた女を投獄しなければならない。

 身の安全や警備の視点から考えても投獄は最適な手段だが、心が進まないのは確かなのである。



 しかしやるしかない。



 そう腹に決め、腕を組んだままため息をついた時。

 視界の隅に動く影ひとつ。

 ひらりと動くドレスの裾に導かれ目をあげれば、見透かしたような、リュネットの淡い微笑みがあった。




「ええ。わたくしは大人しく、牢に籠ります。クルード様? その時はどうか、加減なさらないよう」

「……「それも」言うのか。……まったく、簡単に言ってくれる」




 くぎを刺すように述べる彼女に、クルードは苦々しく呟いた。



 まったく、惚れた女とはいえ、末恐ろしいやつである。

 ここ数日の騒ぎに加え、追い打ちをかけるようなこの一件。

 さすがに心を傷め狼狽するかと思いきや、彼女はどこまでも冷静だった。



 その強さが危うくも感じるが、何があろうとも動じず、逆境においても策を巡らせ自らを武器とするその姿勢は、敬意と同時に愛おしくも感じられてしまうのだ。





「……おまえという女は、本当に侮れん」


 

 苦笑いで呟いて、脳の裏で『相当だな』と呟く。

 

 彼女が脅威に感じたのはこれで2度目だ。

 それを愛しく感じるなど、あの時は無かった。



 心の底から好きなのだ。

 「脅威」も、愛らしいと感じてしまうぐらい。



 そんな女がここまで覚悟を決めている。



 ならばこちらも、万全を期して事を運ばなければならない。

 手を緩めることは許されない。



 ぐっと唇に力を込めて。


 次の一手をどう打つか考えを巡らせるクルードの隣で、沈黙していたショーンが声を上げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ