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22:不思議ですわね?




「……神への冒涜が許されるとでも思っているのか?」



 声を上げたのはひとりの店主。

 その低く重みのある声に、全員の視線が集まり、そして弾けた。



「カルデウス神を裏切ったおめえに、誰が金なんか払うか!」

「背信行為で家庭を汚し、領を支える我らを愚弄するとは!」



 別の店主が声を上げる。

 それを皮切りに、次々と怒りの声が広がる。



「お前たちのような輩に、我らの大切なものを預けられると思うか!」

「恥を知れ! 領主どころか人間としての資格すらない!」



 次第に怒声は増え、収拾がつかないほどに膨れ上がる。ダルネスとナルシアは次第に後ずさり、顔面蒼白となった。



「まて!まて! なぜお前ら庶民が不貞行為(それ)を知っている……!? ナルシア(かのじょ)はただの侍女だ! 決してそんな、痴れ(もの)ではない!」


「嘘つくんじゃねえ!」

「知ってんだぞ馬鹿野郎!」

「『見せつけた』んだってなあ!!」

「不貞を隠すならまだしも晒すとは、何考えてんだバカ領主!」

「「──な……!?」」



 ダルネス・ナルシア声が重なる。

 ぐるりと歪み蘇る、『自分たちの行い』。

 確かに『見せつけた』。



 妻の前で行う行為は最高に高揚し、何度もむさぼり合ったのを忘れたわけではない。


 しかしそれは、リュネットの前でしか行っていないのに!


 この女、この女……!



「リュネット!! 貴様、まさか……!?」

「──あら。あんなものを見せたのはダルネスさまではありませんか」





 恥と怒りで真っ赤に染まるダルネスに、リュネットは顔色一つ変えずに一瞥をくれると、



「『夫の行為』など見せられて、わたくしが黙って暮らすと思われていたようですね。舐められたものです。わたくし、あのような痴態を見せつけられ、許せるほどの器量はございません」


「貴様あああああああああ! 言いふらしやがったな!? ヒトの皮を被った悪魔め!!」

「まさか! 言いふらすだなんて下品な行いは致しません。……ただ──、わたくしは、《神に聞いていただいていただけ》です」




 棘を宿して、にっこりと微笑むリュネット。




 そう。

 彼女は毎日、足しげく通った礼拝堂にて、『懺悔』を繰り返したのだ。




 「神よ、夫に裏切られ、誓いを護れぬ私をお許しください」「夫は若き女に夢中で、私のことなど見向きも致しません」「目の前で情事にいそしむ夫らを、私はどのように許せばよかったのでしょう?」「ああ、神よ、お導きを。若き妻に、まるで赤子のように甘え行為を行う夫を、それに戸惑う妻を、どうか、どうか」



 

 懺悔室の向こう側には、人がいる。



 日々当番制で代わる彼らに、リュネットは毎日それらを聞かせたのである。




 当然、抱えきれぬそのネタは、懺悔室を起点に町中に知れ渡っていった。




 そもそも。

 娯楽に飢えた民草にとって、『子爵の性趣向および浮気女の性癖』など、格好の娯楽である。まるでオーガの首を取ったかのような勢いで回りまわったことは言うまでもない。







 リュネットは、それらを知っていたが、素知らぬ顔で白を切る。




 彼女は空を仰ぎ、静かに手を組んで微笑むと、あたかも不思議そうに首を傾げて述べるのだ。




「不思議ですわね。神にお導きを頂いておりましただけですのに。町中に知れ渡って。これも神の悪戯でしょうか?」


「きっ……貴様! ふざけるな! このダルネスに恥をかかせやがって!! 死刑だ! 極刑だ! 売り飛ばすなど生ぬるい! 貴様、地獄に落としてやる!」


「……寝言は寝て言え、ダルネス子爵」

「……プ、プレニウス卿……!?」



 広場全体が一瞬で凍りついた。

 舞台隅から、威厳に満ちた足音と共に現れたのは、クルード・フォン・プレニウス伯爵。

 その姿はまるで一閃の刃のごとく。

 民衆はざわめきをあげながらも、鋭い視線と凛とした佇まいに飲まれ、誰も声を上げられなかった。



 ゆっくりと舞台へ歩みを進めるクルード。

 


 カツン、カツン、カツン。




「ダルネス・ドル・キルスティン子爵。貴様がネラ地区の販路を使い、ヴィハン帝国へ武器を流していたこと。そして、それにより利益を得ていた事実は既に調査済みだ。それが国王陛下への背信であると解っていての行いだろう? 答えろ、子爵」



 その冷厳な声には一切の隙がなく、反論の余地すら与えない。



「領地を守るどころか、己の欲に溺れ国を裏切った貴様の行いは断じて許されるものではない。神と国王陛下の名の下に、相応の裁きを受けてもらおう」

「……ッ!」




 ダルネスは目を見開き、口を震わせた。

 その顔には恐怖と怒り、そして追い詰められた者特有の焦燥が浮かび上がる。




 そんな彼を尻目に、民衆は一斉にクルードを見上げ、その圧倒的な存在感に息を呑む中。



「やぁん、プレニウス様ぁ~!」



 場違いな甘えた声が場に響いた。

 ナルシアだ。

 まるで状況を理解していないかのように身をくねらせ、クルードに向かって駆け寄ると、



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