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38:気持ちだけでは超えられない 2




「……すまん。おまえを責めたいわけではない。どうしたら伝わる?」




 静かに響いた声には、戸惑いが滲んていた。

 そっと距離を詰め、リュネットの顔を覗き込むように見る。



 深い紫の瞳が不安気に揺らめき、その美しさに、クルードは思わず息を呑んだ。

 不謹慎だとは思ったが、そんなことよりも先に胸に湧き上がるのは──



 彼女を守りたいという衝動だ。






 愛らしい。

 なんと可愛らしいのだろう。


 不安げな顔に申し訳なさが沸くと同時、吹き出すのは衝動的な欲だ。

 守りたい、愛したい、誰にも渡したくない。



 衝動的に腕を引いた。

 細い手首に驚きを覚えながらも、素早く彼女を腕の中に閉じ込めた。



 「え……!?」と小さく漏れた戸惑いの声ごと。




 細い腕、柔らかな体。

 さらりとした髪、小さな肩。

 どうしたらこの存在を護り切れるだろう。

 どうしたらこの思いを伝えられるだろう。



 抱きしめて、閉じ込めてしまいたいと思うほど想っているのに、どうしたら伝えられるのだろう。




「……クルード、さま……?」

 彼女の小さな囁きが、炎の揺らめきに溶け込む。 




 ──顔が見たい。 

 そんな衝動に駆られ、クルードは肩を押して距離を取る。




 目に飛び込んできたのは、戸惑うように視線を落とす顔。

 しかしその瞳には、隠しきれない期待の光が宿っているのを、クルードは見逃さなかった。


 

 彼女を護りたいと思う気持ちと、どう言葉にすればいいかわからないもどかしさが胸を掻き立てる。

 今まで剣ひとつで戦い抜いてきた男には、今の胸の内を伝える術を知らなかった。




 しかし、今この瞬間。

 どうしても彼女の不安を拭いたい。


 

 それはほんの一瞬、彼の中で理性が葛藤を起こした。

 『夜の部屋の中。二人きり。お前は理性を保てるのか』と、理性と本能がせめぎ合う。




 しかしそれ以上に

 深紫の瞳の奥、揺らめく期待と柔らかな唇に──衝動が勝った。




 気が付けば、両手で彼女の頬を包み、口づけていた。

 柔らかな感触に、彼女の小さな喉音が返ってくる。

 慣れない動きに戸惑いながら応え返す彼女のキスに、胸の奥が震え・高鳴る。




 ああ、やはり彼女が好きだ。

 愛している。

 守りたい、守り抜く。




 そう思いを込めて、クルードはさらに口づけた。

 優しく、静かに、そして──深く。




 腕の中、強張っていた肩の力が抜けていく。

 次第と、とろんと寄りかかる彼女は、腕の中で溶け込んでいくようで、それがさらに愛おしい。



 永遠のような一瞬。

 思わず微睡む酩酊感に余韻を感じながら唇を離して見つめるのは、愛するリュネットの微笑みだ。

 頬に薄紅色が差し、瞳は先ほどまでの不安を忘れたように、ほんのりと、潤んでいる。





 クルードは静かに彼女の肩を抱き寄せた。


 まだ小さな身体だ。だが、その中に秘められた決意と優しさを思うと、思いは更に強くなる。



「……傍にいてくれ、リュネット。他の言葉など気にすることなく、俺のそばに」




 噛みしめるように伝えたそれに、返ってきたのは小さな震え混じりの息と、ほんの少し肩に預けられた重み。



 無言のまま静かに胸に顔を埋めるリュネットが可愛らしい。

 見下ろすまつ毛が美しい。




 甘えてくれている。



 気丈な彼女が、自分に心を赦してくれている。

 無防備な彼女が、たまらなく愛しくてたまらない。






「……ありがとうございます、クルードさま……」

「何を、言っている」




 囁くような礼に、クルードはゆっくりと後ろ頭を撫でた。

 そこには、先ほどまでの硬さはなく、ただ、安らぎと愛おしさだけが宿っていた。













 ──翌朝。

 飛び込んできた知らせに、場内は一気にざわめいた。

 城下のラプレニアに、賊が現れ物資を奪って行ったというのだ。


 やつらは声を揃えて述べたという。


「「リュネット・サルペントさまのめいにより! 貴様らの富を戴く!」」




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