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21:さあ、私の妻を買うものはいないか!








「さあ! この私、ダルネスの女を買うものは居ないか!」



 柔らかく降り注ぐ陽の元、ダルネス・キルスティン子爵の意気揚々とした声は、広場に響いた。連れられた妻・リュネットの表情は冷静を落としたように動かない。


 白銀の髪・神秘を宿したような、深き紫の瞳に宿る、覚悟の色。


 沸き立つ熱気・耳に届く噂話。

 集まる好機の視線・蔑みの眼差し。

 ざわめいていた群衆がぴたりと止んだ。

 水を打ったように静まり返った広場を一望し、ダルネスはもう一度声を張る。



「なに、遠慮することはない! 子爵であるわたしの御墨付きだぞ!」

「誰も手すら上げないなんてぇ、リュネット様かわいそぅ~」


 『これで自由になれる! ほら、手を挙げろ愚民ども!』と言わんばかりのダルネス。その腕に絡みつくナルシアの、嘲笑を帯びた笑みが厭らしく光った。


 しかし、集められた主たちは動かない。

 その目線だけが冷たくダルネスたちを射抜く。



 ダルネスの額にうっすら汗が滲む。


 なんだこれは。

「どうした! お前たちにとって、絶好の機会だぞ!」

 声を荒げる。が、その言葉は虚空に消えていくばかり。



 何かがおかしい!

 そう感じはするが理由がわからない。

 妻の競売など、いつもは大盛り上がりのはずだ。

 男どもが好色の目で女を見定め、嬉々として金を出すのが普通じゃないのか!



 ──そう、瞳を動転させるダルネスの隣、見かねたナルシアが愛想笑いで声を投げる。



「皆さん、遠慮なさらずに!」


 発した声は中途半端に裏返っていた。


 ナルシアとて、ここでリュネットに買い手がつかないのはマズい。彼女を売った金で支払いを済ませる算段なのだ。そのつもりで高価なドレスを仕立てたというのに。



 その焦りは、ナルシアの口から「失言」となって飛び出していく。



「この女、サルペント商会の元娘よ!? ほらぁ! 庶民じゃ到底手が出ない女を売ってやろうッて言うんだから、っていうかなんで黙ってるのよ!? なんなのよこの空気!」

「「「…………」」」


 壇上の中央で、騒ぎ立てるはダルネスとナルシアのみ。

 店主たちは眉一つ動かさず、じっとナルシアを見つめている。

 その空気に気づき、ようやくナルシアは青ざめた。



(なに? なに? なに? この空気は何?)と混乱のナルシアの隣で、ぼそっとダルネスの声がする。「……待て、この顔ぶれ、見覚えが……」


 喉から絞り出したような呟きが、凍てつく空気に溶けた時。

 その静寂を破ったのは、広場後方に立つ一人の老店主だった。


「……神への冒涜が許されるとでも思っているのか?」



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