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33:付きまとう烙印 2



(くだらん……『妻売り』がなんだというのだ)




 胸の内に渦巻く。

 怒りとも苛立ちともつかない感情がぐらぐらと。


 

 彼女のこともその事情も知らずに、烙印ごときで口々にモノを言う周りが腹立たしい。

 さも気遣いができているかのように述べてくるエディルが気に食わない。



 彼は氷山の一角で、使用人のほとんどが否定的なのは解っている。

 エディルがこちらのことを慮り進言したのも解っている。



 わかっているが、腹が立つ。




(リュネットは裏切られたのだ。尊厳を踏みにじられ、すべてを奪われた。それなのに……まだ傷つける者がいるのか)





 手の中の酒杯がわずかに震えた。

 強く握りしめた拳が語るのは、彼女への想いと、湧き上がる苛立ちだ。



 傷つけたくない。

 彼女の笑顔を奪うようなことは、誰にもさせない。



 だが……



 やはり現実はそうやすやすと運んでくれない。

 噂が流れ始めた以上、周囲の者たちも皆が理解を示すとは限らない。



 怒りに任せて剣を振るうこともできるが、それでは何も解決しない。

 彼女自身が後ろめたく感じていることを、声高に説明するわけにもいかない。



 クルードは深く息を吐いた。

 そして、決めた。




(──根源を叩く。誰か知らんが、首を洗って待っていろ)



 クルードは、酒杯を力強く置き立ち上がった。

 その紺碧の瞳に宿すのは、決意の炎。


 月明かりが差し込む中、クルードの影が冷たい石の床に深く映り込む。

 その影は、覚悟を決めた男の姿そのものだった。











「……ここで黙っているだけではいけませんね。」





 プレニウス領・ラプレニアに佇む別邸の一室。

 分厚い本をぱたんと閉じて、リュネットは静かに顔を上げて呟いた。



 クルードの部屋でナルシアの生存を聞いてから、数日。

 その間、あの日感じた違和感は確実なものになり、リュネット本人も『烙印の話が漏れた』と、否応なしに気づいた。


 

 城の人間の目も変わった。

 遠巻きに、ひそひそ。

 露骨に嫌な顔をする人間も居る。

 遠慮がちに苦笑いでやり過ごそうとする人間も居る。

 無遠慮な視線の槍が痛い。



 「伯爵の妻候補」ということで、ナルシアのような侮辱を与えてくるものさえいないが、これはこれで、心地がいいとは言えない。


 

 むしろ、先々のことを考えて、リュネットも動かねばならないと考えていた。


 「噂の出どころはどこなのか」とか、「ネネか、ショーンか、あの場にいた誰かか」とか。

 疑いを駆ければきりがないが、彼女はそこに時間を割いても仕方ないと判断した。




 だから彼女は街へ出る。

 向かうのは城下街、ラプレニアに佇む礼拝堂。 



 ──種を埋めるのです、綺麗な花が咲くように。










リュネットがラプレニアの礼拝堂へ通うようになってから、二か月の時間が過ぎた。


 クルードは依然、噂の出所を探してくれているのだが、調査は難航していた。

 情報がどこから広がり始めたのか、誰の口から洩れたのか。

 個々の会話が連鎖して広がっているせいで、情報の発信源が見えないのだ。



 それでも何とか意見を照らし合わせ、目星をつけた男は、東の森で変わり果てた姿となって発見された。手詰まりである。



 自分以上に噂の広がりに敏感になっているクルードに申し訳なさと気持ちを感じつつ、リュネットは城下町へと通い続けた。

 種を植えるためだ。







 城内に比べて、街は平穏そのものだった。





 初めは、ご挨拶から。


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